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ケンちゃん、ワルになる

作者: 高谷 氷理
掲載日:2013/03/27

「決めたぜジョウ! 俺は今日から善人を止める」


幼馴染のケンちゃんがそういって地味だった髪型を派手なリーゼントにしたことに僕は驚いていた


「…ケンちゃん。どういうことなんだい、それは?」


「憎まれっ子世に憚るって言う言葉があるだろ? 俺はラクに生きるためにワルになるのさ」


彼の眼差しは悲しみの決意に満ちていて説得は難しそうだと思った

それでも僕は聞かずに入られなかった。彼の変遷の理由を

そして、どういった事情であの虫の殺さないようなケンちゃんがこんな決断をしたのかが気になったのだ


「君は、あんなに他人に優しかったのにどうしてさ?」


「それがよ…昨日だけでお婆ちゃんの荷物を持って行ったら歩道橋から転げ落ちる、餌をやろうとした子犬に指を噛まれるわ

コンビニ前で財布落として拾いに向かったらなくなってるわ…犬のウンコ踏んで転んだと思った直後にカラスの糞が頭に落ちてくるわ……」


「うわぁ…それはちょっとツイてないよねぇ。いや、付いてるのかな?」


「その前にも居候させていたショウの野郎がへそくりを持ち逃げしてトンズラするわ、従兄弟の息子が塗装したガンプラ破壊するわ

妹が実家の貯金丸々パクってチャラ男と駆け落ちするわ…旧友のトオルが新興宗教の勧誘に来て玄関先で六時間ほど信心の素晴らしさがどうとか折伏してくるわ…

今までみんな俺が親切にしてやった奴じゃねぇか! こんな現実文字通りクソ塗れのクソ喰らえだ!! 何で俺がこんな目にあわなくちゃならない?」


「ちょっと下ネタは止めた方が…このサイト中高生の方も見に来ているようだし……」


「うるせぇ、さっきジョウも何か言ったろうが! それにメタ事情で話を脱線させるな。俺は真剣に話してるんだぞ!!」


壮絶な親友の過去を聞いて僕はめまいがしそうになった。そりゃ大変だ

僕だってケンちゃんのような目にあったら間違いなくグレるかもしれない。八割以上の確立で、多分

更に、彼は怒りをぶつけるようにさらに弁舌を振るう――――


「とにかく、世の中で上手い汁を吸っているのは悪人なんだ

悪質なやらせ企画にゴーサインを出すテレビ局の社長やら、天下り先を増やす官僚や、公約を守ろうとしないで増税だけはきっちりする政治家だって悪人なんだ!

それだけじゃない。生活保護を受けている外国人や、無課税を悪用して金儲けに走る宗教団体の教祖……どれもこれも悪人じゃないか!

真に勝ち組なのは他人を騙して金や信頼を勝ち取る悪人よ! 俺は今日からビッグなワルになってやるぜよ!!!」


「社会派だねぇ…で、東京にサリンでも撒くのかい?」


「いや…人が死ぬのはまずい。それにだ、大きな悪事をするまえにもまずは小さいことの積み重ねが大事なんだ」


「で…何をするの?」


「まずは油性マジックで郵便ポストに落書きをする。次はトンネルの内壁にスプレーで落書きだっ!」


「…………なんだそりゃ?」


彼は自信満々に言うが、余りにもしょぼすぎるケンちゃんの【悪事】に僕はずっこけそうになる

そんな事で本当に彼が【ワル】になれるのかははなただ疑問ばかり浮かぶ

時代錯誤なリーゼントや小学生の悪戯じみた悪事やら方向性を間違えている気がしないでもないのだが、あえて口には出さない

それに生まれ変わる友人の門出を祝ってやるというのが、親友というものだろうから口は出さなかった


「じゃあな! 次に会ったとき俺は最悪のワルになってるから話しかけるんじゃねーぞ。達者でな!」


「ふーん…ま、頑張ってね」


堂々と大手を振って僕の前から立ち去ろうとするケンちゃんの前に僕は本当に彼が【ワル】になれるのかと心配になってしまう

唐突に目の前にボールが転がってきた。それを追いかける幼稚園位の男の子がボールを追って道路に飛び出す

そして、向こう側からは車が迫ってきた。僕は走ったがここからじゃ届かない

ダメか…。そう諦めかけた内に走って来たケンちゃんが子供を抱えて道路から脱出すると

すんでのタイミングで大型車が一瞬前まで二人の居た空間を走り去っていた。あと少し遅ければ子供もケンちゃんも危なかったかもしれない


「おっとあぶねぇ!」


「わ! ありがとうおにいちゃん」


「今度から気をつけて遊ぶんだぞ。親や周りの人に迷惑をかけない立派な大人になるんだぞ!」


「うん…わかった!」


可愛らしい子供が手を振ってケンちゃんの前から走り去っていく

そんな姿を僕もケンちゃんも微笑ましそうな視線で見守っていた


「なぁ、ジョウ。純粋な子供っていいよなぁ…」


「いきなりどうしたんだい、ケンちゃん? 昼に何か変なものでも食べてお腹を下したの?」


ケンちゃんはくしゃくしゃと似合わなかったリーゼントを解し、僕の見慣れた普通の髪形に戻す

そして僕に向けてきた笑顔は憑き物が落ちたかのような晴れやかなものだった


「俺…やっぱりワルになるの止めるわ」


彼がそう言った後に、僕は今度こそ本当にずっこけてしまうのであった

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― 新着の感想 ―
[一言] 児童文学みたいな感じでいいと思いました。 これからも執筆活動を頑張ってください。へきへき。
2013/03/28 12:46 退会済み
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