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黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第三章 始動
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第四夜 祈望

 

 廃ゴルフ場に続く細い道は、草に覆われ舗装も割れ、かつてここが整然としたフェアウェイだったとは思えないほど荒れ果てていた。

 尊たちを乗せたバンは、背の高い雑草をかき分けるように進み、やがて広々とした芝の跡地に姿を隠すように停車する。周囲には崩れたカート道や錆びついたクラブハウスの残骸。今はただ、風に揺れる草と、遠くに不気味に光るソーラーパネル群があるだけだった。


「ここまでは、追跡の目は届かないはず」

 助手席から降りた煉が低くつぶやく。


 尊は頷き、運転席から降りバンの屋根に取り付けていた簡易アンテナを操作する。

「御殿場事務所、こちら救出チーム。これより徒歩で潜入を開始する。以後、通信は困難と思われる。全て予定通りに進める」

 短く送信すると、雑音混じりの返答が一瞬だけ返り、すぐに回線は途絶した。

 助手席側では、煉が地上支援チームの浜田に連絡を入れ終わっていた。


「……これで最後だな」

 尊は深く息を吐き、仲間たちに目を向ける。


 帝国が占領する以前、日本ではゴルフは誰もが楽しむスポーツだった。しかし今やゴルフ場の多くは閉鎖され、その跡地は金持ちの別荘か、あるいは帝国企業のソーラーパネル敷設地へと変わっていた。丘の斜面にぎっしりと敷き詰められた銀色の反射板が、陽光を照り返し、人工的な光害を作り出している。

「これもまた、占領の爪痕か……」

 尊のつぶやきに、楓が苦笑を漏らした。

「趣味んゴルフまで奪うっちゃね。趣がなか。」


 子供たちは背負った荷を確かめ合い、無言で頷き合う。もう引き返すことはできない――その決意が一人ひとりの目に宿っていた。


 ◇◇◇


 潜入開始からしばらくは、張り詰めた沈黙が辺りを支配していた。

 尊が足を止め、視線で後ろの仲間を制す。楓は荷物を抱え直し、背中のセンサーに触れないようそっと歩く。

 葵は手で茂みを押さえ、枝のカサカサという音を最小限に抑えた。


「よし、ここを抜ければ……」

 煉が小声で言いかけた瞬間だった。


 ――ドンッ! ドゴォォン!


 遠くで連続した爆発音。炎が立ち昇り、衝撃波が夜気を震わせる。続けざまに警報がけたたましく鳴り響いた。


「なっ……なんだ!?」

 煉が声を上げる。まだ続く爆音が、衝撃が子供たちの顔に緊張が走る。

 でも誰も後ろを見ない。


 尊は即座に判断した。

「今しかない、走れ!!」


 施設の警備兵たちが爆発方向へ一斉に駆けていく。瞬く間に正面は手薄となった。尊は迷わず合図を送り、闇に紛れて駆け出した。


 ◇◇◇


 その頃、御殿場事務所。

 通信は途絶え、ただ遠くの地響きだけが不気味に響いてくる。爆発の知らせに、室内はざわめいた。


「尊……!」

 茉奈は膝を抱え、必死に祈るように小さく声を漏らす。胸は痛いほど締め付けられ、呼吸さえ乱れていく。過呼吸になりそうな勢いで心を注ぎ込む。だが、ただ祈るだけではない――茉奈の胸の奥には、出発前の尊とハグをした心の温もりがまだ残っていた。


 ――その瞬間、視界が歪んだ。


「えっ……?」


 視界が一瞬にして広がり、尊の姿が点として認識できた。その無事を確かめ、意識が身体に戻る。


 ――その時。

 脳裏の映像の尊が、一瞬だけ振り返った。


「……っ!」

 茉奈の鼓動が激しく跳ね上がる。鼓動に合わせて髪が熱を帯び、漆黒へと染まる。


「茉奈!おぬし……」

 近くで詩織の驚愕の声が響く。


 精神干渉に続く、新たな力――広範囲視覚リンク。その能力が、尊を強く思う気持ちと共鳴することで解放されたのだ。


 だが同時に、膨大な情報が茉奈の意識を押し潰そうとしていた。

 全てが一度に脳裏に流れ込む。


 手が震え、膨大な量の映像で視界が揺れる。

「倒れちゃダメ…!」という思いが、全身を奮い立たせる。

 揺れる視界の向こう、風牙と霧乃の腕がしっかりと支え、重力のように崩れそうな意識を引き戻してくれた。


「おねえちゃん!絶対支えるから!!」


 仲間の声に包まれながら、茉奈は必死に自分を保つ。黒髪に変わった己の姿を、心のどこかで確かめるように。


 ――尊、どうか無事で。必ず帰ってきて。


 視界の中で、闇に紛れて施設へと突入する尊たちの姿がくっきりと浮かぶ中、茉奈は祈りを続ける。


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次回は 11月10日(月) 19時 更新予定です

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