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前世の恋人を名乗るダウナー転校生がべしょべしょにメロついてくる  作者: にゃー


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19/21

前世


 夜のぶんの薬を、あたしは飲まなかった。

 その頃にはもう、ほぼほぼ治りかけという感じだったし。医者からも、解熱作用が強いから微熱程度まで収まっていたら飲まなくても良いと言われていたし。決して、まだ少し熱のある状態で寝れば昨日の夢にまた迫れるんじゃないかとか思ったわけじゃ……いや、うん、思っている。

 あれをただの夢だ幻覚だと切り捨てることは、あたしにはできなかった。あるいはメイと出会った直後であれば、歯牙にもかけなかったかもしれないが。今のあたしはもうどうにも、妄言だとあしらっていたはずのメイの怪電波の悪影響を受けてしまっているらしい。もしもこれで熱がぶりかえしてしまったら本当に馬鹿だ。荒唐無稽な妄想に囚われて、さらに周囲に迷惑をかける大馬鹿者。

 ……あと、一応言っておくけれども。またあの夢が見られれば、結局朝以降も連絡がなかったメイの顔が見られるかもとか考えたわけじゃない。いやこれは本当に、ガチで。勘違いしないで欲しい。


 とかなんとか考えながら床についたおかげというべきか、せいというべきか。

 ともかくあたしは、このごちゃごちゃした意識を抱えたまま、夢の世界へと旅立つことができた。


 ──ああ、この感覚。夢であり、明晰夢であり、記憶でもある世界。

 今までに何度も見て、そしてそのたびに忘却していたということも思い出す。これが前世の記憶なのだと、理屈もなく理解(わか)らせられる感覚も。メイの言っていたことは本当なのだと、意識の表層までもが理解(わか)らせられる。非常にくやしく、腹立たしい。


 ただまあ、そうして迎えた今回の夢は今までとはまた毛色が少し違っていた。一場面の観賞ではなく、前世(むかし)のメイとあたしを取り巻く背景の奔流のようなもの。一気に入り込んでくる情報にもみくちゃにされながらも、なんとかそれらに目を通す。


 

 メイは、ある国で生まれた人間だった。

 だけどもその体には、人に身には過ぎた超常の力が宿っていた。ある種の突然変異とも言えようか。その力は破壊的であり破滅的であり、メイの国の人間たちは彼女を恐れ殺そうとした。そんな者たちから命からがら逃げ込んだ禁域の森での出来事が、以前にも見たあたしとメイの出会いの瞬間。


 あたしと出会ってからしばらくは、メイの人生も平穏なものだったのだろう。いや、あたしというべしょべしょメロつきダル絡み魔女に好かれているのを、平穏と言って良いのかは難しいところだけれども。まあでもとにかく、まだ少女と言えるころに逃げ出したメイが大人になるまでのあいだくらいは、誰にも命を狙われずに過ごせたというわけだ。



 ……恐らく、メイにとってもっとも不幸だったのは。力を持って生まれたことではなく、力を持った人間として生まれてしまったことなのだろう。

 

 ある時、人間の国同士で戦争が始まった。メイが生まれた国とその隣国……だけでなく、大陸にあった四つだか五つだかの国すべてが関わるような、とてもとても大きな争いが。戦争に勝つには強力な兵器が必要で…………メイの生まれた国は、メイをその兵器と見定めた。


「その女は我が国の民であり、であるならば当然、勝利のためにその力を我が国に捧げるべきである」


 長らくぶりに森ヘ踏み込んできた兵士たちはそんなことをのたまい、当然、あたしはそいつらを処分した。当然、それでは終わらなかった。


 大陸全土を巻き込んだ戦争。つまり勝った国が大陸の覇権を握れる。

 メイを殺そうとしていたときとは比べ物にならない熱量で、あいつらはメイを徴用しようとしてきた。何度も何度も。そう、徴用だ。恐れ蔑み殺そうとしていたくせに、事態が変われば都合良く国民扱い。臣民としての義務を果たせだとかなんだとか。


 当然、許せるはずもない。

 メイの力は強大で、振るえば彼女自身も蝕まれてしまう。だからメイに代わってあたしが、彼女に迫る追っ手をすべて処分した。そうこうするうちにやがて、メイという強力な“兵器”の存在は他の国にも漏れ広まり、気付けば大陸すべての国から狙われるようになっていた。そもそもあたしたちの住んでいた森が大陸中央部、戦略上重要な場所にあったというのもある。森とメイ、その二つを欲した四方八方からの攻撃は日に日に激しさを増し、もはやあたしと国どもが戦争をしているような有り様ですらあった。


