第五夜 情報
「そうじゃな、まずは自己紹介からかの?」
「ここでは、黒髪の巫女と言われておるが、本名は篠原詩織という」
黒髪の巫女が改めて名乗った。
「名前言って平気なの?」
茉奈が疑問を口にする。
「おぬしらの名前を一方的にしっててもフェアじゃないじゃろ?」
案外常識のあるいいやつなのかもしれない…部下に恵まれないだけで…
「おぬしらより、10は年上かの」
「えっ?」クッション性のない固い感覚の場所を見て思わず声が出てしまった。
二人の視線がささる。
「なんじゃ?もっと若いかと思ったか?」
詩織の長い黒髪がわずかにうねり始めた。
「すみません、何でもないです。」
俺は慌てて謝罪する。
「続けるぞ?」
「わしは、生まれながらにして黒髪の巫女として育った。同年代の巫女も何人かいるが多くはない。生まれたすぐの巫女を帝国から匿い守る団体が日本独立党というわけじゃ。」
「それが黒髪崇拝って噂になってるのか」
「別に崇拝はされとらんがの…」
「去年は3人の新生児が帝国に収容されたってニュースが流れてたけど、あの子たちは助けられなかったの?」
バッグの紐を握り震える声で茉奈が聞いた。
俺の黒髪化が発現した直後に流れたニュース。泣き叫ぶ母親の映像が茉奈に深く刺さったのだろう。
「それを説明するには、個別の能力の違いを理解せねばならんな。」
「まず、先も言ったが、日本独立党にはわしを含め十数人の巫女がいる。なぜ日本独立党は巫女を保護することができるか?」
そういって詩織は人差し指で宙に丸を描く。
「それには巫女の力が関係する。まず巫女の力の本質は予知じゃ。」
「ゆえに黒髪の巫女とも言われるのじゃが…
遺伝子の生存本能なのかなんなのか判断がつかないが巫女特有の能力で、黒髪の巫女の能力を持って生まれてくる場合、他の巫女の予知に絡んでくる。」
「巫女が生を授かったっていうことがわかるっていうこと?」
茉奈の質問に対し指をはじいて答える。
「茉奈は察しが良いの。そういうことじゃ。生まれる前から助けを求められる。力なきものからのSOSには全力で答えねばならん。わしも記憶にはないが同じことをしたらしい。」
詩織は茉奈の受け答えに満足そうだ。
「でも、去年の3人はそうじゃなかった…」
詩織はわずかに目を伏せた。
「その通り…あの3人は、巫女ではない。どの予知にも引っかからなかった。だから――助けに行けなかった」
「帝国は能力者を発見しやすくするために、日本人のDNAを改変し銀髪銀目化させたのじゃ」
短い沈黙。茉奈の息が詰まる音だけが部屋に残った。
「帝国の収容下に置かれてしまうと、洗脳や人体実験など黒髪の日本人を兵器化する研究対象となってしまう。」
「能力は巫女だけではないってことなのね。」
「そうじゃ。」
改めて現実を突きつけられた茉奈もそれを伝えた詩織の声も沈んでいる。
「尊の力もそうじゃが、おぬし、予知の類は見たことが無いじゃろ?」
「ないな。どんなふうに未来がわかるんだ?」
「わしの場合は脳内に突然割り込んでくる…」
「人によるが予知夢の形で夢で見たことが実際に起こるというのもある。」
「予知夢…」
詩織の説明を聞いて茉奈がつぶやく。
「それに、巫女は尊のような身体能力が上がるような能力は持っておらん。手の内を明かすが、あとは念動力じゃ。」
そういうと、テーブルのティーカップがふっと宙にうき、詩織に引き寄せられていく。ティーカップを優しく受け取り口をつけのどを潤す。
「持ち上げられるとしても、人ひとり分が限界じゃ。筋力は一般人と変わらん。外で音もなく背後を取られたのが気になったんじゃろ?」
「……ああ、あの時な。音もなく背後を取られた。」
「これが種明かしじゃ。宙に浮いていれば音はせんな。」
ここまで能力を明かすのはリスクだ。それでも俺たちを信用してる、信用してもらいたいということなのか。
「昔から生まれてすぐ能力を持つ場合それは、巫女、侍、忍の3種類に分類されると言われている。」
詩織は一度言葉を切る。
「そして、わしらは後天的に黒髪化するケースを聞いたことが無い。もしかしたら帝国ですら把握していない事象かもしれん。」
「これが、わしらがお主に接触をしたかった理由じゃ。なんとしても帝国より先に尊に接触し、帝国から守り、可能であればわしらに力を貸してほしいと頼むことが目的じゃった。」
そして詩織は優しくこう続ける。
「必要な情報はすぐに渡そう。今すぐ返事をくれともいわん。だが、ぜひ前向きに考えてほしい。」
沈黙が部屋を包む。
次回は 10月9日(木) 19時 更新予定です




