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二回目のチャイムが鳴り響き、廊下にいた人達が小走りに教室へと戻って行く。
教室の前で騒いでいた三人は高瀬さんに一喝されて大人しく席に座り始めた。
教室のざわつきが落ち着き始めた頃に、教室の扉がガラリと開けられた。
「はーい!みんなおはよう!今日も元気かなー?」
明るい声でにこやかに挨拶しながらクラス担任が教室に入って来た。
日課である出席確認を終えてクラス名簿をパタン、と閉じると、教卓に両手を付いて言った。
「さて、今日はホームルームの時間を使って席替えをするって聞いてるからね、急いで始めようか」
担任がそう言って教卓から離れると、高瀬さんと三橋くんが箱を抱えて小走りに教卓に立った。
「はい、じゃあそう言うことなんで急いで右の列から順番にくじを引いて行ってくださーい!」
三橋くんの言葉に、教室の右側――廊下側の先頭である竜崎くんの列から順番にくじを引いていく。
私はグラウンド側に近い後方の席だからほぼ終わりの方だ。
先に引いて行った人たちが黒板に貼り出している紙に次々と名前を記入していく。
どんどん埋まっていく席をぼんやりと眺めていると、あっという間に順番が回って来た。
席を立って教室の前に行き教卓に向かい合わせに立つと、三橋くんの抱えている箱の中にそっと手を入れた。
「!」
カサッ・・・と小さく中から音がした気がして思わず手を引っ込めようとすると、高瀬さんが私の後ろから両肩に触れた。
「どうしたの?」
「あ・・・いや、何でもない」
そっと高瀬さんに後ろから顔を覗き込まれて慌てて首を横に振る。
中に生き物でも入っているのかと思ったが、自分が手を入れる時に紙に当たって音が鳴ってしまっただけかもしれない。
私は真ん中にあったくじを手に取ってすぐに箱から手を抜いた。
それを開く前に三橋くんが私の手からサッとくじを抜き取った。
「!」
その素早さに少し驚きながら三橋くんを見ると、彼はにこりと優しくこちらに微笑んでくれたため、何とも言えない気持ちになりながらも微笑み返す。
「清水さんは30番、一番後ろだよ」
ピラッとくじの番号を見せられると、確かに30番と書かれてある。
そして黒板に貼り出されている30番の席はグラウンド側の窓際一番後ろ。
私が望んでいた席になって少し嬉しくなった。
「ありがとう」
そっとお礼を言うと、三橋くんと高瀬さんがにこにこ笑いながら手を振ってくれた。
美男美女に手を振られるなんて他クラスのファンの子達からしたら相当羨ましい光景だろう。
それに席も希望していた場所になるなんて、今日は朝から本当にいい日だ。
登校の時の竜崎くんとのやり取りを思い出して小さく微笑んだ。
みんなくじを引き終えて席順が決まった。
「はいはーい!みんな早く移動してー!一限目始まっちゃうよー!」
パンパン!と担任が手を打ち鳴らして言った。
それに合わせて生徒達が一斉に机と椅子を抱えて移動を始める。
私は元々後方だったため、左側に運び早々に椅子に座る。
窓から広いグラウンドと快晴の空が見えてなんだかこの席に来れたことを祝福してくれているように感じた。
ガタンガタン、と自分の周りに机が運ばれてくる音が聞こえてくる。
ガヤガヤとクラスメート達の賑やかや声が聞こえるが、机の運ぶ音が止まったため、そっと教室を振り返った。
さて、私の周りはどんな人達がいるんだろう。
「・・・・・・。」
あれ。
幻覚かな?
隣。
竜崎くんがいる。
「・・・・・・。」
目を擦ってもそこには竜崎くんが座っていた。
・・・とりあえず彼を見なかったことにして、ぐるりと周囲を見渡した。
竜崎くんの前――私の斜め右前には先程まで教卓の前に立っていた三橋蒼真くん。
私の前にはこれまた同じく先程まで前にいた高瀬美月さん。
「よっ!また席近くなったなっ!」
そう言って竜崎くんに絡んでいる榛名悠くんは竜崎くんの反対隣。
「・・・・・・。」
これって、
相当ヤバい席なんじゃないか!?
バッ、と廊下を見ると案の定ホームルームを終えた他クラスの子達が人気な四人組を見に来ている。
今まで廊下側だった彼らの席が奥になってしまい、背伸びをして教室を覗いている子もいれば、私の席を見てヒソヒソと話している子もいる。
「(これはラッキーを通り越してアンラッキーにならない・・・!?)」
私が廊下から視線を逸らすと、それに合わせて前の席に座っている高瀬さんがこちらを振り返った。
「今日からよろしくね、清水さん!」
ニコッと可愛らしい笑顔を向けられて綺麗な手を差し出された。
「・・・よろしく」
私は引き攣りそうな顔を必死に抑えながらそっと微笑み返してその綺麗な手を握り返した。
* * * *
「(よしっ!くじ引き作戦成功っ!)」
三橋蒼真は机の下で小さくガッツポーズをした。
くじ引きの箱の中にこっそりと細工をして、清水が手を入れるタイミングで30番のくじが出るようにしていた。
高瀬美月は早速持ち前のコミュニケーション能力を最大限に活かして控えめな清水に話しかけている。
小等部から腐れ縁である竜崎雅人の想い人――清水結衣。
短気で頑固で毒舌な男である筈の竜崎が奥手すぎて、折角同じクラスになったのに全く行動を起こさない事にもどかしさを感じていた。
三ヶ月前から同じ電車に乗って登校しているのは既に把握済み。
だから竜崎の為にお膳立てしてやろうと蒼真、美月、榛名の三人で話し合って今回席替えイカサマ計画を決行した。
「(ここまでお膳立てしてやったんだから、きっちり結果を残しなよっ!)」
「(あとは彼女との距離を詰めるだけだぞっ!)」
トン、と榛名が竜崎の背中を押す。
「・・・・・・。」
しかし、当の本人は全く動く気配がなく、静かに顔を俯かせている。
蒼真と榛名は顔を見合わせて首を傾げると、竜崎に顔を寄せた。
「どうしたんだよ、なんか話しかけろって」
「そうだよっ、行動あるのみ!」
清水さんに聞こえないようにコソコソと蒼真と榛名が竜崎に話しかける。
すると、竜崎はゆっくりと顔を上げてそっと二人を振り返って言った。
「尊すぎて話せねぇ・・・っ」
「「感極まってんじゃねーよ!このムッツリ野郎っ!!!」」
顔を片手で覆って呟いた竜崎に蒼真と榛名が容赦なく竜崎の頭を張り倒した。
「っ!?」
突然叫んで竜崎の頭を叩いた二人に清水は体をビクッとさせた。
一体何が起きたのかと三人を見る清水に、美月は「気にしないで」、と言いながら幼馴染の奥手っぷりに苦笑した。




