置かれた場所で咲けとは言うが
大根……なかなか無くならないんです(´・ω・`)
5袋ぐらい貰っちゃいました。
そんなところから書き始めてしまいました。
吾輩は猫…………ではない。
私は私。
ごく普通の人間。そう、人間だった。
もうすぐアラサーな女子だが、将来の夢とか見つけられず、色々なアルバイトをしながらの一人暮らしをしていた。
この先もこのままでいいんだろうか。
そんな事を考える夜もあったが、基本的にのんびりしているというか図太いというか鈍いというか……。
まぁ、特に思い悩む事なく生きてきた訳だ。
ちなみにベランダのあるアパートでの一人暮らしだったが、ベランダでプランターを使った家庭菜園とかはしていない。
サボテンをはじめとする観葉植物の鉢植えなんかも育てたりもしていなかった。
彼氏もおらず、恋する相手も、推してる相手も不在。
友人は少しはいたが、アルバイトで疲れ果てて最近はあまり遊んでいなかった。
それでも楽しく生きていて、美味しいものを食べて美味しいと思えるぐらい、まだ人生に絶望はしていなかった。
そんな私なのに、ね……。
──誰へ向けての脳内一人語りかというと、自分自身へだ。
「今日もいい天気だ」
最期に口にしたのはそんな台詞だったと思う。
アパートから出て、アルバイト先へ向かう。
その途中で記憶はぷっつりと途切れている。
次に気付いた時には……。
まっっったく知らない部屋にいた。
最初は何が何だかわからなかった。
頭を動かして周囲を見る事は出来るのに、その場から一歩も動けないどころか手足も動かせないし、喋ろうとしても喋れない。
深呼吸してなんとか落ち着いてから状況を確認すると、どうやら私はほぼ全身を埋められて、頭から上を地面から出されているというワケワカラン状況らしい。
しかも肌に触れる感触から土に埋まってるとわかってしまったという事は、全裸で埋まっているらしい。
不思議と羞恥は感じない。
何故か恐怖もあまりない。どちらかといえば困惑している。
普通に考えればかなりの異常事態だ。
黒塗りの車にでも押し込められて、山奥へ連れてこられたのかと思う状況なのに、視界に入ってくるのは見知らぬ部屋。
まず目に飛び込んでくるのは立派な本棚だ。
漫画本なんかは一冊もなく、洋書なのか日本語ではない文字の書かれた背表紙を持つぶ厚い本が並んでいる。
綺麗に並んだ本から、部屋の主の几帳面さがわかる。
ただの本好きかもしれないけど。
壁一面を覆う本棚の次に目に入るのは重厚な机だ。
色的にはマホガニーというのか、使い込まれた色をしたアンティークな雰囲気の両袖机。
その上には書きかけの書類らしき物とインク壺と羽根ペンという、こちらもアンティークショップが似合いそうな文房具が並ぶ。
部屋の主はアンティーク好きなのかな。
そんな事を呑気に考えて、慌ててぶんぶんと頭を振る。どう考えても落ち着いている場合ではない。
その結果視界に入ったのは、見慣れた髪の色ではなく、鮮やかな緑色。
「へ?」
そう口から出したかったが、やはり声は出なかった。
恐る恐る出来る範囲で周りを見渡す。
見渡した部屋の中は青を基調としたヨーロピアンな雰囲気の壁で四方を囲まれ、床は使い込まれた色のフローリングが敷かれている。
壁を含めて、洋風というか、欧風というのか、とりあえずアンティークでヨーロピアン?
私が思うヨーロピアンなので、本物のヨーロピアンに怒られるかもしれない。
とりあえず、素人な私の目から見ても高そうな調度品のある部屋だ。
そんな部屋を私は窓を背にして少し高い位置から見下ろしていたのだが。
(確かにフローリングで埋まる訳ないとは思ったけど……)
脳内で独りごち、視線を落として足元を見る。
そんな私の足元は土で覆われていて、そこへ私は埋められている。
私は室内で土に埋められている。
理解不能過ぎて思わず脳内で同じ事を繰り返してしまった。
さらに理解不能なのは、いつもなら下を向けばそこそこの大きさの二つの山が見えるはずなのに、今現在そこは真っ平らだ。
肌色もなんだかおかしい。
色白なのがちょっと自慢だったはずの私の肌は、少し橙色がかった白っぽい色へと変わっていて。
まじまじと見下ろした体は、とある根菜にしか見えなかった。
「(私、大根になってない?)」
相変わらず声は出ない。でも口に出したかった。
声に出して整理したかったのだ。
声無き声で呟いた通り、見下ろした私の丸みのある体は色味は違えど大根にしか見えない。
一度顔を上げ…………もとい、視線を上げて部屋を見渡す。
こうして改めて見てみると、部屋の物が大きい。まるで巨人の部屋を見ているようだ。
この場合、私が縮んだせいで大きく見えるんだろう。
先ほど視界に入ってびっくりさせてくれた緑色は、大根な私の頭に生えているであろう葉っぱ部分という事になる。
そこではたと思い出す事がある。
さっきは意識していなかったが、葉っぱ部分が自分の意思で動かせたという事だ。
「(もう一度!)」
気合を入れて、頭に力を入れてみる。
人間してた頃にはほとんど力を入れるなんてした事がない箇所だが、何とかなりそうだ。
自分の頭の上で葉が擦れる音がし、視界の端に緑色が入ってくる。
