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朝の一回目のチャイムが鳴り響く頃には、教室にほぼ全員のクラスメート達が揃っていた。
賑やかな教室でも気にする事なく読書を続けるのが私の平和な過ごし方。
話しかけられれば返すが、基本的にこちらから話しかけることは相手に用事がない限り控えている。
相手が何を考えているのか、今の言葉が相手を傷つけていないか、些細なことでも気になってしまいとても疲れてしまうからだ。
だからやんわりと話しかけるなオーラを出しながら読書をして毎日を凌いでいる。
しかし、そんな自分にも分け隔てなく話しかけてくれる子がいる。
「おはよう、清水さん」
「!」
声をかけられて顔を上げると、そこにはハーフアップに髪を結い上げた美女――高瀬 美月さんが立っていた。
「おはよう、高瀬さん」
そう彼女に返すと、高瀬さんは綺麗ににこりと微笑んだ。
彼女はこのクラスの学級委員だ。
美人で誰にでも優しく面倒見がいい。
そして竜崎くんの幼馴染であることも学園内では有名な話。
噂では竜崎くんと付き合っているらしいのだが、ファンクラブの子達に尋ねられて否定している高瀬さんの会話を何度も小耳に挟んでいる。
実際に付き合っているのかいないのか、真実は分からない…。
「ねぇ、今日席替えする予定なんだけど、清水さんはどこの席がいい?」
高瀬さんが前の人の椅子に座って私を見ながら尋ねた。
唐突な質問に何度か瞬きをした。
そして小首を傾げながら顎に手を当てて少し考えると、そっと答えた。
「・・・窓際の一番後ろがいいかな」
「廊下じゃなくてグラウンドが見える方?」
「うん、そう」
私は頷いた。
両隣に人がいると落ち着かないし、多少眩しくても外の景色が見える方が息抜きができて安心する。
でも、席替えは毎回くじ引きの筈だ。
なんで聞かれたんだろう、という疑問が浮かんだが、それを尋ねる前に高瀬さんは立ち上がった。
「分かった、教えてくれてありがとう!」
高瀬さんはそう言って微笑むと小走りに自分の席へ向かって行った。
結局何だったんだろう・・・、と心の中で呟きながらもまた読書をするべくそっと視線を本に落とした。
* * * *
「窓際、一番後ろだって」
美月は自分の席へ戻ると、隣の席に座る同じく学級委員の三橋 蒼真にそっと耳打ちした。
「了解」
蒼真は頷くと、くじ引きの紙を丁寧に折って箱の中に入れていった。
それを美月が嬉々として眺めていると、鮮やかな髪が視界に入った。
「お!席替え?」
蒼真の前の席に座って榛名 悠が蒼真の手元を見ながら尋ねた。
それに蒼真はにこりと笑いかけながら頷く。
「とうとうこの日がやって来たよ」
「待ち長かったな!」
榛名はそう言いながらニコニコと箱を眺めた。
美月も楽しそうにうんうんと頷きながら蒼真の手に持っている箱を見ている。
すると、ガラリと教室の扉を開ける音がして三人は顔を上げた。
「あ!おはよう、雅人!」
入って来た人物に榛名が元気に声をかけると、その人物こと竜崎雅人は眉間に皺を寄せた。
「朝からうるさい・・・」
朝練を終えて少し疲れた身体に榛名の元気な声は頭に響く。
竜崎は不機嫌さを隠しもせずに返しながら榛名と蒼真を見ると、二人がニヤニヤしているのに気付いてさらに嫌そうに顔を引き攣らせた。
「余裕ぶってるのも今のうちだよ、竜崎~」
「な、なんだよ、気持ち悪い・・・」
軽く二人に引きながら榛名の隣にある教室の入り口近くの自分の席に荷物を下ろすと、美月が駆け寄って竜崎にそっと耳打ちをした。
「今日は席替えの日だよ、雅人」
「・・・!」
美月の言葉に竜崎の肩が小さく揺れた。
「・・・だから何だよ」
素っ気なくどうでも良さそうな雰囲気を保ち続けている竜崎に、蒼真と榛名は腹を抱えて必死に笑いを堪え始めた。
バンバンと机を叩いて悶えている二人に竜崎は少し頬を染めながら苛立ったように舌打ちをした。
「もう俺たちにはバレバレなんだから今更隠すなって!」
「余裕ぶっても無駄だよ、竜崎!」
「〜〜〜〜〜ッ!」
堪えきれずにケタケタと笑い出した蒼真と榛名に竜崎は拳を握り締めると、二人の頭に向かって思い切り拳を振り下ろした。
* * * *
・・・何やら教室の前の方が騒がしい。
そっと本から顔を上げると、ギャーギャーと騒いでいる三橋蒼真くん、榛名悠くん、竜崎雅人くんの三人がいた。
それを仲裁している優等生の高瀬美月さん。
「(仲良いなぁ・・・)」
私は心の中で呟きながらぼんやりと四人を眺めた。
今目の前で騒いでいる四人はこの学園の小等部からずっと進級してきているメンバー。
学園内でも超絶人気を誇る美男美女の四人組だ。
この学園は小等部・中等部・高等部・大学と進級していくことができる。
勿論、外部から学園に試験を受けることもできるし、その逆も可能。
私は中等部からの編入組になるため、小等部からの進級組とは自然と距離を置いている。
別に進級組と編入組の間で揉め事がある訳ではないが、会話をしていても小等部の頃の話をされたら全然分からなくてなんとなく疎外感を感じてしまうのが辛いから、最初から距離を置くようにしている。
高等部に進級した今は高等部からの編入組も入って、私のように在校期間は大人しく過ごしている人が多い。
・・・まぁ、そうじゃない陽キャな人達は、この目の前で騒いでいる四人のファンクラブに在籍して四人を遠巻きに見ながら廊下でキャーキャー騒いでいる人達がほとんどだ。
私は小さく溜息をつきながらそっと本にしおりを挟んで閉じた。
そろそろホームルームの時間だ。




