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■レイの語り

……ああ、俊介編と由香編を見てくれてありがとう。

結末を見届けてくれたあなたに、少しだけ話してあげる。


 


「壊したのに、満たされない」――当たり前でしょ、俊介くん。

壊すだけの行為に、癒しなんてあるわけないじゃない。


あなたは、誰よりも傷つき、誰よりも苦しんで――

そして、誰よりも、愚かだった。


あの屋上で出会ったとき、私は聞いたわね。

「力が欲しい?」って。


あのときの、あなたの目――本当に、綺麗だった。

絶望で真っ黒に染まりきって、それでもどこかに、「救われたい」って小さな光が残っていた。


でも、その光は――力を得た瞬間に、自分の手で潰してしまったの。


あなたは確かに“被害者”だった。

けれど、自ら“加害者”になることを選んだ。

世界を恨み、母を責め、田中を追い詰め、何もかもを破壊した。


そして、最後に手に入れたのは――不死。

終われない地獄。

耳の奥にこびりついた母の「愛してる」という声。

田中の落下音。SNSの罵声。そして、自分の殺意。


ねぇ、俊介くん。

君は自分の「正しさ」に酔っていたんだよ。

でもそれは、ただの独善だった。


あらゆる怒りと悲しみを燃やして、君は君自身を焼き尽くした。

そして今は、灰になったまま、永遠に風も吹かない虚無の中で、座り込んでいる。


……どうだった?

“力”って、気持ちよかった?


“復讐”って、正しかった?


“母の愛”って、気づいてた?


答えなんて、もういらないか。

君はこれから何百年も、何千年も、それを考え続けるんだもの。


でもね、ひとつだけ伝えておく。


君が選んだ“終わらない地獄”は、

君が誰よりも「本気で世界を憎んだ証拠」だってこと。


だから私は、君を否定しない。


哀れで、狂っていて、それでも純粋だった。

君があの日、屋上で「欲しい」と言ったあの瞬間――

君の運命は、もう決まってたの。


……ねぇ、見ててあげるよ。

君が、どこまで壊れていくのかを。


 


“これは救済じゃない。

 これは、ただの真実よ。”


 


じゃあね、俊介くん。

君の“地獄”が、少しでも静かでありますように。


 





 


由香編


この物語は、ひとりの女の子が「愛してしまった」という、ただそれだけのことから始まった。

けれど、想いは強くなりすぎると、ときに人を壊す。

願えば願うほど、欲しければ欲しいほど――

心は、崩れていくものなのよ。


由香は、少しだけ不器用だった。

ほんの少し、強く愛しすぎただけ。

だから、私は手を差し伸べたの。


「力が欲しい?」

そう聞けば、誰もが首を縦に振る。

だって、この世界は冷たいもの。報われない想いは、数えきれないほど落ちている。


そんな中で、たったひとつの希望に縋りたくなる気持ち……

よく、わかるわ。


けれどね、願いはいつだって代償を伴う。

とくに“嫉妬”に手を染めたなら、それはもう自分自身を焼く炎となる。


……でも、彼女は幸せだった。ほんの少しだけ。

妄想だったとしても、「幸せだ」と思えたのなら、きっとそれは“真実”だったのよ。

心がそう感じたなら、それでいい。現実じゃないことなんて、大した問題じゃない。


あなたは、どう思ったかしら?


由香のような結末を、哀れだと思う? 愚かだと思う?

それとも――

少しだけ羨ましいと、感じてしまった?


どんな答えでもいいわ。

ただ、覚えておいて。


「想いの強さ」と「幸せになること」は、必ずしも一致しないの。

でも、もしあなたが世界に裏切られたとき……

そのときは、また聞かせて。


ねぇ――力が、欲しい?


……ふふ、冗談よ。


 


――レイ



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