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ヨクルと奇妙な森  作者: フオツグ
第三話

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15/24

言いつけを破った子供達には

「──ホヴズのじっちゃん!」


 村長の家で談笑をしていると、突然、一人の少女が家の中に飛び込んできた。

 彼女の顔には見覚えがあった。先程、ヨクルを『パンプキンヘッド』と言って馬鹿にしていた少年と一緒にいた子だ。


「そんなに慌ててどうした、フレイヤちゃん──」


 ホヴズが少女にそう声をかけた。どうやら、彼女はフレイヤという名前らしい。フレイヤはヨクルを見つけると、彼に駆け寄り、腕を掴んだ。


「ヨクル様……! お願い! お兄ちゃんを助けて!」


 彼女のただならぬ様子に、部屋の空気が張り詰めた。


「一体何があったんです?」


 ヨクルが冷静に、尚且つ優しい声で尋ねた。

 フレイヤはひっく、ひっくとしゃくり上げながら言った。


「お兄ちゃんが……森で魔女にさらわれちゃったの!」

「なっ……!?」


 俺と村長は目を見開いた。


「お前さん達、森に入ったんか!? 絶対入っちゃいかんと言ったじゃろう!」

「ごめんなさい……!」


 フレイヤはぼろぼろと涙を流しながら、何度も謝った。


「何があったのか、詳しく聞かせて頂けますか? フレイヤさん」


 フレイヤは鐘塔の下であった鐘撞・ニョルズの娘だ。彼女には双子の兄がおり、名をフレイと言う。

 フレイはかぼちゃのおばけ──ヨクルをよく思っていなかった。


「あいつの屋敷に忍び込んで、あいつの本性を暴いてやろう!」


 フレイはそう言っていたらしい。フレイヤは嫌だったが、一人でヨクルのいる村に置いていかれる方が怖かった。

 ヨクルと俺が村長の家で話している間、大人達の目を盗んで、二人は森に足を踏み入れた。

 彼女達は森に入ってすぐ、お菓子で出来た家を見つけたという。当初の目的を忘れ、美味しそうなお菓子を食べていたところ、恐ろしい魔女に捕まってしまった。

 兄であるフレイは自ら囮となって、妹を逃した。フレイヤは来た道を急いで戻って、何とか村に戻ることが出来た。

 そして、村長家にいたヨクルに助けを求めた。


 フレイヤから話を聞いている間、村長の家には騒ぎを聞きつけた村人達が集まってきていた。

 父親であるニョルズはフレイヤに寄り添い、背中を撫でながら、彼女の話を根気強く聞いた。


「【甘い罠の魔女(バーバ・ヤーガ)】──」


 ヨクルがぽつりと呟いた。


「子供好きな異変です。お菓子の家という甘い罠で子供を誘い、捕らえて──食らいます」

「そんな……お兄ちゃん食べられちゃうの……!?」


 フレイヤは手で顔を覆って、わあっと泣き出した。

 ニョルズが顔を青くして、震え声で言った。


「じゃあ、フレイはもう既に……」

「幸いなことに、甘い罠の魔女は美食家です」

「それの何処が幸いなんすか!」


 ニョルズは思わず声を荒げた。

 ヨクルは冷静に答えた。


「魔女は下ごしらえに時間をかけるタイプなのですよ」

「つまり……?」

「フレイさんはまだ生きている可能性が高い、ということです」


 ヨクルは壁に立てかけてあったランプの杖を手に取った。


「ニョルズさん、鐘塔の鍵を開けて下さい」

「鐘を鳴らすんですか? それなら俺が……」

「勿論、鐘を鳴らすのは貴方の役目です。高所から森を観察し、お菓子の家が今何処にあるのか、見当をつけてから森へ入ります」


 フレイヤは目をぱちくりさせた。


「……助けてくれるの?」

「それが僕の役目ですから」


 ヨクルはそれが当たり前のことのように言った。

 ニョルズは深く頭を下げた。


「……ありがとうございます、ヨクル様。直ぐに鍵を開けます!」


 ニョルズはフレイヤを村長に任せ、鐘塔へと向かった。


 □


 鐘塔の鍵を開き、ニョルズとヨクルと俺は鐘塔の中に入った。内部は螺旋階段のようになっていて、鐘のある最上階に繋がっているようだった。

 最上階につくと、ヨクルは森を見下ろした。俺はヨクルの隣に立ち、同じように森を見た。各所に点々と妖霧が発生しているのが見える。


「あの霧は……」

「妖霧です。あの霧の中では今、異変が発生しています」

「森ではこんなに異変が起きてるのか……」

「ほぼ無害な異変です。害のある異変も、森に入らなければ問題ありません」


 ヨクルはランプの杖に欄干に立てかけ、目元の穴ぶれないように、かぼちゃの被り物を両手で固定した。


「一軒家を覆う広さの霧。お菓子の家は〝家〟という性質上、移動しないことを考慮すると……」


 ぶつぶつと呟きながら、森の端から端までじっくりと観察する。


「……三つほど、お菓子の家が発生してそうな場所を確認しました。ニョルズさん、僕が戻るまで鐘を鳴らし続けて下さい」

「わ、わかりました!」


 俺が階段を降りようと踵を返したとき、ヨクルは欄干に立った。


「ヨクル!?」


 止める間もなく、ヨクルは地上へ飛び降りた。

 俺は慌てて、欄干から身を乗り出し、下を見た。

 ヨクルは足をクッションにして着地していた。

 突然飛び降りてきたヨクルに、集まった村人達は驚きの声を上げた。

 ヨクルは何事もなかったかのように立ち上がると、すたすたと森へと向かっていく。


「待て待て待て!」


 俺は置き去りにされたランプの杖を掴むと、慌てて鐘塔の階段を下った。


「ヨクル! 俺も行く!」

「ティリルさんはここにいて下さい」

「一旦、落ち着け! ランプの杖を忘れてるぞ! これがないと、妖霧の中を進めないだろう!」

「……あ」


 ヨクルは手に何も持っていないことに気づいたようだ。俺の手から杖を取ろうとするのを、俺はかわした。


「一旦、落ち着け。深呼吸だ」

「深呼吸……」


 ヨクルは数秒、固まった。


「しました」

「……本当にしたか?」

「ええ」


 俺は疑いの目でヨクルを見た。深呼吸どころか、呼吸すらしてないように見えたからだ。

 ヨクルは手を差し出して、ランプの杖を渡すように催促する。俺は仕方なく、ヨクルに杖を手渡した。

 

「ヨクル様!」


 フレイヤが叫び、ヨクルに駆け寄った。


「お兄ちゃんを助けて下さい……! お願いします……!」


 フレイヤが深く頭を下げた。

 ヨクルは強く頷いた。


「フレイさんは僕が必ず助けます」

「良い子で待ってるんだぞ」


 俺はフレイヤの頭を撫でると、ヨクルと共に森の中へ入った。


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