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前世の恋人を名乗るダウナー転校生がべしょべしょにメロついてくる  作者: にゃー


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4/21

目つき


 半ば、もう自分は関係ないだろうと思っていたところに水を向けられ、不意を突かれた気分になる。それを表には出さないようにしつつ、振り向かずに「パス」とだけ答えれば、まるで分かっていたかのように「だよねー」と返された。腹立つ。


「じゃあわたしもパスで」


「あ、うん……そー、だよね、うんうん」


 素気ない返事だというのに、女生徒はむしろ安心したように頷いている。まあ、見たところまともそうな人物だし、変なのと関わり合いにならずに済んでほっとしているのかもしれない。


「えーっと、じゃあ……本人がいいって言ってるわけだし、歓迎会とかはナシってことで……」


 やんわりとクラス全体に伝わるような言い方で、そそくさと話を締めようとしているのがうかがえた。あたしとしても会話を続けるつもりもなく、よしこれで今度こそ寝ようと目をつむ──



「アンタさぁ、流石に失礼すぎるんじゃないの?」



 ──ろうとしてまたしても、またしてもべつの声が聞こえてきた。

 露骨に攻撃的な態度で割り込んできたのは、あたしの右斜め後ろ、つまりメイの隣の席の女。例によって名前も顔もよく覚えていないクラスメイトが、目の端を釣り上げてメイを睨みつけている。ギャル風というか、見てくれは強そうな女だ。それでもまあ、あたしよりはマシな目つきだけども。


「えーっと……ごめん誰だっけ」


 メイの態度は変わらない。あたし以外に対しては、友好的だろうが敵対的だろうが一律に、興味の薄そうな乾いた声音。


矢矧(やはぎ)だしっ、折角みんなで歓迎会してやろうっつってんのに、なんなのその態度っ」


「わたしは頼んでないけど」


「はぁーっ?」


 “歓迎会してやる”と“そんなの頼んでない”、はたしてどちらが社会性の生き物として正しいのか。正直前者な気はしなくもないというか、“してやる”は傲慢だとしても、まあ波風立たせずそれに乗っかるのが集団の一員としては無難な選択に思えてならない。なんて、あたしが言えたことではないけれども。


「それに昨日も言ったけど……言ったよねわたし?」


 いや、あたしに聞かれても知らないけど。なんの話だ。


「マリ以外と仲良くするつもりはあんまりないって」


 ……ああ、それなら確かに言っていた。勘弁してくれとも思った。

 休み時間に、“前世”発言の真意を探ろうと話しかけてきたクラスメイトたちへ向けて。ほとんど同じ文言を、まったく平坦な声音で。普通であれば空気が凍りついてしまいそうな発言も、前世云々の言葉を前にしてみれば大したことはないというか、これもキャラ付けの一環に聞こえてしまうというか。それはただひたすらに、より一層、メイからあたしへの執着を浮き彫りにするだけの言葉だった。気怠げな立ち振舞いというのも、刺々しさをうまく緩和していたように思える。


 あるいはだからこそ、一日経ってしまえば歓迎会なんて話が出てきてしまうのも、そうあり得ないことでもないのかもしれない。痛々しい発言を差し引いても、“美人転校生”というブランドは魅力的なのか。それとなく教室を見回せば、誰もがこちらのやりとりに意識を向けているようだった。歓迎会という名目で、今度こそ電波発言の詳細を聞き出そうとしていた可能性もある。やばいと分かってはいつつも気になってしまう、そんなあけすけな好奇心が誰からともなく立ち昇っている。

 まあそれも、当のメイ本人が断ってしまえばどうしようもないわけだけれども。


 ともかくその、あらゆる干渉を拒む素気ない宣言を今一度。それで……あー、なんだったか……名前忘れたけどとにかく、右斜め後ろの女も怯んでしまい。しかししかしかと思えば、彼女はなぜか、今度はあたしのほうへ視線を向けてきた。


「っ、てかさ、夜凪も迷惑してるんじゃないの? 前世がどうとか恋人がどうとか、ワケ分かんないこと言われてさァ」


 だからあたしを巻き込むなと。喧嘩ならそっちで勝手にやっててくれ。そういう気持ちを込めて睨んで返す。


「……っ」

 

 一瞬たじろぐような仕草を見せた……あーだめだ、やっぱ名前覚えられない。とにかくまあその隙をつくように、かどうかは分からないけれど、視界の端でメイが口を開いた。


「んー、仮にそうだったとして、あなたになにか関係ある?」


「なっ……!」


 容赦のない、そして一理はある言葉だ。

 あたしは、もう何ヶ月も同じ教室にいるクラスメイトの名前すらろくに覚えていない。あたしが彼ら彼女らとの交流を避けて一人で過ごしていることは、みんなとっくに理解している。言動の端々から厨二臭さが漏れ出ている可能性も大いにある。メイほどではなくとも、あたしだってこのクラスでは浮いた存在だ。そんなあたしのためを思って、なんて言い分が通るはずもない。メイを攻撃する材料にあたしを使おうとして見事に失敗した。今の彼女は誰の目にもそう映るだろう。


「それに、ほんとにいやならわたしは今頃、マリに殺されてるよ」


 まて、んなわけあるか。

 流石にそれはツッコませてもらう。


「……人を危険人物みたいに言うのやめて貰える? それともなに? 前世のあたしならそうしたって?」


「そうそう、マリも思い出してきた?」


 体ごとこちらを向いて言うメイの、その声は一瞬で湿り気を帯びていた。こいつ喉に加湿器でも積んでるのか? 本当に。目つきもまあ、まばたき一つのうちに熱が灯っている。


「……んなわけあるか」


 またしてもそれらに圧されて、結局あたしはそう返すしかなかった。精一杯呆れたふうな表情を作って、せめてもの抵抗とする。


「……前世の夜凪さんってそういう系なんだ……」


「イヤ、ていう設定でしょ、あんた信じてんの?」


「まぁあの目つきだし……」


「たしかに言われてみれば何人か殺してそう」


「前世で?」


「いや下手すると現世でも……」


「世界観固まってんねぇ」


 …………。

 クラスメイトたちの無遠慮な声が耳に入ってくる。ざわざわざらざらと煩わしい。


「っ、い、意味分かんないし……っ」


 メイはもう完全にあたしのほうを向いており、さらには教室全体が彼女の問題発言にざわついているのもあって、右斜め後ろのギャルみたいな女がこれ以上噛みつけるような空気じゃなかった。

 いや、あたしとしては巻き込まれ事故的に“何人か殺してそう”とかいう印象がついてしまい、大変よろしくないのだけれども。いくら厨二病患者といえどもさすがに。


 ……ただ。

 

 しかし悔しいことに、それ以上に気になる点がひとつ。

 あるいはそれを感じ取っていたからこそ、あたしはメイを拒みきれないのかもしれない。


「なにさマリ、そんなに見つめちゃって」


「……うざ」


 メイがあたし以外に対して向ける眼差し。そこには確かに、他者を厭う冷たさが見て取れた。毎朝鏡で見るあたしの目つきと、根っこのところは相違ない。

 予感がしてならなかった。


 つまりこいつも、メイも、生粋の人嫌いなのではないかと。


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