 それで、そう。いい加減うんざりしたあたしは、全部滅ぼすことにしたのだ。

 だいぶ骨は折れるが、全力を出せばやってやれないことはない。メイに悠久の平穏を贈るため、あたしは持てる力のすべてを使って、大陸にあった国どもを残らず焦土に変えた。それ自体は上手くいった。ただし誤算が一つ。全力を出すと自分が死ぬということを、あたし自身が知らなかったのだ。アホか。


「──不死であるはずの魔女が、古い魔女たちが、どうして今どこにもいないのか。まさか身をもって知ることになるだなんてね」


 昨日の夢であたしが言っていた台詞。魔女はその身にわずかでも力を宿している限りは死なない。つまり力を使い果たしてしまえば死ぬ。だーれもそれを伝え残さなかったものだから、あたしもそうとは知らず、派手にやらかしてしまったというわけだ。予期せぬ自滅を。本当に、魔女ってみんなアホなんだと思う。


 メイは……前世(むかし)のあいつはあまり素直ではなかったけれども、それでもまあ、一緒に過ごすうちにあたしを憎からず想うようになっていたわけで。そんな相手が自分のために命を使い果たしたと知って怒らないわけがない。悲しまないわけがない。だから昨日見たメイは泣きそうな顔をしていた。わざとじゃなければなにをやっても許されるわけではないのだ。


「──ねぇメイ。あなたに限ってそんなことをするとも思えないけれども、一応……あたしの後なんて追っちゃだめよ? せっかくあなたを狙う馬鹿どもを根絶やしにしたんだから。望んでいた平穏な人生よ?」


 で、極めつけがこれ。

 昨日は聞き取れなかった、消える間際のあたしの言葉。鬼かと。いや魔女だけど。いやさ呪いの言葉といえば魔女らしいか。ともかくこの言葉のせいで、メイは他に誰もいない一人きりの人生を、天寿を全うするまで送る羽目になった。そりゃ、恨まれもするだろう。“復讐”という言葉が、にわかに重みを増してきた。


 と、まあこのあたりで前世(むかし)のあたしとメイの物語はおしまい。 

 まだまだ歯抜けも多いけれども、どうやらこれで夢の役目も終わりのようだ。つまり、目が覚めようとしている。見始めたときと同じように、意識や思考を保ったまま、夢の世界からはじき出されようとしている。



 ──ぴろん、と小さく音が鳴った。

 目を開く。間違いなく今のあたしの部屋だ。実質寝ていないようなものかと思っていたけれども、熱は下がっており体調もすこぶる良い。頭もすっきりしている気がする。枕元のスマホを手にとって見れば、いつも通りメイからの〈おはようマリ〉が。


〈おはよう〉


〈え、え、おはよう〉


 文面でおはようと返すのは初めてで、メイも驚いている様子。ざまあみろと思いながらやり取りを続ける。


〈体調良くなったから今日は学校行く〉


〈そっか、良かった〉

〈あ、わたしは体調崩してるので休みます〉


 一瞬、手と思考が止まった。すぐに再起動させて、ちょっと考えて、フリック。


〈いつから?〉


〈昨日から〉


 なんで言わないのよと送りかけて消す。あたしから感染ったと見て間違いないだろう。昨日そっけなく見えた理由も判明。つくづく自分のことしか考えていないなと、自分で自分が嫌になる。思い返せば前世(むかし)から身勝手なやつだった、あたしは。なので身勝手ついでに、病人に鞭打ってやることにした。

 

〈学校終わってからあんたの家行くから〉


 確かめたいことが一つと言わずあるのだ。

 いや、メイが大丈夫か確かめたいとかではなく。本当に。ガチで。


次回第20話で完結……の予定だったのですが、文字数が膨らんでしまったため2話に分割しまして、21話目で完結とさせていただきます。よろしければぜひ、最後までお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
前世の国々最低だな。手段と目的が入れ替わってるし、捨てたものを拾おうとするなよ 夢は記憶の整理だから、見たこともないものは登場しない。ごちゃ混ぜで訳わからんことはあるけど。ていうのが自論なんで、この…
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