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ヨクルと奇妙な森  作者: フオツグ
第五話

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変な奴ら!

「ヨクル、ヒューキをこれからどうするんだ?」


 俺は改めてヨクルに尋ねた。


「一時的に静雪の村に預けたいと考えています。銀竜騎士団にお手紙を書いて、彼を群れに戻すよう、お願いしてみます」

「仲間と会える!?」


 ヒューキは表情を明るくした。

 ヨクルは頷いた。


「ええ。騎士団の皆さんは弱者に寄り添える方達ですから、きっと協力してくれるはずです」

「ああ、そうだな。俺も師匠にお願いしてみるよ。あの人なら騎士団長に口利きしてくれるはずだ」


 ヒューキは嬉しそうだったが、すぐに訝しげな顔をした。


「かぼちゃ男……何故そこまでする? おまえは偉い奴。ヒューキ達を買う奴」

「爵位を賜ったのは、奇妙な森の管理者となってからです。それ以前は何者でもない、ただのヨクルでした」

「ただのニンゲンなら、尚更、ヒューキを助けない」


 ヒューキはヨクルを睨みつけていた。


「犯罪で得をするのは悪人だけです。逆もまた然り。善行で得をするのは善人だけ」

「おまえはゼンニンか?」

「そうありたいと願っています」


 そう聞いても尚、ヒューキは納得がいかないような顔をしていた。


「……ふむ。些か抽象的でしたかね。これでは信じて頂けませんか」


 ヨクルはそう言うと、ヒューキを気にかける理由を語り始めた。


「僕の昔の知り合いに、異形商人に連れ去られたもの達がいました。異形ではないのに、異形だと決めつけられて……」

「え……」


 俺とヒューキは同じような声を出していた。


「ヒューキさんと同じです。だから、貴方を放ってはおけないのでしょうね」


 ヨクルとヒューキを真っ直ぐと見つめ合った。


「復讐とか、仲間を助けたいとか、何故思わない? おまえにはその力があるのに」

「連れ去られたかつての知り合いはもういません。復讐も救出も無駄なことです」

「そんなのわからない!」

「わかりますよ」


 ヨクルはそう言い切った。


「彼らの魂は天へと昇り、自然の一部となりました。彼らは今も、僕を見ています。僕を見て、復讐するかどうか賭け事にでも興じているでしょう。そういう方達ですから」


 ヨクルは窓の外を見た。亡き知り合いに思いを馳せているように。


「……変な奴だ。おまえも、おまえの仲間も」

「光栄です」


 ヨクルはフッと笑い声を漏らした。


「褒めてない!」


 ヒューキは吠えた。


「さ、ヒューキさん、今日はお休み下さい。ティリルさんも護衛のお仕事、お疲れ様でした。ゆっくりと体を休めて下さい」

「ああ。ヨクルもお疲れ様。ゆっくり休んで……休むよな?」


 俺がそう聞くと、ヨクルはあからさまに顔を逸らした。


「僕は放置していた異形を処理しなければなりませんので」

「やっぱり、休むつもりないじゃないか! 俺も行く!」

「ティリルさんはヒューキさんの様子を見ていて下さい」


 確かにヒューキを一人で屋敷に置いておく訳には行かない。俺は頷くしかなかった。


「ヒューキさん、森にいる間はこれをつけていて下さい」


 ヨクルは手のひらを差し出した。手の上には銀色の小さな鈴があった。


「鈴?」

「鈴は小さな鐘です。異形を避け、僕に居場所を伝えてくれます」


 ヨクルは鈴に紐を通し、ヒューキの首の後ろに回して結んだ。

 ヒューキの首元でちりん、と鈴の音が鳴る。違和感があるのか、ヒューキは難しい顔をした。


「一晩だけ我慢してくれ」


 俺はそう言った。森の中で安全に過ごすためには必要なものだ。「明日村に行ったら、外しても構わない」と言うと、ヒューキは首を横に振った。


「ヒューキ、村行かない。ヒューキ、ここいる」

「え」

「他のニンゲン、信じられない」

「俺達を信じてくれたのはありがたいが……。どうする? ヨクル」


 俺はヨクルに聞いた。


「ヒューキさんが良いのなら、僕は構いません」


 ヨクルはそう答えた。俺はヨクルに礼を言った。


「おやすみ」と夜の挨拶をして、俺とヨクルは部屋を出た。

 ヨクルは屋敷の巡回をしてから、森に向かうと言っていた。

 俺は空になった皿を洗い、ヒューキの隣の客室で寝ることにした。日記を書いてから、ベッドに横になる。途端、体が雪に埋もれたかのように重くなった。


「うわあー!」


 眠りに落ちる直前、ヒューキの悲鳴が聞こえて、俺は飛び起きた。急いで彼の元へと向かう。ヨクルも駆けつけていた。

 俺が先頭に立ち、扉を開けた。


「どうした、ヒューキ!」


 ベッドの上で涙目になっているヒューキがいた。


「てぃ、ティリル! 動いてる! 動いてる!」


 ヒューキの指差した方を見ると、水差しがふよふよと浮いていた。


「なんだ、水差しが動いただけか」


 俺はホッと胸を撫で下ろした。


「そんな、大したことないみたいな……!」

「ものが勝手に動くなんて、奇妙な森ではよくあることだぞ」


「なあ、ヨクル」と屋敷の主人に言うと、彼は「ええ。よくあることです」と頷いた。


「害はないから安心していい」

「安心出来ない……ん!?」


 ヒューキは俺を見て目を見開き、ごしごしと目を擦って、再び俺を見た。


「ティリル、大きくなってないか……?」

「ん? ああ、通りで視線が高いと思ったんだよな。俺がデカくなってたのか」

「平然とし過ぎだ!?」

「ものの大きさが変わることも奇妙な森ではよくあることさ。気にすることはない。別に成長痛がある訳でもないし」

「ええ……」


 ヒューキは少し引いていた。


「さ、寝た寝た!」


 俺はヒューキをベッドに寝かせた。


「かぼちゃ男、変……ティリルも変……。この森、変!」


 その後もヒューキはちょっとした異変に怯えていたようだ。様子を見に来たヨクルにも驚き、逆立った毛がなかなか戻らなかったという。

 隣の部屋に寝ていた俺だったが、案の定、ぐっすりと寝ていて気づかなかった。本当に申し訳ない。


 次の朝。「やっぱり、ここ住めない」とヒューキは疲れたように言った。

 結局、ヒューキを静雪の村に預けることになった。

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