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黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第一章 覚醒
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第八夜 扶助

 

 12月31日の夜、冷たい空気が肌を刺す。街灯や提灯の柔らかな光が、参道を淡く照らしていた。帝国の支配下でほとんどの日本独自の文化や遺産は失われたが、なぜか神社だけは残っており、この地域では12月31日から1月3日まで初詣の人々で賑わう。縁日も出ていて、普段とは違う正月の雰囲気が街を包んでいた。


 茉奈と俺は、フードと伊達メガネで変装しつつ、参道を歩く。人混みは思ったより少なく、夜とはいえちらほらと家族連れや犬の散歩をする人の姿が見えるだけだ。風が冷たく頬を撫でる。隣で茉奈は微笑みながら歩き、俺の手をそっと握る。


 縁日を抜け、神様への挨拶を済ませ、屋台の匂いに少し心を弾ませた矢先、目の端で小さく震える銀髪の女の子を見つけた。3歳ほどのその子は、両手をぎゅっと握りしめ、うつむいて涙をこらえている。周囲には親らしき人影はなく、あたりを走り回って探している様子もない。


 茉奈は一瞬こちらを見て、無言でうなずき、すぐにその子のもとに駆け寄る。しゃがみこんで、優しく声をかける。

「お父さんかお母さんは?」

「いない……」

「さっきまで一緒だったの?」

「うん……」

 とうとう小さな肩が震え、涙がこぼれそうになる。茉奈は子どもを抱き、少し離れた静かな場所に移動した。


「ここじゃ、人込みで見つけられないな」

 俺は心の中で呟き、フードを深くかぶり、子どもを後ろ向きに抱かせる。茉奈の胸に顔を埋めた瞬間、覚醒が走る。耳に届く足音、落ち葉の擦れる音、遠くの声までがくっきりと捉えられる。視界は鮮明に広がり、時間が圧縮されたように動作が正確になる。


 俺はそっと枝に飛び乗り、参道を見下ろす位置まで上る。街灯や縁日の屋台の光に反射する人影、ざわめく声、微かに聞こえる靴音――すべてが鮮明に把握できる。鳥居の近く、りんご飴屋の前で小さな声で名前を呼しながら慌てる夫婦らしき姿を見つけた。子どもの親に違いない。


 だが、地上に降りたら慎重を期さねばならない。人目に触れず、能力を使いすぎず、子どもは茉奈に任せつつ自分は下を向いて歩く。能力を露出させるリスクは常に存在し、フードの奥の黒髪を押さえながら進む緊張感は、家の近くの公園とは比較にならなかった。


 茉奈が抱える子どもを無事に親に渡すと、親子は抱き合い、安堵の涙を流す。子どもも小さな手を伸ばし、笑顔を取り戻した。俺は少し離れた位置からそれを見守り、胸の奥にじんわりと安心感が広がる。


「……よかった」

 小さく息を吐き、俺はフードを整え、茉奈と目を合わせる。微笑みを返す彼女の存在が、緊張の中での唯一の心の支えだった。


 その後、参道を後にしながら、俺は心の中で考える。能力は確かに自分のものだ。茉奈の胸で誰でも発現するわけではない。混雑した街の中でも、自分の力が役立つことを実感した。人目を避け、慎重に使う必要があるとはいえ、これまでの訓練と同様に、確実に成長していることを感じる。


「とりあえずどうにかなったな…」

 茉奈の微笑みと共に、静かにうなずく。年末の冷たい夜風に包まれながら、まだ見ぬ世界で自分の力を確かめる期待が、胸に静かに芽生えていた。


 しかし、俺たちの背後――参道の灯りから少し離れた茂みの影で、二つの瞳がじっと見つめていた。彼らの視線は慎重で、緊張感を帯び、まるで俺たちの行動を評価するかのようだった。銀髪の少女の救出を見守る茉奈の姿、そして俺の黒髪の存在――そのすべてを、見逃さなかったのだ。


 夜の神社と参道の光景は、ただの初詣ではなく、俺にとって能力の実戦確認の場となった。茉奈との連携と信頼、そして能力の存在意義――そのすべてを噛みしめながら、二人は静かに歩き、思いを胸に刻んでいった。


 

次回は 9月22日(月) 19時 更新予定です


読んでくださった皆さん、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

年末の神社での一件、どうでしたか? 茉奈とのコンビプレイ、そして尊の能力のちょっとしたお披露目――少しでもワクワクドキドキしてもらえたなら嬉しいです。


これで尊の能力チュートリアルもひとまず終了です。銀髪だらけの中での異端への警戒感、少しは伝わったでしょうか? もちろん、ここで終わりではありません。これから待ち受ける試練――物語は、ここからさらに動き出します。


次回からは、茉奈との連携はさらに深まり、新たな敵や謎が立ちはだかる……かも? 期待して待っていてください。


それでは、次の章でまたお会いしましょう!

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