第二話 出会い ―encounter―
「てやぁ!」
魔獣の塊の中心には少女がいた。さらに、その小柄な身体には似つかわしくない大型の両手剣を振り回している。
「はぁ!」
甲高い声で勇敢に魔獣へ切り掛かっていくが、数が違いすぎた。
「はぁ……はぁ……」
除々に押される少女。剣を構え直したその瞬間、後ろにいた魔獣が少女へ腕を振り下ろした。
「!?」
少女は振り返り、自分に向かって振り下ろされる腕を見つめた。
「くっ!」
少女に魔獣の腕が当たるか当たらないかの瞬間、少女から見る世界が回った。何事か理解しようと、自分を抱き抱える人物を見た。
「低級魔獣か……」
少女を両腕に抱えている人物は小さくつぶやくと、近づいてきた魔獣を一匹蹴り飛ばした。
「あ、あの……」
少女は抱かれながら声を出した。その人物はその声に反応した。
「ここなら大丈夫だろう」
おもむろに少女を降ろした。
「ありがとうございます」
少女はぺこりと頭を下げた。しかし、目の前に立つ青年はそれを無視した。
「低級魔獣だけか」
青年は背中に付けた大剣の柄に手を掛けた。すぐに紐が消え、大剣を覆っていた帯が消えて、青年は大剣を片手で構える。
「……面倒だな」
青年は少女をかばうように立ち、襲い来る魔獣達を睨み付けた。
「あの、お名前は?」
「ジーク」
唐突に尋ねてきた少女に、短く答えるジーク。少女は剣を握り直すと、ジークの隣に並んだ。
「私はニーナです。私も戦います!」
ジークは驚き、ニーナという少女の顔を見た。
「……仕方ない。自分の身くらいは守れるな?」
ジークが尋ねると、少女は軽くうなずいた。
「ねえエミリー、あっちのほうから何か聞こえてこない?」
ダイアンが金髪の女性の方を向いて尋ねた。
「馬鹿っ! それどころじゃないでしょ!」
エミリーと呼ばれた女性はダイアンに向かって叫んだ。
エミリーの言う通り、離れた所の音を気にしていられるほどの状況ではなかった。
何十匹にも及ぶ魔獣たちが、牙をむき出しにしてダイアン達を囲んでいる。ダイアンとエミリーは背中合わせに立ち、それぞれ戦闘態勢を取っている。
「で、どうするの?」
エミリーが背中にいるダイアンに尋ねた。ダイアンは微笑みで返した。
「はぁ……やるしかないわけね」
面倒臭そうにつぶやくと、視線を魔獣達に戻した。
「あ、エミリーは休んでてもいいよ。これくらいなら僕にも出来るから」
ダイアンはそう言って両手を上に向けて伸ばした。すると上空に光の雲が現われ、たちまちに大きくなった。
「ソードレイン!」
ダイアンが明るく高めの声で言うと、光の雲から、白く輝く剣が魔獣達目がけて降り注ぐ。それはまるで光の雨が降り注いでいるかのように幻想的な風景だった。
「完了〜♪ はやくジークやハルバードと合流しよ」
ダイアンはそう言ってニッコリと笑い、歩きだした。エミリーは倒れている魔獣達を見回すと、ダイアンを追い掛けた。
「はぁ……はぁ……信じられない……」
ニーナは地面に尻餅を付き、小さくつぶやいた。
「あれだけの魔獣を、一人で、しかもこんな短時間で……」
ニーナの見つめる先には、ジークただ一人が立っていた。
ジークは無言で剣を背中に戻し、ニーナへ歩み寄った。目の前まで来たジークに対し、少し怯えた様子で縮こまった。
「……」
ジークはその様子を見て、一度深く目を瞑り、そのまま後ろを向いて歩きだした。
「おーい! ジークー!」
ちょうどその時、ハルバートがジークの正面から走ってきた。
「どうだった」
自分の目の前で止まったハルバートにジークは尋ねた。
「うーんダメダメ。みーんな死んじゃってた」
ハルバートは少しだけ悲しそうに言うと、すぐに笑顔に戻った。
「……そうか」
ジークは冷たく言い放つと歩き始めた。ハルバートがその後に続く。
「あ、あの……」
その後ろ姿にニーナが声を掛ける。二人は立ち止まり、ハルバートだけが振り返った。
「ありがとう、ございました」
二人に聞こえるか聞こえないかの声で言った。ジークは何も言わずに、再び歩き始めた。
「あ、ジークゥ〜」
ダイアンはジークの姿を見つけると、微笑みながら手を振った。その様子は外見に似合わず、幼さを伴っていた。
「どうだった」
ジークがダイアンに尋ねた。ダイアンは首を横に振った。
「そうか……。帰るぞ」
ジークは表情一つ変えずに言い放つと、馬車に向かって行った。三人もジークに続いた。
その四人の背中を静かに見送るニーナ。
〜SEE YOU NEXT〜