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黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第二幕 黎明再起
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プロローグ

 ──第二幕 黎明再起 プロローグ 血の暁──


 仙台駐屯地の薄暗い情報管制室。壁一面に並んだモニターが、夜明け前の首都中枢を映し出している。作戦開始まで、あと30分。


 情報技術士官として、まだ若輩の身だった俺に、この「暁の蜂起」という歴史的作戦の最前線に立つことは許されなかった。神凪(かんなぎ)さん……統合幕僚長であり、俺の師でもある彼が、作戦直前に俺を仙台へと配属させた。「(ほまれ)は、俺たちが作る新しい時代を生きてくれ」。その言葉は、俺への信頼と、未来への希望を託す重い命令だった。前線に立てないもどかしさはあったが、神凪さんの言葉を胸に、俺は与えられた後方支援任務、つまり通信状況の監視に集中していた。何一つ見落とすまいと、神経を研ぎ澄ませる。


 モニターには、黒髪部隊(こくはつぶたい)の仲間たちが、闇に紛れる黒い戦術服に身を包み、各拠点より静かに配置につく姿が映し出されている。Code81区首都東京。帝国に支配され腐りきった傀儡政権を打倒し、アイデンティティーを失った日本人が真の独立を勝ち取る。彼らの顔は、緊張と、そして新しい日本を切り拓くという高揚感に満ちているように見えた。俺の胸にも、神凪さんへの絶対的な信頼と、この作戦が成功した暁には、真の夜明けが訪れるのだという、熱い希望が満ちていた。


「作戦開始まで、残り30分」。ヘッドセットに響く冷静な声が、カウントダウンを告げる。その声は、まるで俺たちの未来を刻む時計の音のように、重く、しかし確かな響きを持っていた。


 作戦開始まで、残り20分を切った頃だった。


 帝国のネットワーク内で、一瞬だが不審な情報トラフィックの急増を察知した。それは、通常の通信とは明らかに異なる、極めて高度に暗号化されたデータパケットだった。帝国軍上層部のみが使用する、特別な暗号。俺の直感が警鐘を鳴らす。これは、ただの通信ではない。何か、決定的な異常が起きている。


 指がキーボードの上を踊る。必死に解読プログラムを走らせながら、俺はモニターの片隅に表示されたカウントダウンから目を離せない。19分、18分……。時間が、まるで俺の命を削るように冷酷に進んでいく。汗が額を伝い、視界が滲む。頼む、間に合ってくれ。この胸騒ぎが、ただの杞憂であってくれ。俺の解析能力が、今、試されている。


 そして、数秒にも永遠にも感じられる時間の後、復号化された文字列が黒い画面に一文がはじき出された。


「指定区域内に捕捉完了。掃討を開始せよ」


 その瞬間、俺の全身から血の気が引いた。頭の中が真っ白になり、次いで、激しい悪寒が背筋を駆け上がった。

 罠だ!!

 俺たちの「暁の蜂起」は、最初から帝国に筒抜けだったのだ。この通信は、黒髪部隊が、まさに今、帝国の仕掛けた罠の中心に足を踏み入れたことを告げる、冷酷な宣告だった。希望は、一瞬にして打ち砕かれた。


「罠です!中止を!すぐに作戦を中止してください!」


 俺は叫んだ。管制室の静寂を切り裂くような、情けないほどの絶叫だった。血相を変え、あらゆる手段で黒髪部隊への警告を試みる。緊急回線、バックドア、あらゆるプロトコルを無視して、ただ一刻も早く、この絶望的な事実を伝えようと奔走した。

 しかし、黒髪部隊は、作戦実行のため、すでに完全な通信封鎖状態に入っていた。俺の声は、届かない。俺の警告は、虚しく空を切るだけだった。

 モニターのカウントダウンは、無慈悲にも進む。16分、15分……。


 その時、神凪さんからの最後の通信が入った。

「定刻通り作戦を実行する。日本の夜明けは、我々の手で」。

 力強く、しかしどこか覚悟を秘めたその声。それが、俺が聞いた師の、最後の声だった。

 通信は、そこで途絶えた。


 直後、モニターに映し出されていた首都の各拠点が、一斉に閃光に包まれた。帝国が誇る最新鋭の無人兵器部隊が、まるで最初からそこにいたかのように、黒髪部隊を一方的に攻撃し始めたのだ。

 爆炎が夜明け前の空を赤く染め上げ、血のような朝日が昇る。

 モニターには、次々と爆砕される建物、散り散りになる仲間たちの姿が映し出される。しかし、管制室には、彼らの断末魔すら届かない。ただ、無機質な爆発音と、通信が途絶えたことを示すノイズだけが響く。

 俺は、ただ画面を見つめることしかできなかった。神凪さんの姿も、炎と爆煙の中に消えていく。俺の目の前で、俺が信じた「暁」が、血の朝日に変わっていく。


 クーデターは、失敗に終わった。

 神凪さんの計らいで、俺のような若き隊士たちは実行部隊から外され、命を失うことはなかった。だが、俺の心には、尊敬する師と、多くの仲間を救えなかった激しい後悔が、深く深く刻み込まれた。

 あの時、俺は知っていた。知っていたのに、伝えることができなかった。

「知っていても、伝えられなければ意味がない」――その痛烈な無力感が、俺の全身を蝕む。

 仙台駐屯地から辛うじて脱出した俺は、地下深くへと逃れた。血の朝日の光景が、記憶の海に沈んでいく。



次回は 11月24日(月) 19時 更新予定です

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