私とんでもなくすごいんじゃ! と自画自賛しかけ、動く植物って普通に存在していたなと思い至ってスンッと冷静になる。
つまりは私はただの自意識のデカい大根。
視界に入った葉っぱは私の知る大根の葉とは違うようだが、色味からして青首とかの普通の大根ではないみたいだからそこまでおかしくはない。
って、どう考えても一番おかしいのは、なんで私が大根になっているかって話だ。
植物にも感情が〜みたいな研究は聞いた事があるけど、いくらなんでも違うよね、これは。
仮説として思い浮かぶのは、かなり荒唐無稽な話だけれど、死んでしまって転生というやつをしてしまった可能性だ。
人外だとしても、鳥や虫、魚など色んな選択肢がある中で植物、しかも植物の中でも木とか花ではなく大根へ。
生前の行いが悪かったのか、それとも……。
ラノベとかそういう読み物だと転生ってよくある展開だって聞いた事はあるけど、さすがに大根へ転生はないだろう。
私が大根農家だったとか、大根ラブだったらアリなのかもだけど、どちらも私には当てはまらない。
ベランダで家庭菜園もしていないし、観葉植物も枯らす自信しかないので育てていない私と大根の接点はおでんぐらいだ。
なので大根信者で大根へ転生とかではない。
だとしたら、もう一つチラッと聞いた事があるパターンは、その存在を命がけで助けたら神様からご褒美〜って流れだ。
でもそれも違うと思う……たぶん。
大根を命がけで助けるって、酷い渇水で雨乞いの儀式の生贄になったぐらいしか思いつかないし。
道路に落ちていた大根を身を挺してトラックから守る! なんて馬鹿馬鹿しい事はしていない……とは思いたい。
いくら私が抜けてても、そこまでではない……はず。
言い切れないのは前科があるからだ。
別に思い込みが激しいとかではなく、あ! と思ったら体が動いてしまうタイプなので、何かと見間違えてやっていそうなのが怖いぞ、私。
まず道路に大根が落ちているなんて事がないだろうからと自身に言い聞かせ、私は今現在の住処となっている物へと視線と思考を移す。
目がないだろうに見えているという謎過ぎる私の視界には、素焼きらしい素朴な茶色の植木鉢の縁が見えている。たぶん円形でそこそこの高さがありそうだ。
置かれている場所は、背後に窓があるから出窓のような感じだろう。
そろそろ夕暮れ時なのか背後から感じる光が弱くなり、室内が私の体色より濃い橙を帯びていく。
美しい光景をぼんやりと眺めながら、開き直って肩を竦める。……心の中で。
とりあえず大根になってしまったものは、仕方ない。
ジタバタしたって葉っぱぐらいしか動かせないし、肩を竦める事すら出来ない。
この状況ってアレだよね。
この言葉を初めて聞いた時はイマイチ納得いかなかったんだけど、今ならわかるかも。
これこそ『置かれた場所で咲け』っていうやつだ! と。
私が唯一幸運といえるのは、露地ではなくわざわざ大根を鉢植えにして室内で育ててくれるような人の場所へ転生出来たことだろう。
私を大根へ転生させた神様がいるとするなら、一つだけお願いをしたい。
大根になった私に痛覚があるかはわからないが、出来れば調理法は大根おろし以外で
──そもそも普通の大根は動かないなんて当たり前のツッコミを私へ入れてくれる存在はおらず。
気付くと夕暮れ色だった部屋は、宵闇へ染まり始めていて。
大根な私に明かりを点けるなんて芸当は出来ないが、暗くなった室内は不安を増させて落ち着かず、電気のスイッチを探して壁を見やってしまう。
「(あれ? そういえば、天井に電灯ないな)」
声が出ないのはわかっているがついつい口に出して呟きながら、私は壁にスイッチどころか天井に照明器具が見当たらない室内に首を傾げ……られないので葉っぱを少し傾げる。
いくら室内をアンティークなヨーロピアン風にしているからといって今の時代電気が通ってないなんて相当な山奥とかじゃない限りありえないだろう。
つまりはそういう趣味な変わり者が住む部屋な可能性が出てくる。
確かによく考えてみれば植木鉢に大根を植えて育てているなんて、少々変わっているのかもしれない。
プロファイリングなんて私には出来ないが、部屋の中を見る限り頭が良くて几帳面な人なんだろう、この部屋の主は。
偏屈な老人とかじゃないといいけどと思ったのが聞こえた訳じゃないだろうが、二枚ある扉のうちの一枚のノブがガチャリと音を立てて、扉が開かれる。
明かりを携えて入って来た相手を見た瞬間、私は思わず上げそうになった声を飲み込んだ。
大根に転生した私がいるぐらいだし、とんでもない人外な生き物が入って来た……とかではない。
ささやかな明かりで照らされた相手は間違いなく人間の姿だったが、あまりも人間離れしていた。
月の光のような青と銀の混じった色の長い髪に、ルビーのような澄んだ赤色の瞳を持つ美しい青年がそこにいた。
私の拙い脳内詩人ではそれぐらいの表現しか出来ない程の美しさ。
動いてなければ精巧な人形だと疑いそうだという表現するのがかろうじてだ。
女装したら似合いそうなぐらいの美形だけど、長身で服の上からでもわかる鍛えてそうな体躯なのでゴツい美女になりそう。
しかし、青銀の髪に赤い目なんて、ビジュアル系バンドマンかコスプレイヤーか?
