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ヨクルと奇妙な森  作者: フオツグ
第六話

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師匠の心、弟子知らず

「お三方、立ち話もなんです。座って話されてはどうですかな?」


 村長にそううながされ、俺達はソファに腰掛けた。

 村長は俺とヨクルにコーヒーを淹れてくれた。香ばしい温かさを感じる香りに俺はホッと息をついた。


「師匠はヨクルの顔を見ても驚かないんだな」

「顔? 顔は見えないけれど……」

「かぼちゃ被ってるだろ」

「ああ、そのことか! 村の子供達に事前に聞いていたからね。『かぼちゃを被ってるけど変な人じゃないよ』って。子供達に好かれるということは、きっと良い人なんだろうな、と」


 ヨクルを怖がっていない村の子供というと、鐘撞家の双子──フレイとフレイヤだろうか。二人はヨクルに助けられてから、非常に懐いている。


「私は目が悪いから、かぼちゃの色しかわからないな。しかし、フロスティ辺境伯がかなりの手練れだというのは肌でひしひしと感じていますよ」


 ダーイン師匠はヨクルに笑いかけた。


「光栄です。そういう貴方も、なかなか隙がない」

「いやあ、私など大したことは」


 ダーイン師匠は照れ臭そうに頭を掻いた。


「貴方がその気なら、私は何度首を斬られていたことでしょう!」

「ヨクルはいきなり斬りかかったりしないぞ……」


 俺は変なこと言うなと呆れた。ダーイン師匠は何度も死線をくぐり抜けてきた剣士だからか、時々物騒なことを言うのだ。


「というか師匠、また目が悪くなったのか? 生活に支障は……」

「大丈夫! こうして、一人でここまで来れたんだから」


 ダーイン師匠はどん、と胸を拳で叩いた。その後、心配そうな顔を俺に向けた。


「ティリル、どうして今まで連絡してくれなかったんだい? 騎士団に入ってからというもの、手紙すらくれたことがない! 久しぶりに手紙をくれたと思ったら、本部を離れているだなんて……あまりの驚きで失神しそうになったよ」

「師匠は俺が騎士団に入団することに反対してただろ。それを押し切って入団したんだから、もう連絡出来ないじゃないか」

「ええ? どうしてそうなるんだい?」


 ダーイン師匠は首を傾げた。


「俺の剣の腕で入団したら、騎士団に迷惑がかかる。それなのに、無理矢理入団したから、師匠はもう俺と口も効きたくないだろうと」

「違う違う! ティリルは子供の頃に異形に襲われたことがあるから、異形と戦うのは辛いんじゃないかって思って反対したんだよ!」

「だから、俺はそのことを覚えてないんだってば」

「覚えていなくても、経験はしてるんだ。心に傷のある人間が無理に戦う必要はない。君は読み書きが出来るんだから、他の仕事も選べるんだ」

「剣術を教えられたら騎士になるしかないだろ」

「剣を教えたのは護身のため! 騎士にするためじゃなかったんだよ……」


 ダーイン師匠はため息をついた。


「ティリルの剣の腕は認めてるよ。それに、騎士団入りは最終的に了承したじゃないか。師匠はてっきり、あのとき反対したから、き、嫌われたんじゃないかって……」


 ダーイン師匠は震える声でそう言った。嫌われたと思ったから、怖くて自分からは連絡出来なかったらしい。


「嫌う訳ないだろ。ここまで育てて貰ったんだから」


 俺が呆れたようにそう言うと、ダーイン師匠は真剣な顔になった。


「……ティリル、何度も言ってるだろう? お前が恩を感じる必要はないんだ。お前は一人の人間なんだから、師匠を嫌ったって良い。……でも、師匠はずっとティリルを愛弟子だと思ってるし、心配もするよ。これだけはどうしても譲れない」

「師匠……」

「そう……凄く心配した。まさか、ティリルがあの奇妙な森に派遣されるとは……」


 ダーイン師匠は眼帯に手を当てた。


「奇妙な森のこと、知ってたのか?」

「うん。同期の間では有名だったからね。『幽霊が出る森』だって」


 俺は突拍子もない噂に思わず笑ってしまった。


「いや、流石に幽霊は出ない──」

「出ますよ」


 ヨクルが口を挟んだ。「え」と俺はヨクルを見た。

 ヨクルは出されたコーヒーの表面に息を吹きかけて冷ましていた。


「フュルギヤも霊的存在です」

「え! あいつ、幽霊だったのか!? だから、斬っても出てくるのか……」


 フュルギヤは森に住み着く謎の存在だ。変身能力に長け、フロスティ邸の乗っ取りを企んでいる。まさか、幽霊だったとは……。


「……でもあいつ、触れるよな? 幽霊は普通、触れないんじゃ?」

「それが奴の妙なところでして。変身能力も通常の霊は持ち得ないものなのですが……」

「そうなのか!? なんであいつだけ特別なんだ?」

「さあ。森の異変の影響を受けたとしか言えません」

「ヨクルもわからないのか!? 何だか怖くなってきたかも」


 俺は思わず身震いした。わからないことがわからないままなのは怖い。


「やはり、出るんですか」


 はあ、とダーイン師匠はため息をついた。


「グラムもわざわざティリルを奇妙な森に送らなくても良かっただろうに」

「俺が命令に背いたせいだから」

「だとしても、だよ! ティリルは真面目だから任務と言われたら断らないし、幽霊が怖くても途中で逃げ出したりしない! その証拠に、ずっと奇妙な森から帰ってこない……」


 ダーイン師匠は口元を両手で覆った。


「今までの奇妙な森に派遣された騎士は、三日と持たずに逃げ出してきていたんだ。ティリルは昔から無茶する子だから、師匠は心配で心配で……」

「だから、俺は子供じゃないんだって。森での任務も慣れてきたし、心配なんて全くない」

「本当に?」

「本当だって」


 ダーイン師匠はじっと俺の顔を見た。強がってないかと疑っているようだ。


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