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①子役から芸能人

キィ~ンコ~ン


カァ~ンコーン


女子大キャンパスにある古びた教会のチャペルが鳴り響く。


講義が終わると陽子はスクッと教室を出て化粧室へひとっ走りする。


お気に入りポシェットからコンパクトを取り出すと鏡とにらめっこである。


「今日こそは。このオーディションに私は合格する」

合格してスターになるの


講義の最中はいたって眠そうな女子大生陽子だったが今はシャキとしている。


目を三角にして眠気を吹っ飛ばせメイクに精を出すのである。


女子大の化粧室で悪戦苦闘する陽子はどこにもいるお嬢様%"女優になりたい"


陽子は小学から可愛らしい女の子と言われて育てられていた。


キャンパスの個室でこっそり化粧を始める。陽子が見つけた秘密の場所となっていた。


そこにざわざわと演劇部の同僚部員が入ってくる。


ギクッ!?


「あらっ陽子。またまた入念なことですわね」


化粧に精を出す女子大生はデートか接客のアルバイトと相場が決まっていた。


あった!


「そうかっそうだったわね。あなたはオーディションだったわね」


陽子の将来を左右する大事な試練が待っていた。


幼少から陽子は人前に出て歌ったり踊ったりが得意で好きな女の子だった。


短期ながら日舞もかじったこともある。


人前に出て芸能人の真似事が大好きなお嬢さん。それが陽子だった。



「陽子は大人になったらテレビに出るもん。ドラマの女優さんやヒロインさんになってみんなに好かれたいなあ」


物心がつくかつかぬかの幼少から陽子の夢は光り輝いていた。


小学の高学年から陽子は母親に頼み込み子役として芸能プロダクションに所属する。


"将来の女優"への足掛かりを幼心にも見いだしていたのである。


「えへへ。陽子の肩書きは子役タレントさん。ばんばんテレビや映画に出演していくのよ」


オシャマさんな子役が陽子である。


ところが…


子役(~中3)としてはなかなか役に恵まれずじまい。

たまにある子役はコマーシャルやテレビドラマのその他大勢。


頭にリボンを乗っけての可愛らしい女の子のチョイ役でセリフはなかった。


出演の機会がなくとも子役養成所では演技のイロハを陽子に教えていた。


出番を待つリリーフエースの立場が陽子。


歳が来て中学生の少女になると簡単なセリフのある出演が増えていた。


しかし端役を与えられる程度であった。


「いいなあっ。あの女の子はドラマの主役に抜擢されたわ」


陽子は主役になると願う。いつかはピンスポットを全身に浴びる華やかな主役を演じたいと思っていた。


チャームポイントが笑顔にある女の子はホームドラマの主人公の妹役(女子高生)に抜擢された。


体操が得意で柔らかなからだが特徴の女の子はアクション映画の準主役(女子高生)に。


その他女子高生の必要なテレビドラマやコマーシャル。次々とプロダクションから羽ばたいていったのである。


陽子も負けじと映画にテレビに活躍の場を求めていく。


「女子高生は3年しかないわ。今のうちにしっかり売り込みをしておかなくてはいけない」


プロダクションに女子高生役が求められたらいの一番に手を挙げた。


「ハイッ!その役に陽子を選んでください。私ならしっかり演じてみせます」

"将来に女優になる陽子ですから"


積極的な売り込みは生き馬の目を抜く芸能界に必要不可欠な条件であった。


だが…


多忙にして神経質なディレクターは嫌な顔をしてしまう。


「だから!再三言っていますよね!端役の役者さんはプロダクションに頼むことなんです。ドラマの役柄にフィットする役者さんを探していますがスタジオで決める話しではありません」

これ以上クドクドと売り込む(自己PR)のならテレビ局に出入り禁止にするぞ!


