第3話 狐姫との休日
家事が一通り終わると、甲斐は気になっていたことを尋ねた。
「そういえば昨日はどこで寝ましたか?」
「……?床ですけど……」
しえのきょとんとした返事を聞いて固まる。
「えっ……床?」
「はい」
「……寝れましたか?」
「元々野生なので、最適な気温ならどこでも寝れますよ」
「ソファ使ってくれてもよかったのに……」
「甲斐さんが潔癖なら嫌かなと思ったので……」
この人は他人がどう思うかを考えられる人なんだな……
世の中には私利私欲の人が多いからそんな人が少ないのに……
「……家事も終わったことですし、お出かけしませんか?」
「お出かけ?」
「しえさんと行きたいところがあるので」
「……わかりました。行きましょう」
自分と行きたいところがある。それを聞いてしえは少し嬉しそうな顔になった。
数分歩いて、二人が向かったのはホームセンターだった。
「あの……ここは?」
「ホームセンターっていうところで色々な物が売っているんです」
「何を買うのですか?」
「しえさんのベッドを買おうかなと思って」
「私の……?別に買わなくても大丈夫ですよ?」
「しえさんがソファで寝て、僕だけベッドで寝るのは申し訳ないし」
「……いいんですか?」
「もちろん。好きなものを選んでください」
「ありがとうございます」
二人が中に入ると、色々な物が売られていることに目を輝かせる。
「凄い……これがホームセンター……」
「欲しいものあったら言ってください。ある程度貯金はあるので」
「でも……」
「僕たちは夫婦ですから。しえさんが大切にしてくれるなら何でも買いますよ」
「……!」
「さすがに高すぎるものは買えないですけどね」
ハハ……と少し笑っていると、しえもクスッと笑う。
「甲斐さんって優しい方ですね」
しえは甲斐の右手を握ると、歩きだした。
「行きましょう」
「え、えぇ……」
握られたことに戸惑いつつ、しえの笑顔を見て自分も笑顔になった。
二人がベッドのコーナーに向かうと、色々なベッドがある。
「少しの間は床の上に敷くことになると思いますが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。どれがいいのでしょうか……」
二人が迷っているのを見ていたのか、店員が話しかけてきた。
「何かお探しですか?」
「えっと……どのベッドを買えばいいか分からなくて……」
「でしたらこのベッドはいかがでしょうか?通気性もよくて涼しいですよ?」
「私……暑がりだから通気性がいいとありがたいかも……」
「ではこれでお願いします」
「かしこまりました。用意いたしますね」
店員が去って行くと、甲斐はしえの方を見る。
「これ買い終わったら、次は服を買いに行きましょう」
「服……ですか?」
「しえさんは綺麗な人だから他にも似合う服があると思うので」
「……」
「もしかして……余計なお世話でしたか?」
「いえ……その……」
よく見ると頬が赤い。
「美人って言われるのはちょっと……私はそう思っていないので……」
「す、すみません!」
「でも……そう言ってもらえて嬉しいです」
しえの恥ずかしがる微笑みを見て、甲斐はドキッとする。
(しえさんといると胸が……)
胸を抑えると、しえが心配そうに見つめる。
「あの……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですよ」
「……」
しえは両目を変色させて、甲斐を見つめる。
「……胸に異常は見られませんね。何が原因でしょうか?」
「どうして異常がないとわかるのですか?」
「甲斐さんの体を透過させて、調べました。人間界でいうレントゲン……でしょうか?」
「へぇ……」
獣人ってそんなことできるんだ……そう感心していると店員がやってきた。
「お待たせしました。ご用意できましたので、レジにご案内いたします」
「ありがとうございます」
甲斐がレジに向かうと、しえもそれを追いかけた。
次にやってきたのはショッピングモールにある服屋だ。
試着室からしえが出てくると、甲斐はその姿に見惚れた。
「に、似合ってます……」
「そうですか?それならよかったです」
振り返り、自分の姿を鏡で見る。
(……似合ってるんだ。これが……)
「どうですか?その服にしますか?」
「……はい」
服を購入し、二人はレストランフロアを歩く。
「食べたいものとかありますか?」
「お肉を……野鼠の肉ってありますか?」
「……野鼠?」
甲斐がピクッと反応して、しえを見つめる。
「野鼠は……ないですね……」
「そうですか……爬虫類ならありますか?」
「爬虫類⁉」
「……人間は食べないんですね。すみません」
「それは食べる人もいますけど……少ないですね。それにしえさんは狐の獣人でしたね。忘れてました。他に食べたい物はありますか?」
「他……鶏肉とか……」
「それならこの先にいいところがあるので行きましょう」
二人が入店し、席に座ると、しえは不思議そうにメニューを見る。
「この店の料理って肉を焼いてるのですか?」
「えぇ。人間は肉を焼いて食べるので」
「てっきり生かと思いました……美味しそうですね」
「僕はハンバーグステーキにします。しえさんは?」
「この……チキンステーキで……」
「わかりました。すみません!」
店員を呼び、注文すると水を飲む。
しえの顔を見つめた後、口を開いた。
「しえさんは……僕と結婚するために人間界《この世界》に来て、不安はなかったのですか?」
「不安……ですか?」
少し考えた後、口を開く。
「人間界というより……甲斐さんが私との結婚を受け入れてくれないのではないかという不安の方が大きかったですね」
「受け入れるっていうか……受け入れさせられたっていうか……」
「強引に頼むのは父の悪い癖です。すみません」
「いえいえ。でも……僕はしえさんに出会えてよかったと思っています。就職してから友達と会うこともなく、一人で仕事をしていましたから……」
平日は仕事。休日は一人。仕事はやりがいを感じていたけど、寂しさを感じていた。
その寂しさを……しえとの出会いが埋めてくれたような気がした。
「こうやってしえさんと出かけることができて……久しぶりに楽しいって思いました。ありがとうございます」
甲斐が頭を下げると、しえは頭を撫でた。
「……!」
「甲斐さんは頑張っていますよ。水晶から見ていたので分かります。熱心に仕事に取り組む姿を見てかっこいいと思いました。
そして、寂しさを抱えていたのも見えていました」
「えっ?」
甲斐が頭を上げると、しえはまっすぐな目で見つめてくる。
「私なら……甲斐さんの寂しさを埋めることはできますか?」
「……はい。しえさんと一緒なら……楽しくて幸せな生活を送れる気がします」
微笑んだ後、真剣な表情で口を開く。
「しえさん。僕から言わせてください。僕と……結婚してくれますか?」
片腕を伸ばすと、温かい手がそれを握る。
「もちろんです」
その返事を聞くと、甲斐は嬉しそうに微笑む。
この感情は自分と一緒に居てくれることに対して嬉しいのか……
それとも……こんな自分と結婚してくれることに対して嬉しいのか……
はたまたその両方か……
「あの……お客様……」
二人が横に振り向くと、店員が恥ずかしそうに注文した料理を持っていた。
「ハンバーグステーキとチキンステーキです」
「……どうも」
恥ずかしかったが、お互いに目が合うと再び微笑んだ。




