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黒髪巫女と銀髪少年の深淵  作者: 烏刻
第二章 接触
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第一夜 追尋

 

 正月三が日も終わり、代わり映えのしない日が始まった。昨年と変わったことといえば、正式に茉奈と付き合うことになったことくらいだ。思わず頬が緩む。

 あとは定期的に行う夜の能力アップの訓練。茉奈は俺の黒髪が気に入っているらしく、まるで黒猫を愛でるかのように撫でてくる。指先が髪をなぞるたび、軽くくすぐったさを感じ、思わず肩が上がる。まあ、悪い気はしないが。


 次の祝日、二人で映画館へ行く約束をしていた。待ち合わせは旧東口。駅前の通りを歩くと、かつて地上波の生放送スタジオがあった跡地が目に入る。今は静かな更地だが、昔の喧騒の名残を探そうとするかのように看板や配線跡が微かに残っている。

 今の映画はVRや大型家庭ディスプレイが主流で、わざわざ映画館に行く必要はない。だが、こうして二人で外に出ることに特別な意味があるのだと、胸の奥が温かくなる。


 待ち合わせ場所に向かうと、すでに茉奈がいた。しかし、なんだか様子がおかしい。


 近くには「日本独立党」と書かれた選挙演説の車があり、数名の党員らしきおそろいの腕章をつけた男たちに囲まれている。腕章にも「独立党」と書かれているのがみえた。


 茉奈は微笑みながらも、少し眉をひそめ、手の先でバッグの紐をぎゅっと握っている。人の気配、足音、微妙な距離感……能力を使わずとも、何かがおかしいことは直感でわかる。


「お嬢さん、年末の初詣で大宮の氷川神社に行ってたよな?」

 茉奈は一瞬戸惑い、顔を伏せて答える。

「みまちがえじゃないですか…?」


「おいおい、胸でかくてスタイルのいい美人、みまちがえるかよ」

 一番柄が悪そうなやつか食い下がってくる。


「その時、一緒にいたやつを紹介してほしいんだよ」

「え…?」

「大きな声では言えないけど、変わった能力あるよな?」

「知りません…」


 党員たちは茉奈を囲んだまま、期待と探るような目で彼女を見つめる。空気が一瞬、ぴりりと張り詰める。茉奈は小さく息を呑み、目線を右に左に泳がせ、俺の存在を探している。肩の力を抜こうと微かに深呼吸し、手のひらでバッグの底を押さえる——その一瞬の仕草が、緊張の深さを物語っていた。


 その瞬間、俺は踏み込む。『茉奈がいなければ覚醒もできない俺だが、少しぐらい彼氏らしいことをしなければ…』

 日の光が当たり銀髪のまま茉奈の横に立ち、堂々と手を差し伸べる。党員の一人が目を細め、俺たちを見つめる。

「すみません、俺の彼女が何かしましたか?」

「ああ?」

「俺が待ち合わせに遅れてしまって。俺たち、今からデートなのでこれで失礼します」

「……似てるけど、黒髪じゃねぇな」


 その言葉に、俺たちは胸を撫で下ろす。能力がバレることもなく、茉奈の安全も確保できたのだ。茉奈も肩の力を緩め、ほっとしたように笑みを浮かべる。少し恥ずかしそうに目を伏せ、指先で髪を軽く弄りながら、俺の手を握り返す。


「行こう」

 俺は茉奈の手を取り、党員たちの間を抜ける。茉奈もうなずき、少し早歩きになりながらも、笑顔を絶やさずにいる。背後から投げかけられる視線を感じるが、太陽の陽ざしに黒髪は隠れ、能力も露出させずに済む。


 人混みの中で感じる緊張感、茉奈と二人で交わす無言の連携。すべてが、俺たちの信頼の証だった。心拍が少し早まるのを感じながら、茉奈は小さく肩をすくめ、ふっと笑みを漏らす。その笑顔に、胸が温かくなる。


「……また狙われそうだな、俺たち」

「ふふ、でも大丈夫でしょ」

 その言葉に、思わず頬が緩む。まだ正体を掴めない党員たちを振り切りながら、俺は心の中で思う。次にどんな挑戦が来ても、俺たちは一緒に乗り越えられる――と。


 新宿の街を抜け、静かに映画館へ向かう道すがら、1月の冷たい冬の空気が頬を撫でる。

 しかし胸の奥は暖かく、茉奈と過ごす時間の特別さを改めて感じていた。


 目に映る人混みや看板、ネオンサインの光までが、少しだけ輝きを増したように思える。


 まだ遠く、背後に視線を感じる。「似てるけど黒髪じゃねぇ…か…」しっかりと目に焼きつけられた気配が、まだ背中に貼りついている。




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次回は 9月25日(木) 19時 更新予定です

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