「えっ~出入り禁止」


ショボン


陽子は採用を見送られてしまう。


採用されたのは芸能養成所同期の女の子。言わば陽子のライバルであった。


陽子は悔しかった。


「私が…不採用だなんて。なんと屈辱的なこと!」


堪え性のない陽子は女子高生であった。


「あの女の子が抜擢されているなんて」


悔しかった陽子は涙が溢れてしまう。


芸能界に憧れた女の子。子役から芸の道を見出だして着実にステップを踏むかと思いきや。


「えっ~またダメなんですか」


所属プロダクションの一室で陽子ばガッカリしてしまう。


「私っ(テレビドラマの)オーディション落ちてばかりだわ」


自己PRがへたなのか。


まわりからは美女だ可愛い女の子とチヤホヤされてはいるものの。


「やってくる仕事なんてスーパーマーケットのチラシのモデルぐらいじゃあなあ」


写真専属モデルもそれなりの収入があり不満はないがせめて陽子という名前が掲載される仕事が欲しかった。


「陽子ちゃん元気出すんだ。オーディションのひとつやふたりでガッカリするなよ。君にふさわしい役柄がたまたまないだけさ」


スチール写真モデルとして売り出してはどうかとプロダクションの意向があった。


演技指導担当の教官は陽子の素質を見抜き慰めていた。


陽子の三年間。


結果として華の女子高生はちょい役に抜擢されただけ。テレビドラマで主人公の女の子に従うお友達程度であった。


セリフは一言もなし。通行人A~その他大勢の女子高生役が関の山。


「もうっ嫌っ!子役時代の(同期の)女の子は華やかにテレビや映画にデビューしている」


私だけ鳴かず飛ばず!


このプロダクションがいけない。


零細企業ねっここは


嫌気が差すわ。


テレビ出演のオファーがないとカッカした陽子。芸能プロダクションを短気から辞めている。


「バカらしいわ。もう女優をあきらめますわ。大学に進むわ」


この時に芸能界が頭にあらば日芸(日本大学芸術学部)受験である。


「普通の女子大生でいいわ」


怒った勢いで入った学科は英文科だった。


キィンコーンカンコーン


キリスト教会が構内(キャンパス)にある女子大学。

陽子はおとなしく華の女子大生になっていた。


「せっかく大学に入ったんだからなあ。どれかお気に入りのサークルに入って青春を謳歌したいなあ」


大学の部活動はいずれも本格的なもの。女子大学とは言えオリンピックや全日本選手権で名を馳せて活躍をする学生も輩出している。

高校まで芸能活動しかしていない身にこの手のスポーツは無縁な存在で避けて通りすぎたい。


新入生歓迎ムードのキャンパスを歩いてみる。華やかなイメージの陽子には至るところ勧誘の声があった。

テニスサークル


バドミントン


チァリーダー


スポーツ関係には顔を出したが疲れるからスキップしたい。


「女子大生になったんだから。私も彼氏のひとりぐらい欲しいなあっ」


『(男子学生の)大学と合同サークルがあります』


(立て看板がずらりと並ぶ)

男子校の学生と仲良しになりましょう。


およそ女子大学の雰囲気とは程遠かったが


男子学生と仲良しに!


誘い文句に目がいく。


有名大学もちらほら立て看板にはあった。


このあたり陽子もイマドキのお嬢さんであったのかもしれない。


立て看板の羅列を眺めて陽子はサークルを物色してみる。


「こんちわあ~君っ新入生だよね。どう大学の印象は?」


すぐさま声が掛かった。


「サークルは決めたの。やりたいことあるのかな。良かったら僕らのとこに決めてくれないかなあ」


爽やかな口振りで学生が声を掛けてくる。立て看板は華やかなもので楽しみばかりの美辞麗句がオンパレードであった。


「ねぇねぇ。可愛い彼女!サークルは決めたの?」


出店の誘い込みのごとく。

「ワッ~彼女!綺麗な女の子だね。まるで"女優さんみたい"だなあ」


数々お誘い文句が溢れている。その歯の浮くような"番宣"が飛び交う中に陽子の心琴に触れるセリフが飛び出した。


「女優?」


貴女は女優です~


女優が歩いているようだ


つい足がピタリっとなる。

次の瞬間にマバタキが止まりからだが動けなくなった。


「どうかなそこのカワイコチャン。僕らのサークルに参加をして楽しんでくれないか。喜んでくれたらいいなあ。"彼氏"を見つけてナンボが女子大学だよ」


"彼氏"の一言に力を入れてサークル勧誘する。


陽子が振り返ったら女優のワンワードがきれいに消えた。


「あらっ?残念だわ。別に女優とは関係ないわ」


学生は陽子を女優として見てくれたと勘違いである。

「こちらの女子大学はお嬢さんばかりだもの。僕ら理工学部にはおよそ縁がないところなんだ」


女子大という肩書きに憧れてサークルに参加している。


だから陽子には入会参加して欲しい。


なるほど!


