表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第一章 覚醒
4/46

第三夜 日常

時系列に誤りがあったので、一部文言削除しました。



 昼休みの工場休憩スペース。

 規則正しく並ぶ机と椅子、天井の蛍光灯、微かに響く機械音――そのすべてが、普段と変わらない風景だった。


 俺はおにぎりをかじりながら、ぼんやりと地下での出来事を思い出していた。

 瓦礫の中、茉奈の胸元に顔を突っ込んだ瞬間――耳に届く音、空気の揺れ、時間の感覚までが異様に鋭く感じられたあの瞬間。


「ねえ……地下のこと、何か思い出した?」

 茉奈が小声で話しかけてきた。


「地下でのことか?」

 俺は箸を止め、彼女の顔を見上げる。


「うん……私の胸に顔を埋めた後、尊変だったって言ったよね。音とか風とか……」

 頬を少し赤らめ、目を逸らす茉奈。

 その視線に、俺の心臓は不意に早鐘を打った。


「そ、そうかな……でも、俺には何も……」

 言葉に詰まり、思わず下を向く。

 何が起きたのか、どうすれば再現できるのか――まだ分からない。


 茉奈は少し間を置いた。その表情に、一瞬だけ不安そうな色がよぎったのを俺は見逃さなかった。

 昨日の俺は、きっと彼女を怖がらせてしまったのだろう。あの異常な力は、俺たちの平穏な日常を壊してしまうかもしれない。そんな恐怖が、彼女の瞳の奥に揺らめいて見えた。


 だが、彼女はすぐに小さく息を吸うと、迷いを振り払うように強い光を瞳に宿した。まるで、何かを決心したように、まっすぐに俺を見つめてくる。


 そして、ゆっくりと俺の頭を胸元に抱き寄せた。


「……尊の髪、また黒くなるかもしれない……原因が分からないと怖いし、確かめないと」


 体温が伝わる距離、柔らかい感触、甘い香り――思わず顔が熱くなる。

 だが、何も起きなかった。


 ……ラッキーで済ませられるはずもない……本当に、どういう条件なんだ?

 心の中で呟く。

 それでも、茉奈の手の温もりや体温が妙に心地よい。


 その瞬間、休憩室のドアが開き、同僚の声が飛び込む。


「おいおい、仲がいいのは知ってるけど、そういうのは家でやれよ?」


 俺も茉奈も真っ赤になり、顔を伏せる。

 恥ずかしさと緊張で、しばらく呼吸が荒くなる。


 それでも二人の間には、ほんの少しだけ秘密めいた距離感が生まれた。

 胸に顔を埋めたあの感覚は、昼間には再現できないけれど、記憶だけがそっと残っている。


 それから数週間、地下での条件を再現しようと試みたが、結果はゼロ。

 何度やっても、音や時間感覚は普段通りで、髪の色も変わらない。


「……ほんとは、ただ胸に顔を埋めたいだけだったりして」

 茉奈が小さく呟き、少し目を細める。


 俺は必死に否定するが、同時に胸の奥が熱くなるのを感じた。

 能力の有無はともかく、茉奈と密着している時間は、ただの「偶然」ではない特別な感覚を与えてくれるのだ。


 昼間の工場は安全で規則正しい世界。

 だが、俺たち二人の間には、地下での不思議な感覚の記憶が、静かに息づいていた。


「……また夜にでも試してみる?」

 茉奈の声は小さく、でも明るさを含んでいる。


「いや、今は……」

 俺は答えを濁す。胸の奥が熱くなるのを感じながら、少しだけ笑った。


 こうして、俺と茉奈の日常は、普段と変わらないように見えながらも、

 どこか微妙に、不可思議な「何か」を孕んだまま進んでいくのだった。

続きが読みたい、面白いと思ったら星(評価)やブックマークをお願いします!

次回は 9月10日(水) 19時 更新予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