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⑩事の顛末Ⅱ

映画会社の御曹司は先代のひとり息子である。お坊ちゃんとして華よ蝶よっと育て上げられ行き着くところは映画好きの常務取締役である。


先代の社長時代は映画全盛期を迎える。押しも押されぬ一大娯楽が映画であり他の追従を許すこともなかった。


日本芸能界では押しも押されぬ立志伝中の人物である。


映画会社として大手となるも晩年にはヒット作もなくテレビやその他の娯楽に押され斜陽産業となりつつある。


先代亡きあとに会社に息子が残った。それが映画制作に今だにこだわった男である。


御曹司となった常務には夢があった。


巨大な一大スペクタクルな映画を制作すること。


国際的に認めてもらえる文芸なる意欲作品を映画化したいのである。


そのために莫大な資金と強力な後ろ楯スポンサーを得たかった。


スポンサーを得るためには絶対的な人気女優が欲しくなる。


「陽子の出演作品は金になる。あの娘はわが社専属女優として稼いでもらう」


『成人映画』に出演女優となった陽子を常務は拡大解釈してしまう。


はだか=陽子


これがあるからアダルトを見る観客に評判というしだいである。


陽子からアダルトのカテゴリーを無くしたら


"瑞々しいはだか"を奪い取り文芸映画として撮影したら


年端もゆかぬ陽子に溜め息の出る美貌があるわけではない


御機嫌な常務さん。秘書にコーヒーを炒れさせる。


心安くしている会社専属の監督に次なる作品を提案したい。


テレビ制作のディレクターとは次なる「陽子出演の作品」を相談し意見を聞きたい。


陽子というお気に入りに夢見心地な常務さん。この世はいつも春であり制作する映画は常にヒットすると信じるのである。


連絡を頼まれた秘書はやれやれっとロングノーズ(うんざり顔)をしてしまう。

「なにっ常務が呼んでいるって?もう勘弁してくれよ」


会社専属の監督もテレビディレクターも異口同音である。


連絡を受けた秘書に"いい加減にしなさいっ常務!"

「アダルトを続けるつもりなんだろっ。営業収益が芳しいと天狗さんだぞ。あのお坊ちゃんは御目出度いだけだ。まったく困ったよ」


将来がある監督業務にこれ以上傷がつくことはごめん被りたい。


常務はテレビ制作を軽く思っているフシがある。


「勘弁して欲しい。常務にはアダルトに関して会いたくはない」


同族会社たる直系にタテを突いてしまう。


「そんなにアダルトがやりたいなら外注に出せよ。巷にはゴマンとAV監督やAV女優がいるんだからさ」


零細ビデオ制作社ならいくらでも安い単価で飛びついてくる。


"常務に紹介して差し上げましょう"


ここまで部下から酷い皮肉を言われても


ノー天気な常務さまは動じない。


あくまでも陽子を主役に据えて『成人映画』をシリーズ化したい。


「まったくなにを考えていらっしゃるんだ!」


ふたつ返事で断りを出した。


知らせを受けた秘書はあくまでもソフトに事務的に受け応えである。


「常務さまにご連絡いたします」


いつまでもはだかにこだわりで目が醒めない常務。


経営者失格の烙印は先代の社長が甘やかせたツケが息子の成長を堰止めてしまった証しである。


『成人映画』に出演した陽子は功罪半ばとなり女優としてメリットもデメリットも味わうことになる。


「陽子さんの演技力に感服しました。聞けば(アダルト制作は)打ち切りらしいですね」


(本社サイドの方針を確認していた)


わけのわからぬ有象無象のAV(アダルト)制作会社から出演依頼のメールや電話がちょくちょく舞い込む。

AV女優として陽子はモノになると見込まれた。


「アダルトはもうごめん。私は正統派女優を目指していきたいの。もうっ~困ったなあ」


メールを削除しながらため息が出てしまう。


普通にある封切り映画やテレビドラマに出演する女優が陽子の憧れである。


だが広い芸能界ではある。

一度ついた成人映画アダルトなイメージは簡単には払拭できないのである。


「アダルトは嫌っ?」


AV企画は諦め切れない。

「うーんというのは…。わかったぞ!共演者に希望があるわけか。好きなAV男優は誰か。ここで名前を挙げて欲しいな。善処したい」


アダルト出演は条件をつけようじゃあないか。


陽子の好みAV男優によりけりではないか。


「どんな男優さんがいいのかな。筋肉質に力強く抱かれたい。ひ弱な虚弱体質を虐めたいかアッハハ」


陽子はムッとした。


「(アダルト映画は)ヤダッて言っているのに」


AV女優の陽子だろっ。


お高く止まるなっ!


アンダーグラウンドに露骨に言われた。耳を塞ぎたくなる。


「私っほとぼりが覚めるまで映画に出演しません」


せっかく売れっ子女優に漕ぎ着けデビューを飾ったというのに。


AV企画の非常識な連中だけでなく映画やテレビ関係者もガッカリした。


陽子は女優である。女優になれなければ映画には出演をしません!


なに食わぬ顔して女子大に通うのである。


陽子はごく普通の女の子だからである


「あっ陽子さんよ」


ちょっとちょっと


陽子さんがキャンパスにいるわ


あんな映画に出演しても学校にはなに食わぬ顔をしていらっしゃるわ


陽子の耳にゼミの女子大生からの陰口を聞いてしまう。


『成人映画』のデメリットは思ったより深くあった。

女子大の正門にアダルトフアンの男性に待ち伏せをされてしまう。


「陽子さんでしょうか」


陽子にはいきなりの登場にびっくりする。


はにかみながら…


大学生風の男はアダルトで見た陽子のフアンだと告げた。


※劇場版『成人映画』はAVアダルトも制作されていた。


「ああっきっと陽子さんだ」


逢いたい憧れのアイドルに出会ったフアンである。


「スクリーンのままだ。嬉しいなあ。AVを見て…僕は陽子さんのフアンになりました」


すぅ~と男の子の手が伸びてくる。


陽子のフアンを言ったならっ…


フアンの求めに応じてサインか握手をしなくちゃ


次の瞬間である。


「キャア~!」


握手かと思ったら


陽子のかわいらしい胸をギュッとつかむ。


ワアッ~


陽子には男の腕力の苦痛と女の子としての屈辱感が全身を襲う。


ヤッタァ~


男は嬉しいっと万歳しながら逃げてしまう。


陽子は悔し涙が溢れてしまった。


「私はそんなに軽い女の子に見られているの」


胸をつかんだ男は勝ち誇りインターネットでことの経緯を自慢した。


"AV女優"陽子の胸は柔らかい。


「陽子の胸は普通の女の子と違う。男子生徒に揉まれた胸だぜ」


陽子はこのことをきっかけに家に引き籠りがちになる。


常務からの連絡にはもちろん家族からの問いかけにも応じることもなく。

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