口は異様にうまいがダサい感じの学生だった。


女優気取りの陽子


私を女優に見てくれたわっ

うん!


秘かにこの学生は陽子の本心を見透かしてもらえたと喜んだのに。


プライド高き女子大生はガッカリした。


「えっと…。なんだっけ?何か僕の顔についてますかね」


プイッ~


サークル勧誘のオリエンテーションは数日間とある。

陽子はいろいろ見て学生時代を楽しんでみたくなった。


せっかく手に入れた四年間の時間。有意義なサークルを選びたくなった。


『シェークスピアにならないか』


演劇部の立て看板が目に入る。


「演劇部ね」


華やかな衣装を纏い舞台に立つそれは陽子の知的好奇心をくすぐった。


立て看の前にじっとして動きが止まる。


「演劇部ねぇ。大学の中で演じるわけね」


ぶつぶつ独り言を囁き眺める。


陽子は大学生というアマチュアの演劇部という存在を認めつつある。


立て看板の横から女子大生がチラッと顔を出した。


「演劇部はいかがでしょうか。我が校の演劇は歴史と伝統があります」


遊び心いっぱいのサークルと異なり大学公認の部活動は佇まいをただして接しなくてはならないようだ。


「演劇部は伝統ですか」


セリフをしっかり覚えて舞台に立たせれば見栄え鮮やかな"女優"になれるのではないか。


「いかがかしら。なにも私たちは無理やりではなくてよ。舞台練習にいらっしゃいは任意ですわ」


陽子の他に2~3人の新入生が声を掛けられていた。


芸能プロダクションに所属し陽子には演劇部の下稽古など軽く想像がつく。


発声練習からセリフの言い回し。


恐らくだが4年の部長などより数段"芸歴"と舞台の場数は踏みベテランの域である。


「演劇というものが初めてなので。よろしければ見学させてください」(嘘八百!)


劇団員に誘われて舞台練習(リハーサル)に陽子はいってみる。


シェークスピア劇はテレビドラマやプロダクションのオーディションで観ていたし演じてもいた。


(残念ながら落選していたが)オーディション通過のためにジュリエット役の長いセリフも日本語/英語と記憶していた。


プロではないが演劇に関してセミプロ級が陽子だった。


演劇部の舞台袖に陽子は案内された。


そこは女子大や他大学の男子学生が本番さながら寸劇の役柄を演じている。


主役のヒーロー/ヒロインは熱弁を奮い盛んに劇を盛り上げようかとしている。

だが…


熱演する主役の張り切り具合はよくわかるが。


陽子は舞台を唖然とした気持ちで観てしまう。


驚きのあまり大きく開いた口はそのままで動けなくなった。


"幼稚園以下の猿芝居"


"棒読みのセリフ"


子役時代に仕込まれた演技のイロハから程遠いものばかり。


大学生の下手な演技と下世話な立ち回りは長く我慢をして観ていられない。


演技は…


いや演技以前の問題を包括している。ぎこちないだけの縫いぐるみがいるような茶番。


プロダクション所属の子役はもう少しマシなセリフを伝えている。


あまりに酷いと陽子は思う。


数分間熱演を観させてもらう。陽子は気分が悪くなり頭が痛くなった。


「いかがです?演劇部は」

部長は入部しませんかと誘ってくる。


「ええっ私は新入生ですからいろいろサークルをあたってみたいと思います」


陽子は学部と学科を聞かれてしまった。


裕福な家庭に生まれ育ている陽子。祖父・父ともに銀行マンで親戚もそれなりの生活環境である。


地方出身者と違い寝食に心配がないのでアルバイトに繰り出す必要性はなかった。


そんな女子大生陽子が再び"女優"と遭遇。まるで運命の糸に手繰り寄せられるかのごとくである。


「陽子さん!あなたって」

キャンパスで演劇部部員にバッタリ出合う。


「酷いなあ黙っていらっしゃるなんて」


どうやら元・芸能プロダクションがバレたらしい。


「大変失礼をしました。そんな有名な方でしたのね。プロダクション所属されて活躍中でしたのね」


陽子は手を引っ張られてしまい部室へ連行されてしまう。


やれやれ

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