薄暗いからわかりにくいけれど服装も何か変だ。
変と言っても全身タイツ着ているとか、パンツ一丁とかな訳ではなく、それこそコスプレイヤーっぽい格好に見える。
それはまるで何処かの軍服のような、そんな服装。漫画とかアニメで見た事あるかも、と言いたくなる華やかで格好良い感じのやつだ。
もしや、軍があるような海外の国へ転生したのかも?
だとすると、髪も目も本人の元からの色?
いや、でも、青の混じった銀とか赤い目とか……あー、でもあるのか? こうして目の前に生きている人間がいるんだから。
最終的に『本人が好きでやってるんなら偽物とか本物とか関係なくね? 似合ってるし!』という開き直った結論を出した私は、青年の動きをぼんやりと見守る。
この美しい青年が私の飼い主(?)になる訳だからね。
植物になってしまったとはいえ、私としての意識がある身としては、目の保養になる飼い主(?)は大歓迎だ。
犬や猫のように愛想は振り撒けないが、この魅惑(笑)の大根ボディで非常食ぐらいにはなれる……はず。
せめてこう、ハーブ的ないい香りとかさせられないかなぁ。
大根には荷が重いか。
そう内心で自嘲気味に呟いて、飼い主(?)の動きを目で追っていると、バチッと目が合う。
いや私には目がないとは思うから、その気分だけ。
綺麗な赤色の瞳は、本人の持つ明かりに照らされて宝石のように輝いて美しい。
世の女性が羨むこと間違いなしな口紅不要の美しい唇が開いて、飼い主(?)の生声が聞けると身構える大根な私。
「◯□✕◯…………」
はい、何言ってるか、まっっったくわかりません!
こうなるのは予想通りだったとはいえ、英語なら少しは聞き取れるかと思ったのに、実際はホニャホニャラ〜ぐらいにしか聞こえないとは情けない。
そのうち嫌でも聞き取れるようになるさと楽観的に考える事にして、私を見てきている飼い主(?)を見る。
「◯□▲」
相変わらず何を言っているかはわからないが、飼い主(?)は声までイケボだ。
芸能人を生で見た事はないが、会った経験のある人が「テレビで見るより〜」みたいな話をしてるのはたまに聞く。
何が言いたいかと言うと、うちの飼い主(?)、芸能人よりオーラがあるだろ的な自慢だ。
転生先はガチャでいえばハズレかもだけど、転生場所は大当たりかも! と内心でニマニマしながら飼い主(?)を見る私。
そんな私と飼い主(?)の間の空中に、重力何処行った!? と小一時間詰問したくなる野球ボールぐらいの水の玉が現れる。
自身が大根になったと理解した時と同じくらいの衝撃に、思考が停止する。
今気のせいじゃなければ、飼い主(?)が何かを喋ったら何もない空中に水が集まって玉になったような?
手品だというわかりやすい逃げ道へ結論づけようとした私の目の前で、飼い主(?)が手を動かす。
すると浮かんでいた水の玉がゆっくりと動き出す。
ハンドなパワー的なアレだと思い込もうとする私の視界を、ふよふよと漂って近づいて来る水の玉。
その水の玉は不可思議な美しい銀の光をまとっていて……。
やがて私の植わっている植木鉢の真上にたどり着くと、パンッと弾けて私の体へと降り注ぐ。
全身ずぶ濡れになった状況だけど、不快感どころか爽快感と共に力が湧いてくる。
その瞬間、脳裏に突然声が響いた。
『魔法スキルを獲得しました』
うん…………私ったら大根に転生してただけじゃなく、魔法がある異世界へ転生という離れ技まで決めていたらしい。
──お会いしたかどうか覚えていないですが、神様がいるとしたなら、私へ属性盛り過ぎじゃありませんか?
おかげで私、魔法が使える大根という、わけのわからない存在ですよ?
神様へ私の呟きが届いたかは不明だが、こうして大根となった私の異世界生活は始まりを告げたのだった。
お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからこの主人公は、色々スキルとか得ていき、チートにはなるかもですが、人の姿にはならない予定です。
あと、大根はあくまで本人の自認ですので(^^)
正体まではたどり着けませんでした。
あと、主人公はずっと自身を大根だと勘違いしていくと思いますm(_ _)m
その部分は書けなかったので、タグに勘違いはありません。




