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黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第二章 接触
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第二夜 崇拝

 

 俺たちは新宿駅の入り口から数百メートル離れた映画館に到着した。今日は何を観るか現地で決めようという話だったがなかなか決まらない。正直なところ頭の片隅には日本独立党の件が引っかかっていた。あのとき、何が目的で、なぜ俺を探していたのか――見当もつかないまま、街の雑踏に身を委ねる。


 映画館前の券売機に並ぶと、茉奈は少し落ち着かない様子で辺りを見渡していた。銀髪が夕暮れの光を受けて淡く輝く。俺は彼女の肩に軽く触れ、ほんの少し安心させる。彼女も微かに笑みを返す。


 結局、選んだのはアクション映画。銃撃戦や爆発、派手なカーチェイスが続く。爆発でスクリーンが揺れるたび、俺たちは肩を寄せ合い笑う。

 彼女も俺も、スクリーンの派手な映像よりも、互いの存在に意識が集中していることを自覚していた。


 映画が終わると外は寒く、ネオンが街を鮮やかに染めていた。俺は茉奈の手をそっと握る。


「せっかくの映画なのに、ほとんど入ってこなかったな」

「うん……私も同じだった」

 肩をすくめる彼女に、俺も小さく笑う。互いの表情に、わずかな安心感が宿る。


「ちょっとお茶でもして帰る?」

「でも周りが気になって話せないでしょ?」

「そっか……」


 そこで、カラオケに移動することになった。防音があるので、普通に会話しても外に漏れる心配はない。個室に入ると、茉奈は軽く歌い始め、俺はソファに腰を下ろす。彼女の隣に座り自然に手を重ねる。


 カラオケの合間、俺たちは日本独立党について知っていることを出し合った。表向きは公的に許可された政党だが、裏では何かを企んでいるらしい……という断片情報しかない。二人で眉をひそめ、互いの情報の薄さを確認するだけだった。


「あ、これ使えばよくない…?」

 茉奈はスマホをタップしスクリーンにあるAIサーチアプリを起動した。


 俺たちは、世の中に散らばる「日本独立党」の情報をAIをつかってバックグラウンドで隅々まで検索をかけてみることにした。

 通常の内容の検索であれば秒で結果をポップしてくるAIサーチも、「日本独立党」となると勝手は違うようだ。


 しばらく時間がかかってポップされた検索結果は噂レベルのものがほとんどで、正確性には欠ける。

 だが、その中に「黒髪崇拝」という奇妙なキーワードを見つけた。他の掲示板では『黒髪の存在に異常な執着』と書かれている。


「やっぱり、尊のこと…?」


 茉奈は眉を寄せ、少し考え込む。俺も胸の奥で微かな警戒心を覚える。

 カラオケの音楽がかき消してくれるため、会話は普通に行えるが、隣の個室のドアが小さく軋む音や背中越しに感じる誰かの視線に対する感覚が消えるわけではない。


 二人でアイスコーヒーを啜りながら、情報の意味を咀嚼する。茉奈は小さく唇を噛みながら、スクリーンを見上げるように天井を眺め、俺は彼女の手を握る力をほんの少し強める。


「でも、こうして一緒にいると、ちょっとだけ安心するね」

 茉奈の言葉に、俺の胸も温かくなる。目に映る人混みや看板、ネオンまでが、なんとなく優しい色を帯びて見える気がした。


 俺たちはそのままカラオケの個室でしばらく過ごす。なんとなくだが、手を重ねるたびに茉奈の鼓動が間近に伝わり胸の奥がざわついた。


 そして、AIが集めた情報を整理しながら、俺は心の中で考える。今日見つけた「黒髪崇拝」の噂は、偶然なのか、俺たちを狙う何者かの布石なのか。まだ答えは出せない。だが確かに、俺たちの周囲で何かが動いていることだけはわかる。


 外の冬の空気を思い浮かべながら、茉奈と過ごすこの瞬間を噛み締める。映画のストーリーは頭に入らなかったが、この時間が、俺たちにとっての特別な物語になりつつある──そんな感覚を胸に刻みながら、二人はまだ冷たい冬の街を歩く。


 なぜ、日本独立党が『黒髪』を探しているのか、何を目的としているのか判然としないまま夜は静かに更けていった。




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次回は 9月29日(月) 19時 更新予定です

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