第七夜 野外
年末の寒い夜、公園に向かう小道は静かだった。深夜というほどではないが、人通りは少なく、たまに犬を連れた散歩者の足音が聞こえる程度だ。街灯が並ぶ舗道を進むと、冬の冷気が頬を刺す。茉奈は隣で微笑みながら歩き、フードと伊達メガネで変化した自分の顔を隠している。
「……人が少ないね」
「うん、でも全然安全そう」
俺は微かに聞こえる犬の足音や遠くの声を捉え、どの辺りに人がいるか正確に把握できることに気づく。耳を澄ませると、微細な振動や落ち葉の擦れる音も拾える。能力の成長が、家の中だけでなく外の世界でも役立つことを改めて感じる瞬間だった。
公園に着くと、広い空間が視界に広がる。街灯の明かりに照らされたベンチや遊具の影、風に揺れる枝のささやきまで、すべて鮮明に捉えられる。俺は思わず立ち止まり、深呼吸を一つする。
「じゃあ、試してみようか」
茉奈はそっと微笑み、つないでいた手を放す。
踏み出すと、地面の反発が体に跳ね返る。ジャンプすると風が顔を撫で、枝の間をすり抜ける感覚が手に伝わる。
地面との接触や風の流れを正確に把握でき、パルクールのような動きも無理なくこなせる。
俺の動きに世界が遅れてついてきているみたいだ。
茉奈も俺の横で跳ね、微笑みながら小さく声をあげる。
「尊、ちょっと怖いけど……その速さ、かっこいいよ」
風が突然強く吹き、俺のフードがめくれ黒髪が一瞬露出した。
タイミングよく犬を連れたおじさんが振り返った。一瞬だけ戸惑ったようだが距離があって助かった。
思わず手で押さえる。茉奈と目が合い、二人でくすりと笑う。外での能力使用には、小さなリスクがつきまとうことを改めて実感する瞬間だった。
走りながら、俺はずっと疑問に思っていたことを口にする。
「……この力って、俺だけなのか?」
茉奈は少し間を置き、照れながら答える。
「実家に帰った時に、弟には何も起きなかったよ。でも尊のときは……こんなにドキドキするの不思議だよね。」
「……そうか。なんかうれしいな……」
周囲の状況を把握しながら、公園内を自由に動き回ることで、俺は自分の力の範囲と限界を確認した。時間の圧縮、視覚・聴覚の鋭敏化、筋力と俊敏性の向上――これらがすべて統合されると、夜の公園は、ただの静かな場所ではなく、能力の可能性を試す理想的なフィールドになる。
「……次は、もっと広い場所でも試してみる?」
茉奈の微笑みに、俺はうなずく。心の奥で、まだ見ぬ世界で自分の力を確かめる期待が芽生えた。
夜風に混じる自分と茉奈の鼓動が、次の試練を予感させるようだった。
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次回は 9月19日(金) 19時 更新予定です




