選択
レイが指を鳴らすと、夜の屋上にふんわりとした光が集まり、小さな光の箱が現れた。透き通るような青い光を放つその箱は、『中にあるもの』を求める者の心に呼応するように震えている
「これが、君に渡す“力”が入った箱だよ」
「君にあげられる力は一つ『憤怒の復讐』か『忘却の赦し』。どちらを選ぶ?」
僕は息を呑んで箱を見つめた。胸の奥が高鳴っている。こんな形で“選択”を迫られるなんて、自分でも信じられない──。
「憤怒の復讐は、刃のように研ぎ澄まされた怒りと力。けれど同時に壊すことでしか癒えない深い傷が胸に残る。苛めてきた人たちへの報復。だが、その果てに待つのは勝利の空虚さか……それともさらに深い闇か。」
「忘却の赦しは、傷つけた者・傷ついた者、両方の記憶や痛みを和らげたり、選択的に消去することができる。自分自身すらその記憶を手放せば、全てが“無かったこと”に近づいていく。だが、力を使いすぎれば、君自身の存在意や痛みを超えて生きた証までもが消えていく危険がある。」
箱の光は二つに分かれた。一方は燃えるように赤く、もう一方は静かに淡い藍色に輝いている。
僕は両方の箱を見つめながら、心の奥に問いかけた
(僕は復讐したいのか? それとも……全て忘れたいのか?)
その刹那、胸の奥にあった呪縛がふるえた。
「どちらの力にも“犠牲”はつきもの君が本当に大切にしたいもの、自分で選んで。」
静寂を取り戻した夜風が、二人の間を通り抜けた。
僕は深呼吸をして、箱に手を伸ばした
「そう…それが君の選んだ力なんだね」
レイは微笑みながら僕が選んだ箱を開けると中から光る玉のような物を取り出し僕の心臓に勢いよく押し付け痛みを感じた瞬間に耐え難い眠気に襲われた、薄れゆく意識の中で彼女が「頑張れ」そう言ったのが聞こえた…
アラーム音で眼が覚めた僕はベッドで寝ていたカーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
見るもの全てが昨日とはどこか違って見える。
空気が澄んでいて、色彩がほんのり鮮やかだ。
僕の身体が、まるで今までとは違う自分であるかのように感じる。
あれはただの夢だったのかと思ったが僕の胸にはひんやりとした不思議な感覚があった。まるで、光る玉がそこで脈打っているかのようだった。
ベッドから起き上がり、身体をさすりながら部屋の鏡を見る。そこに映るのは、いつもの自分僕は胸に手を当て、鼓動を確かめる。だが、あの痛みや重さそして光の熱は、まるで夢であるかのように消えていた。
(本当にあの“力”を手に入れたのだろうか?)
