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教室に入ると同時に目の前に飛び込んできた光景に三人は固まった。
「ここは?」
「これはね、これを使うの」
「あぁ、それか」
机を寄せて課題をしている竜崎と、丁寧に教えている清水。
「やっと終わった・・・」
「ふふっ、お疲れ様」
「あぁ、助かった。もう終わらねぇかと思った・・・」
溜息をつきながら言った竜崎に、また清水がクスクスと笑った。
「「「(あの竜崎雅人が話しかけている・・・っ)」」」
三人は感動のあまり口元を押さえながらその光景を眺めた。
昨日席替えで隣に座っただけで固まっていた竜崎が。
手が触れ合っただけで顔を真っ赤にしていた竜崎が。
話しかけるだけで長い時間がかかったあの竜崎がっ!
「・・・お前ら今失礼なこと考えてんだろ。」
清水と竜崎の机の前に立って見下ろしている美月、蒼真、榛名の三人に、竜崎は顔を引き攣らせた。
そんな事ない、と三人が同時に首を振ると、竜崎はさらに眉間に皺を寄せた。
* * * *
「さんきゅ」
「うん」
竜崎くんが元の位置に机を戻すと、三人は自分達の席に座って竜崎くんと私の方へ体を向けた。
「課題教えてあげてたの?」
「うん」
こくん、と頷くと高瀬美月さんがにっこりと楽しそうに笑顔を浮かべてくれた。
彼女のその笑顔を見て私はハッとした。
高瀬さんと竜崎くんは付き合っている可能性がある。
それなのに連絡先を交換したり課題を教えてあげたりするなんて・・・
高瀬さんが嫌な気持ちにならないか!?
途端に不安になって高瀬さんから顔を逸らして俯いた。
* * * *
「(あら・・・?)」
突然俯いた清水にキョトンと首を傾げる美月。
「(どうしたのかしら・・・)」
気になりつつも話しかけると昨日と変わらず普通に答えてくれる。
そんな清水の様子に安心しながらも、先程までの親しげな雰囲気から少し変わっているのをなんとなく感じる。
チラッと蒼真と雅人を見るが、二人は毎朝恒例の言い合いをしておりこちらに気付いている様子はない。
唯一気付いているのは、こちらをジッと見つめている榛名。
どうすればいいかな、と考えていると、榛名がガタンと椅子から立ち上がった。
そして清水の机の前に行って屈むと、そっと彼女の顔を見上げながら言った。
「なぁ、気になってたんだけど・・・そろそろ二人呼び方変えね?」
「え・・・?」
ニコッと笑いかけた榛名に、清水さんはキョトンと首を傾げた。
そんな清水とは対照的に、パァッと花が咲いたように笑顔になる美月。
「そうよ!もう私たち友達なんだから、さん付けなんてやめよ?」
美月は名案だと言うように顔の前でパチンと手を合わせて言った。
美月の口から出た"友達"という言葉に、清水は思わず頬を染める。
「・・・友達?」
「うん、そう友達!」
美月はニコッと微笑みながら頷いた。
「今度から清水さんのこと"結衣"って呼ぶから、私のことも"美月"って呼んで?」
ね?と美月から可愛く小首を傾げながら言われて断れる人なんてきっといないだろう。
清水が控えめに、こくりと頷くと美月はまた嬉しそうに微笑んだ。
「はいっ!なら今から練習っ!」
「えっ!」
「"美月"って呼んでみて?」
突然の振りに、清水は目を見開いて頬を染めた。
ワクワク!という効果音が似合うような表情をしている美月と、机の前で屈んだまま楽しそうにこちらを見ている榛名。
ふと視線を隣に向けると、言い合いをしていた筈の蒼真と竜崎がこちらを見ていることに気付いてさらに顔を赤く染めた。
視線が集まる中、清水は両手を握り締めるとゆっくりと口を開いた。
「・・・っ、み、美月・・・」
そっと名前を呼ぶと、美月はほんのり頬を染めながらにこっと笑いかけてくれた。
嬉しそうな雰囲気の美月に、結衣もドキドキしながらもそっと微笑み返した。
「かっ・・・」
横から声が聞こえた。
隣を見ると、こちらを見ている竜崎と目が合った。
「・・・か?」
清水は、虫でもいたのだろうかと首を傾げる。
「・・・いや、なんでもない・・・っ」
竜崎は、バッと結衣から視線を逸らして廊下の方を見た。
途端に廊下に立っていたファンの子達からキャーッという歓声が上がる。
やっぱり彼は凄い人気者なんだなぁと思いながら結衣が眺めていると、榛名と蒼真が突然吹き出した。
「ぶっ・・・」
「くくっ・・・」
肩を震わせている二人に、結衣はさらに首を傾げた。
頑張って美月の名前を呼んでみたけど、それが何かいけなかっただろうかと少し不安になる。
しかし、目の前に座る美月の嬉しそうな笑顔を見ていたら、そんな不安も一瞬で消え去ってしまった。
「この人達のことは気にしちゃダメよ、それより連絡先交換しない?」
美月は鞄からスマホを取り出しながら言った。
可愛らしいデザインのスマホが彼女らしい。
結衣は短く返事をすると、自分も鞄からスマホを取り出した。
「その、連絡先の交換の仕方、よく分からなくて・・・」
「ならスマホ借りてもいい?」
結衣が頷いた事を確認して、美月は結衣のスマホを操作し始めた。
「!」
互いのメッセージアプリを開いた後、結衣のスマホ画面に表示された友達リスト内の幼馴染の名前に、美月は思わず微笑んだ。
「(・・・へぇ、やるじゃない)」
赤く染まっている顔を結衣に見られまいと必死に隠している竜崎をそっと見る。
奥手ながらも彼のペースで距離を縮めていっているのを感じて思わずクスッと笑った。




