⑧女優への道
陽子初主演の『成人映画』は予定どおりクランクアップの日を見る。
スタジオのスタッフ一同や映画会社の営業部宣伝部門も含め試写会がおこなわれた。
「いやあ~感動的だったね。陽子さんは素晴らしい出来だよ。才能がおありだ」
常務はハンカチで目を押さえ陽子に握手を求めた。
敷居の高い映画制作会社が初めて挑んだ「成人映画」は常務の思う通りの青春映画に仕上がっていた。
「私から文句の一文字もない。主演が陽子さんだからこそ。我が社の誇る青春映画だと思う」
手放しで喜びをあらわす常務と制作スタッフたち。
それを尻目に冷ややかな顔つきが営業部門であり宣伝部である。
「映画にシロウトは困るよ。(バカ息子の)常務は単純だぜ。なんでもかんでもロール(映画フィルムの呼称)にしちまえば(収益のあがる)配給と思っていやがる」
あの程度の甘ったれた女子高生の恋で喜んでいるなんて。
アマッチョロなテイストの高校生主役「青春映画」なら日本中いくらでも転がっているさ。
「アダルト(18歳以下禁止)のカテゴリーなんだから。要は金を払って若い女の子の"はだか"を見てやれっということさ」
常務が強調して止まない"青春や文芸"なんて常套句は吹っ飛んでしまうさ。
やっかみは止まらないのである。
映画制作シロウトの常務は先代の息子だから"遊び心"でいる。
営業部は制作費用を社内費から捻出した手前がある。
宣伝広告費をある程度使い興業成功に導かないといけない。
そっと常務のメールボックスに制作費用(3割増し)と宣伝広告費を知らせたのである。
堅物で妥協を許さないことでマスコミに知られる常務が制作した『成人映画』は話題性が高かった。
営業部がファックスを流してみせたらメディアが食いついてくれた。
「あの大手映画会社が手掛けたのか。真面目な文芸作品。時代遅れしか映画化しないのかっと思ったぜ」
宣伝広告ポスターは女子高生役の陽子がクローズアップされ大胆なポーズのスチール。
美形なポスターはカメラマンの腕も手伝い鮮やかな仕上がり。
映画配給は封切りからまずまずの出足である。
結果的に興業収益をみると主演女優である陽子は成功を収めたことになる。
常務は収益の一部を会社の負債額と相殺経理をすることができ陽子様さまであった。
※"はだか"というカテゴリーのアダルトはアタリハズレがないのである。爆発的に収益があがることもないが損益計上までもいかないのである。
「常務さんに喜んでいただき嬉しいですわ。私みたいなシロウト演技で主演をさせていただきありがとうございます」
生まれて初めてまとまったギャラを振り込まれた陽子も有頂天になってしまった。
金銭に関しては女子大生では無理もない。時給いくらの大学生バイトとは雲泥の差である。
映画デビューを華々しく飾った"女優陽子"に次の出演依頼が舞い込む。
"陽子さん。わが社のフィルムで景気よく脱いでくれませんか"(AVアダルト専門)
あちゃあ~