そんなことを考えながら学校に行く準備をして家を出ようとしたが玄関のドアノブがやけに重く感じ登校中の足取りは遅く中々前に進まない
(やっぱりそうだよな…)
昨日の学校での出来事が心にへばりついていた本当に『力』を貰えていたとしても今まで苛められていた事が消える訳じゃないその考えが足枷になって身体を動きにくくさせる。
心が暗く底無し沼に沈んでいくような嫌悪感に苛まれた瞬間に胸が熱くなりそれまであった身体の重さが消え嫌悪感が嘘みたいに消えた。
「夜の出来事は夢じゃなかった現実だったんだ」
喜びのあまり思わず声を出してしまい通行人達に視線を向けられ僕は恥ずかしくなり駆け足でその場を離れ学校に向かった。
学校に着き靴を履き替え廊下を歩いていると教室から大きな笑い声が聞こえた。
笑っている奴が誰だかはすぐに分かった田中達だ いつも遅刻寸前に来るのに今日はやけに早い
嫌な予感がしながらも教室に入ると全員の視線が僕に刺さり笑っている人やヒソヒソと口を手で隠しながらしゃべる人達がいたがその中で 僕と黒板を交互に見つめている人がいたので視線を黒板の方に送るとそこには昨日、無理矢理撮らされた僕の『全裸土下座』写真が大々的に貼られ
陰キャ王子謝罪中www
まだ生きててごめんなさい♡
全裸の王子様降☆臨
等の文字が入れられていた。
僕が写真を見ているとシャッター音が聞こえて振り向くと田中とその取り巻きたちが携帯を向けていた。
「よっ!陰キャ王子…いや、全裸の王子様」
笑いを堪えながら近づいてきた田中達に叫んだ
「なんだよこれ」
すると田中は
「昨日考えたんだけどよこんなに面白い写真俺達だけで楽しむのは『全裸になった王子様』に申し訳ないと思ってよ、だからクラスの皆にも見てもらった方が喜んでくれるってな」
そう言いながら俺の方をバシバシ叩いたそして続けて
「死なずにちゃんと学校に来てくれて嬉しいよ折角徹夜して文字入れたりプリントしたのにお前が死んだら反応見れないからな」
田中の言葉に、教室中からまた笑い声が湧き上がる。
僕の喉はカラカラで、唇がわずかに震えていた。
視線を田中から逸らせない。
まるで蛇に睨まれた蛙のようにそれに、目の端に映るのは僕を笑うクラスメート達の目
『面白いもの』を見つけた子どものような、無邪気で残酷な目。
「ほら、泣けよ。王子様は泣くのだけは得意だもんな?」
田中の言葉にまた数人が吹き出す。
僕の拳は震えていた。だけど、何もできなかった心の奥から滲み出すような、絶望的な無力感が僕に襲ってきた。
暫く無言が続いた後、取り巻きの一人が
「なぁ、田中……あの写真さ、拡散しようか?ネットにも上げたらさ、全国デビューできるかもよ?」
スマホをちらつかせながら言った。
僕の鼓動が一気に跳ね上がる。
喉の奥がキリキリと痛み、ピンッと張った何かがプツリと切れ押さえていた物が溢れる気がしてこのままだと本当に……そう思ったそのときだった。
耳元に微かな声が届いた。
「ねぇ、俊介くん……今こそ君が選んだ『力』を使う時じゃない?」
その時、時間が止まったような錯覚を覚えた。それと同時に周囲の喧騒が静止したように教室の音が聞こえなくなった。
するとどこからか
「今、君以外の全ての時間を止めているよ」
聞き覚えのある声だった声の主は上からゆっくり舞い降りてきたのを見て僕は天使だと思った
「君は……レイ……?」
僕がそう聞くと彼女はお腹を抱えて笑った
「正解、でも…ふふっ……君には私が天使の姿に見えているのか……ふふっ…まぁ何でも良いや」
心を読まれた事に驚いたがやはり彼女はレイだった
『今が力の使い時だよ』
レイは再度呟いて黒く濁った玉を取り出した。
「これが俊介くんの心の状態だよ、漆黒の黒だし所々ヒビが入ってるでしょこれはもう『限界』でこれが割れると君は死にます!力を使うとこの黒く染まった玉は段々元のきれいな透明になって死ぬことは無くなる。
使う使わないの『選択』は君の自由だ選んだ力を使い新しい人生で『生きる』事を選ぶか力を使わず今まで通り苛められて耐えきれずそのまま『死ぬ』事を選ぶのか……今朝、君の嫌悪感を消したのは私が君に力を使ったからで『私』は君に生きてほしいと願っている。」
レイの話を聞いて僕は涙が出た
「生きてほしい」その言葉で決心をした。
「決めた、僕は『生きる』為に力を使うよ」
そう言うとレイは笑顔で頷き
『ずっと見てるよ頑張ってね…じゃあね…』
レイが指をならすと止まっていた時間が動き出して教室喧騒も戻り僕の前にはレイではなく田中が
立っていた。