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黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第三章 始動
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第二夜 共鳴

 

 御殿場事務所に朝日が差し込む頃、駐車場には見慣れぬ小さな影がちらほらと集まっていた。黒髪を銀髪に染めた子供たち――各地方事務所で保護された子供たちだ。普段なら、子供たちを一堂に会させるなど絶対に避けるべき状況だった。しかし、彼らは自主的に集まってきていた。


「ちょっと、君たち、なんでここにきちゃったんだ!」

 浜田が目を丸くして叫ぶ。驚きと苛立ちが混ざった声に、子供たちは一瞬肩をすくめたが、まっすぐに目を返す。


「お前らも、なんで勝手に連れてきたんだ!」

「でも……どうしても行きたいって、聞かなくて……」

 地方の党員は肩をすくめ、疲れた笑みを浮かべる。

「能力者の制御なんて無理です……。留守番なんかさせたら、絶対こっそり動きますよ。もう、仕方なく連れてきました」


 尊も車から降り、静かに子供たちの顔を見渡す。出会った時のおびえた表情は無い。

 小さな背中に宿る決意、緊張と不安、そしてどこか誇らしげな光。茉奈もそっと手を伸ばし、肩に触れる。

「……大丈夫。今日はあなたたちの意思で、動いていいよ。助けにいこう!」


 浜田と詩織は目を見合わせ、眉をひそめた。子供たちを危険にさらすことに変わりはない。だが、今さら止めることもできない――能力者の意思や能力は強固で、無理に抑え込むことはできないのだ。心配と不安が胸の奥に重くのしかかる。


 子供たちは、互いに小さく顔を見合わせながらも、決して後ろに下がろうとはしない。車に乗っていた時の緊張、各地で助けられたときの感謝の思い、そしてこれから自らの意思で誰かを助けようという覚悟――そのすべてが、小さな背中にぎゅっと詰まっているようだった。


 会議室に入ると、子供たちは静かに席に座ったものの、瞳はまっすぐ尊と茉奈を見つめていた。助けられるまでは道具として、そのあとは守られる立場にいた彼らが、今は自らの意思でここに立っている。

 その姿に、部屋の空気はさらに張り詰める。


 尊はゆっくり口を開く。

「君たちがここに来た理由はわかる。……でも、今回の任務は危険だ。安全を最優先に行動する」


 銀髪の少女が手を挙げ、小さな声で言った。

「でも……まだ助けを待ってる子たちがいるんです。私たち必要だと思うんです!」


 別の少年も続ける。

「僕たちも……お姉ちゃんに助けてもらった。今度は僕たちが、同じように助けたいんだ」


 会議室内の大人たちは沈黙した。詩織は眉をひそめて口を開くが、言葉が詰まる。浜田も手を組み、沈黙するしかなかった。


 守るべき子供たちを危険に晒すのは正しいのか……?


 無理に止めれば子供たちは感情を爆発させて飛び出すだろう――その危険を考えれば、現実的な選択肢はなかった。


 茉奈は深く息を吐き、計画書を広げる。

「君たちの意思は尊重します。でも、行動はチーム単位。撤退命令は絶対守ること。自分の命を最優先に。自分の命を粗末にする人、チームのルールを守らない人は仲間も助けることはできないことを理解すること。」



 尊は深く息を吐き、会議室の中央で図面を指さしながら、静かだが確固たる口調で告げる。

「救出チームは俺が指揮する。現場での地上支援や退路確保は浜田さんに任せる。事務所内のサポートは詩織さんと茉奈が指揮する。君たちは希望する範囲で参加すること。無理強いはしない。ただし、どこかのチームに偏ることはできない。帝国が俺たちの動きを知っているかもしれない以上、守るべき場所も同じくらい重要なんだ」


 その言葉を聞いて、銀髪の少女は小さく胸を張り、目を輝かせながら力強く答える。

「私たちは……まだ戦える。できる限り、力を貸したいんです!」


 一瞬の沈黙のあと、別の少年も小さくうなずき、震える声で続ける。

「僕は、怖いけど……でも、お姉さんが助けてくれた。今も事務所で助けてもらってる。今度は僕たちが手を伸ばす番だと思うんだ」


 その言葉に続くように、他の子供たちも互いに顔を見合わせ、小さくうなずきながら希望するチームを告げる。

 会議室には、まだあどけなさを残す小さな身体に宿った決意と緊張が渦巻き、でも確かな覚悟が漂っていた。尊はその光景を静かに見守りながら、胸の奥で微かに熱いものが込み上げるのを感じた。


「よし、全員の意思は確認できた。次はルートと行動手順の最終確認だ」

 尊の言葉に、子供たちは緊張の中にも覚悟を抱き、静かに頷いた。



 尊は図面を指さし、戦略を整理する。

「じゃあ、ルートの確認から始める。施設の構造、監視体制、見張りの配置……全てを把握し、無駄な動きは避ける」


 茉奈は補足するように説明する。

「各チームは交互に進行。能力者は私たちの指示に従い周囲を感知しつつ、安全なルートを確保する。撤退は絶対、即時」


 子供たちは声の震えもなく、決意のまなざしで頷く。


「僕たち、後ろから支える役もやる。戦うだけじゃなく、見張りや支援もできる」

「私は……小さい子を助ける役を担当したい。怖がっている子も、私たちがついていれば安心できる。きっとまだ知ってる子もいると思う。」


 尊は深く息を吐き、会議室の静けさの中で心の中で戦略を整理する。

「今回の作戦では、救出チームと支援チームの距離感を保ちつつ、互いに助け合う形で行動する。撤退命令は絶対だ。誰かが危険だと感じたら、即時に中止する」


 茉奈は子供たちに向かって少し前に体を傾け、目を合わせながら、声を優しくも強く響かせる。

「救出チームは尊が先導するわ。感知能力で周囲の安全を確保する。浜田さんチームは支援・救護に徹して。必ずリーダーの指示には従うこと」


 言葉をいったん切り、茉奈は胸の奥から切に願うように付け加える。

「君たちは戦う力があるかもしれないけど、直接戦闘は極力避けて。もし危険に巻き込まれそうになったら、逃げてもいい。チームからはぐれてしまっても、必ずここに戻ってきて」


 子供たちは小さく息を飲み、でも迷いなく頷く。瞳には恐怖もある――だけど同時に、希望の光も宿っていた。守られるだけの存在だった彼らが、今、自ら戦う意志を示す。小さな肩の奥に宿った決意は、初めて自分たちの手で「選択」する力を手に入れた証でもあった。


 茉奈はそっと肩に手を置き、心の中で密かに誓う。――この子たちを、必ず守る。どんな危険があっても、逃げ場を奪った過去とは違う、自由と希望を取り戻すために。

 尊と茉奈は互いに視線を交わす。

 ――この子たちを導き、守りつつ、希望を取り戻すために。

 ――奪われた自由を取り返す戦いが、今まさに始まろうとしている。

次回は 11月3日(月) 19時 更新予定です

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