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黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第二幕 終章
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第二幕 エピローグ

 ──第二幕 血の暁 エピローグ──


 深い闇に包まれた一室。壁を埋め尽くすモニターの青白い光だけが、そこにいる者たちの輪郭を不気味に浮かび上がらせていた。中央の豪奢な椅子に深く身を沈めた男――神凪皓一朗は、モニターに映し出された日本独立党与野事務所の映像を、静かに見つめている。


「……誉のやつめ。いつの間にか、守るべきものを見つけ、人を導く立場になりおって」


 その呟きは、かつての教え子の成長を誇る師のものであり、同時に、袂を分かったことへの寂しさを滲ませていた。あの頃、自分の後ろだけをついてきていた腕白な少年が、今や一つの組織を率い、自らの意志で道を選んだ。その事実が、神凪の胸に複雑な感慨を呼び起こす。


「だが、惜しいのぅ。あの武神……藤堂尊とか言ったか。あれほどの逸材、未覚醒の誉の手には余るだろう」


 壁にもたれかかっていた長髪の男が、舌なめずりをするように唇を歪めた。東富士で尊に一撃を食らわされた記憶が、彼の闘争本能を今もなお刺激している。


「あやつと、もう一度やりとうてたまらん。次は必ず、俺が勝つ」


 その言葉を、隣に立つ短髪の男が冷ややかに遮った。

「今のままでは、おはんが殺されるだけじゃ。あやつの成長速度は異常じゃ。次に会う時は、もっと化け物になっちょる」


「だからいいんじゃろうが!」


 長髪の男は、挑戦的な視線を神凪へと向けた。

「神凪様。俺たちの目的の邪魔をするなら、あやつら、殺してもよかですよね?」


 その問いに、神凪は表情一つ変えず、ただ静かに、そして冷徹に告げた。


「無論だ。我らが『残光』の道を阻む者は、たとえかつての教え子であろうと、容赦はせん」


 その言葉が、新たな戦いの始まりを静かに告げていた。



 ***



 同じ頃、日本独立党与野事務所の訓練場では、新たな稽古が始まろうとしていた。


「師匠、か……」


 浜田は、尊たち四人から向けられる真剣な眼差しに、少し照れくさそうに頭を掻いた。恩師である神凪との決別は、心にぽっかりと穴が空いたような寂しさを残した。だが、今、自分の目の前には、自分を「師」と仰ぎ、教えを乞う若者たちがいる。その事実が、寂しさと同じくらいの温かい喜びで、彼の胸を満たしていた。


「まあ、そんな大層なもんじゃない。俺が神凪さんから教わった、古流武術の基礎の基礎を、お前たちに叩き込むだけだ。能力に頼るだけではなく、自分の基礎の力を底上げして体を鍛えれば自ずと心にも余裕ができるとおもう。そうすれば、能力を使った時にでも、いざというときに落ち着いた判断ができるんじゃないかな?」


 浜田はそう言うと、パン、と一つ柏手を打った。道場の凛とした空気が、その場を支配する。


「今日教えるのは、たった二つ。姿勢と呼吸。いいか、武術の極意は、全てこの二つに集約されると言っても過言じゃない」


 浜田はまず、尊の後ろに立つと、その背中をポンと叩いた。

「尊。お前は才能もあるし、最近の訓練で体も出来上がってきている。だが、少し力みすぎだ。もっと肩の力を抜け」


 次に、茉奈の前に移動し、苦笑いを浮かべる。

「茉奈くんは……うん、なかなか見事な猫背だな。普段のデスクワークの賜物か?」

「うっ……」


 図星を突かれた茉奈が、顔を赤らめて俯く。


「いいか、お前たち。人間の体の中心線、『正中線』を常に意識しろ。そして、へその下、指三本分奥にある『丹田』。ここに、全ての力の源がある。この丹田と、背骨、そして頭のてっぺんが、一本の串で貫かれているようなイメージを持て」


 浜田は、一人ひとりの姿勢を丁寧に正していく。煉の前のめりな姿勢を直し、葵の少し浮ついた腰を落ち着かせる。


「そして、呼吸。吸う息よりも、吐く息を長く、深く。全ての動作は、この呼吸と連動させるんだ」


 その日、尊たちが命じられたのは、ただひたすらに正しい姿勢を保ち、呼吸を繰り返すことだけだった。あまりにも地味で、退屈な訓練。だが、四人の顔に不満の色はなかった。この一見無意味に見える所作こそが、自分たちを新たな高みへと導く、全ての土台になるのだと、誰もが直感で理解していたからだ。



 ***



 鍛錬を終えた浜田は、執務室で詩織と向かい合っていた。テーブルの上には、関東一円の地図が広げられている。


「残光も、神域を巡れば力を増幅できることには、もう気づいておるじゃろうな」

 詩織が、鋭い視線で地図上のいくつかのポイントを指し示す。


「だろうな。だが、俺が思うに、ただ行けばいいってもんじゃない。茉奈くんや葵、煉の覚醒を見てると、どうも『純粋な心からの祈り』みたいな、非科学的なもんが必要なんじゃないかと思えてくる」


「うむ。それに、本人と神社の『相性』というのもありそうじゃ。葵が日光東照宮で、煉が鹿島神宮で覚醒した。偶然とは考えにくい」


「そう考えると、次は葵を増上寺に連れて行ってみる価値はあるな。家康公繋がりで、何かあるかもしれん」


 浜田はそう言うと、一つ、大きな謎を口にした。

「問題は、尊だ。あいつは一体、どの神様と相性がいいのやら……。こればっかりは、科学じゃ証明できんから、難しいねぇ」


 詩織が、不意に真剣な顔で浜田を見つめた。

「浜田よ。この戦、これから先、残光との『陣取りゲーム』になるのではないか?」


「……分かってる」


 浜田の声が、わずかに低くなる。


「神々が授けてくれる力は、無限じゃないはずだ。一つの神域で覚醒できる人数には、限りがあるだろう。神凪さんのあの言い方だと、早い者勝ち、ということかもしれん。だからこそ、彼らは様々なタイプの能力者を集め、多くの覚醒者を囲い込もうとしてるんだろうな」


「今までは漠然と帝国が敵じゃったが……厄介なものが現れたもんじゃ」


 詩織の言葉に、浜田は自嘲気味に笑った。


「ああ。まったく、すまないねぇ。俺の師匠が、とんだ置き土産を残してくれたもんだ」


 その横顔には、かつての師への複雑な思いと、これから始まるであろう新たな戦いへの、静かな覚悟が刻まれていた。


『黒髪巫女と銀髪少年の深淵』をお読みいただき、ありがとうございます。

おかげさまで、第二幕を無事に書き終えることができました。


新しい話を公開するたびに読みに来てくださる皆様の応援が、執筆の何よりの力になっています。

本当にありがとうございます。


これから第三幕の構想に入ります。

少しでも「続きが気になる」と思ってもらえるような展開を描けるよう、しっかり考えていきます。


よろしければ、ブックマークや評価、そして感想で、この物語を共に育てていただけると嬉しいです。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



続きが読みたい、面白いと思ったら星(評価)やブックマークをお願いします!

次回は 2月23日(月) 19時 更新予定です

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