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⑨事の顛末Ⅰ

『成人映画』に主演女優としてデビューを果たした裕子。


常務の肝煎りで制作され社運を賭けた『成人映画』はヒットした。


脚本脚色がよいできばえであったこと。


女優陽子が演じた"女子高生"は熱演であった。18禁の枠を遥かに凌駕して評判になる。


ただ…


"18歳お断り"カテゴリーはなかなか世間体に受け入れられはしない。


いや強い拒否反応を示してしまった。


普通にある映画館で憧れの女優の扱いとなることはなくである。


映画のできばえが良であろうが不可であろうが


世間の厳しい評価は免れえない。


成人映画の女優はそれなりの奇異な目でみられてしまうのであった。


映画の宣伝プロフィールには女子大生の陽子とクレジットをされている。


大学名はないはずであったが…


リーンリーン


映画が上映され評判を呼んでいた矢先であった。


女子大の理事長に匿名の電話がかかってくる。受けたのは秘書である。


「理事長にどのようなご用件でございますか。申し訳ございませんが」


どこの誰か名前も役職も名乗らない男であった。


「でございますが…」


匿名の電話。そのまま警察に通報をしてしまいたいのである。


無礼な男は秘書の拒否に構わなかった。


アダルト女優は女子大にいるのか。そちらの女子大生は全員が全員とも『成人映画』に出るような節だらな女ばかりか。


「あまり失礼を言いますと警察に連絡をいたします!」


ピシャリ


強気で拒否をしてみる。どういう嫌がらせかわからない。


ただ女子大という女の園にはかなりこの手のイタズラがある。


「ああっ警察?好きなだけしてくれ。俺の見たAV(成人映画)におまえの大学が出ていたぞ。お嬢様の学生がアダルトとはけしからんじゃあないか」


女子大生がアダルトに出演していた?


成人映画でウチの女子大生を見た?


アダルト女子大生が出演とエンドロール(出演者一覧)で確認した


本校の学生である


"本当のことかっ!"


匿名の男に確認したかった。


本校は中堅どころの女子大である。金銭的に困ってアルバイトで映画に出ても不思議なことはないのである。


「おっしゃることはわかりました。"貴重なご意見"ありがとうございます」


多感な年頃の女子大生である。学業の合間には面白そうだと異色なアルバイトをし体験をしているのかもしれない。


家庭教師や塾の講師は国立大の勉強する学生に任せて接客業や風俗関連に進出をする。


風俗アルバイトなどは深い考えもなくである。


ついつい金銭に目が行き度を越す女子大生がかなりいるのである。


お嬢様は温室育ちであるから大学としては頭の痛いところではある。


ガチャン


秘書は理事長に伝えぬつもりで切ってしまう。


「女子大生がアダルト出演でいいのかって言われても」


大学は幼稚園や小学校の子供じゃあないんだから。


自己責任を取るべきよ


なんとなく気持ち悪い話しと秘書はブルっと震えた。※同じような苦情は直接電話やインターネットで多少はあったのである。


大学は学生のスキャンダルにおおらかなものである。

この程度の風評被害を相手に屈しないのである。


普通の女子大生陽子のまわりが騒がしくなるに従い『成人映画』は評価が高まっていた。


アダルト専門映画館のスクリーンにいる陽子はかわいい女子高生役を見事に演じている。


AVフアンの男性客を魅了しアダルトの陽子を印象づけていた。


陽子の主演女優のはだかはあるが文芸作品の香りも漂うのである。


世代が同じ大学生には18禁止の看板は外してしまいたいくらいである。共感するストーリーは"秀逸(しゅういつ)"だった。

「うんうんなるほど!まずまずの集客だ。出足は好調でホッとしたよ」


秘書が提示する成人映画やAVアダルトの営業資料を見るのである。


「常務さんよろしかったでございますね」


他社の成人作品と比較をしてもまずまずの数字を示してはいた。


「本社の文芸映画なんかよりうんっと客の入りがいいじゃあないかアッハハッ」

ついつい皮肉も出る常務は心底満足げであった。


笑いながらの常務。


子会社の累積赤字の補填数字を見つめてしまう。


「まだ…不足だな…」


何千万円~何億円という天文学的数字はお坊ちゃん育ちにはピンっとこない。


大騒ぎして汗をかくのは顧問の公認会計士の監査だけである。


『成人映画』の興行収益は黒字に転化し常務の財政を潤すことになる。


収益金額は本社制作の文芸映画とは比べようもないところだが。


久し振りの映画興業の成功に気をよくした常務さんである。


「よし!第二弾 第三弾をいこう」


陽子主演で『成人映画』シリーズを勢いよくぶちあげたい。


第一弾が女子高生


第二弾は女子大生


第三弾はOLさん


※常務は単なるスケベ親父ではないか


「本社の監督を呼んでくれ。脚本家はいるのか。二人に会いたい」


はしゃぐ常務の前に秘書がいた。毅然とした態度は女子大で法学を学んだ自負が滲み出ている。


"常務さま。アダルト制作はこれっきりですよ。お坊ちゃんの悪ふざけな趣味に我が社の人間はお付き合いしません"


いくら本社の傍系映画会社だという負い目があれど。

大手映画会社の看板に傷がついてはならない。


いえっ


"アダルト制作専門"に下るはプライドが許さない。


秘書は背筋を伸ばして常務に怒り肩を見せつけた。


「なっなにかね。いきなり怖い顔をして」


秘書は"女の敵"とした成人映画を睨み付ける。


常務は睨まれてしまい一瞬怯んでしまうのである。


お坊ちゃんは争い事や揉め事には弱いのである。


アダルト映画女優としてデビューを飾った陽子は上機嫌なものである。


まず契約書にあった出演料(ギャラ)が振り込まれてきた。


"主演女優"という夢物語にも見ていた肩書きをもらいギャラがいただけたのである。


「ワアッ~嬉しい!常務さんありがとう」


常務の心使いから基本出演料に"+アルファ"が加味されていた。


陽子自身ははだかをビジネスのひとつと考え『成人映画』出演を承諾していた。

そして


はだかを見せるのは一回のみであると常務と出演契約書に取り決めていた。


ゆえに


常務は札束で陽子の頬をひっぱたけば第二弾も出演OKとなると安易に考えていた。


映画撮影が終わっても陽子は普通の女子大生でありキャンパスライフを満喫するのである。


少なくとも陽子本人は…


異変に気がついたのは『成人映画』の上演興行の終わりあたりからである。


女子大の正門あたりに見馴れぬ若者がちらほらっと姿を見せる。


携帯カメラを片手に女子大生を撮影しようかとする。

大学の警備員は女子大生狙いの"痴漢行為"と判断。見つけしだい居なくなるよう注意をした。


「僕は痴漢ではないですよ。こちらに"陽子"が通うってインターネットで見たから」


陽子の在学がバレて押し掛けたという。


陽子の映画フアンがスクリーン映画の中で憧れてくれるのなら構いはしない。


「陽子さんというのですか。たぶん芸名を使うでしょうけど」


大学は警備員や他の在校生が苦情を寄せるので看過できなくなった。

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