表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第一章 覚醒
6/46

第五夜 制御



 夜も深まり、部屋には月明かりだけが差し込む。

 黒髪のまま、俺は茉奈のそばに座っていた。

 髪に触れられるたび、地下での感覚と胸に顔を埋めた記憶が鮮やかに蘇る。


 自分の感覚では、ずいぶん長い時間が経ったように思えるが、実際にはまだ二時間ほどしか経っていない。

 普段なら気にも留めない窓の外の風の音や家具の軋む音、壁や床の微細な振動までも、裸足でガラス片を踏んでいるみたいに鋭く痛いほど鮮明に感じられる。

 指先で触れた布の繊維の感触や空気のわずかな温度差まで、脳が過剰に認識しているようだった。


 文字を書こうとしても力加減がうまくできず、ペンが滑って文字が潰れる。

 呼吸の微細な振動すら感じ取り、心臓の鼓動が頭に響き痙攣するような感覚に襲われる。


「ねえ……大丈夫?」

 茉奈がそっと声をかけ、俺の黒髪に手を伸ばす。

 その指先の感触に、思わず胸がぎゅっとなる。


「……黒い髪……すごく……好き……」

 彼女は息を漏らし、髪一本一本に指を通す。

 その手のひらは温かく、やさしく、不安と安堵の入り混じった眼差しを向ける。


 茉奈の瞳が輝く。

「この黒……あなたの髪……日本人の象徴みたいで……」

 彼女の声には、誇りと愛惜が混じっていた。

 銀髪の世界で黒髪が一瞬だけ現れる――それは、征服下の日本人である俺の『根源』を思い出させる。

 茉奈はその瞬間を、胸の奥で抱きしめるように見つめている。


 声を出すことはまだ難しく、早口で上ずった言葉しか出せない。

 仕方なく、紙とペンを手に取り、ゆっくりと文字を書く。

 だが、文字は時々ぐにゃりと歪み、思うように書けない。


「……少しずつ、動かせるようになってきた」

 茉奈は紙を覗き込み、微笑む。

「すごい……私も隣にいるから、ゆっくりやれば大丈夫だよ」


 そこから俺たちは、制御の訓練に没頭した。

 手の動き、文字の書き方、声の出し方――少しずつだが確実に慣れていく。

 しかし、手を止めた瞬間に指が震え、紙を弾き水をこぼす――そんな小さな失敗を繰り返す。


 時間が経つと黒髪化は解消されるのかと思っていたがどうやら違うようだ。

 他の条件を探すため、試しに部屋の電気をつけてみる。

 蛍光灯が部屋を満たすと、視覚情報量が爆発的に増え、脳内で処理しきれないほどの情報が押し寄せる。

 目が痛く、頭の奥で小さな響きが連鎖するように感じる。

「暗闇じゃなくてもいいのか……」

 この反応が何を意味するのか、まだ見当もつかなかった。


 時間の感覚は拡張されているようで、夜が異様に長く感じられる。

 気づけば空が白み始め、朝の光が窓から差し込む。

 その瞬間、体中の異常な感覚は消え、髪も元の銀色に、目も銀目に戻った。


「……日を浴びるともどる……のか?」

「これで、なんとなく解除方法見えてきたね。」

 二人で視線を合わせ、初めてこの力のルールを理解した瞬間だった。

 ずっと黒髪でいなくてはいけないわけじゃないということがわかり安堵する。


 能力はまだ完全には制御できない。

 だが、秘密を共有する茉奈の存在、暗闇での感覚の鋭さ、胸に残る黒髪への愛情、そして光によるリセット


 四つの条件が、ぼんやりと形づくっていく気がした。



 胸の奥でざわめく期待と不安を抱えたまま、夜は静かに終わりを告げた。

 世界はまだ平穏に見えるが、俺の日常はもう二度と以前のままではないことを胸の奥で静かに確信していた。


次回は 9月15日(月) 19時 更新予定です


第一章(序章)をここまで読んでくださりありがとうございます!

黒髪化能力チュートリアルは、あと3話で終了──

この先、物語は本当の姿を現し始めます。ぜひ最後まで見届けてください。


続きが読みたい、面白いと思ったら星(評価)やブックマークをお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