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前世の恋人を名乗るダウナー転校生がべしょべしょにメロついてくる  作者: にゃー


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14/21

報告


 直近でも稀に見るレベルで最悪な寝覚めだった。


 前日に刃物を振りかざされればまあそうもなるかとも思ったけれども……同じく当事者であるはずのメイからのメッセージはいつもとまったく変わりない〈おはよう、マリ〉だったし、あたし自身昨日の夜はなんだかんだ普通に床についた気がするので、実際のところあのカッター女が原因ではない可能性が高い。

 ともかく言えるのは、今日もメイのメッセージで目を覚まして支度をし、登校がてらに朝食と昼食を買い(両親にはずっと苦い顔をされている)、そして──


 

「──お……! 夜凪と世界観がついに同伴してきたぞ!」


 今日始めて、メイと一緒に教室の戸をくぐったということ。いつもよりも遅め──わりと朝のホームルームぎりぎりで。

 


「わぁ、世界観さんおめでとう」

 

「おめでとう」


「おめでとー」

 

 大仰に囃し立てるクラスメイトたちを無視して、足早に教室内を歩く。メイの反応は「ん」とかいつも通りのそれだけれども、その表情がずっと上機嫌に緩んでいるのは、通学路を共にしたあたしにはよくよく分かっている。忌々しい。


「これでわたしたちもクラス公認の仲だね」


「んなわけないでしょうが」


 ……私物に刃物を向けるような相手がどう出てくるかなんて、あたしには想定のしようもない。だものでとりあえず、ないとは思うけど万が一に備えて、一緒に登校しようという話になった。この案はどちらからともなくのもの。それだけのこと。メイの家はあたしの家から学校までのちょうど中間辺りに位置していたため、ルートを変えさえすれば合流は簡単だった。


 メイが、むかつくほど機嫌良く席に座ったこいつがあたしにとっての唯一の同類で、ある種の仲間意識を抱いてしまっていることは、どうしたって否定できない。腹立たしいことに。致命的ではない程度にうっすら生きづらい価値観を共有する者同士として、あたしはこいつを切り捨てることができない。

 言動がおかしいという意味では──ベクトルは違えども──、カッター女もメイもはた迷惑な存在だ。けれども迷いなくメイの味方をしてしまった、その自分の振る舞いを、認めざるを得ない。


「マリ〜」


「……なに」


「呼んだだけ」


「うざ」


 それはそれとして、調子に乗るなと釘は刺しておく。視線で。当然、まったく効いている様子はない。昨日の殊勝な「ありがとう」はどこへやら、先ほど通学路で合流した瞬間から、メイはべたべたべちゃべちゃにまにまとそれはそれは楽しそうにすり寄ってきて、あまつさえ腕とか組もうとまでしやがったので「しっしっ」と追い払ってやった。それはそれで嬉しそうにしていたのがますます腹立たしかった。


「……とりあえず、あいつはまだ来てなさそうね」


「だねぇ」


 当のメイ本人が浮かれポンチ女と化しているため忘れてしまいそうになるが、一緒に登校なんぞする羽目になった原因についても考えなければならない……のだけれども、件のカッター女は結局、ホームルームが始まっても姿を見せず。


「──はいーおはようさーん。みんな席つけー、ほら座れー……よし。あーそうそう、矢矧なんだが、本人から体調不良で休むって連絡あった。なんか声も震えてたし、かなり具合悪そうだったな」


 という担任の言葉と、クラス内で唯一だれも座っていないメイの右隣の席で、あの女が病欠ということを知った。


 ホームルーム終了後、なんだか肩透かしを食らったような気持ちでメイと顔を見合わせた。

 今日は一限目から移動教室で、騒がしい廊下を歩きながら改めて方針を考える。やはり一応は学校側にも伝えておくべきか? とか。病欠にかこつけて、証拠もなく、となるとむしろこっちがイジメてるっぽいか? とか。あたしもメイも今まで人を遠ざけることでトラブルを避けてきた身だから、こういうときどう動けば良いのかがいまいち分からない。昨日と同様、ふたりして小声で、あーだこーだと話し合い。

  

「──あの、櫛引さん夜凪さん」

 

 そうしたら不意に、後ろから声をかけられた。 


「二人の邪魔しちゃってほんとにごめんなんだけど、ちょっと話があって」


 ちょうど渡り廊下の途中、振り向けばそこには同じクラスの……というか、あたしの隣の席の女生徒が。言葉通り申し訳無さそうな表情で、少し幅を開けてあたしの左隣に並ぶ。


「えー、あー……竹林(ちくりん)さん」


「……竹林(たけばやし)じゃなかった?」


「うん森山なんだけど、それはまあどうでもよくて。一応、二人には報告しておいたほうがいいかなって」


「報告?」


 なんの話やら、と思ったのも束の間。竹……森……ぇあー、そのクラスメイトは潜めた声で告げてきた。


 

「実は昨日の……二人と矢矧さんのやりとり、見てたんだ」


 

「……なんで?」


「二人が立て続けに授業抜けていったから、気になっちゃって、その……」


「…………あとをつけた、と」


「はい……スミマセン……」


 もしかして、ストーキングっていま流行ってるのか? ……という文句は一旦、どうにか、口に出さずに留める。代わりに詳細を問えば、昨日のあの一幕、メイが合流した少しあとくらいから教室の前の戸のほうで覗き見していたらしい。確かに、そっちには誰も意識を向けていなかった気もする。


「それでー……揉めてる様子だったから、その、咄嗟に動画を撮ったりなんかしちゃいまして……」


 なんだこの女、妙に手際が良いな。


「マジか。あ、でもそれ見せたら学校側も対応してくれるかも」

 

「ああいや、正直決定的なシーンは撮れてなくて……会話の流れでなんとなく、何があったのかは分かるんだけど……」


「あー、わたしよりあとから来たんなら、まあそうなるか……」


「証拠としては弱いか…………じゃなくて。あんたはなんなの? なにがしたくてこんな真似を?」


 ストーキング、動画撮影、その報告。

 意図が読めない。クラスメイトの狼藉を知り義憤に駆られた、ということでいいのだろうか。しかしにしてはこの“話しかけることすら申し訳ない”というふうな態度が不可解だ。自然、あたしの警戒心も強まる。


「あ、いや、私は二人の味方……というか、観測者? みたいなものだと思ってもらえれば」


「観測者ぁ?」


「今回はやむを得ずの干渉と報告、というか」


「…………」


 なんというかこう、全体的になにを言っているのか判然としない。メイの電波的なあれこれや、昨日のカッター女とはまた違ったベクトルで。

 

「で、話を戻すんだけど……動画を撮ってたって事実だけでも、矢矧さんには十分だったみたいで」


 そうして、ここまでとまったく同じ申し訳無さそうなトーンで言うものだから、あたしもメイも反応が一拍遅れた。


「彼女が一人暮らしだったのも、うん、都合が良かった」


 言葉を続けながら、竹林はスマホを取り出してあたしらに見せてくる。画面に映っているのは、撮影したという動画……ではなく。


「こんな感じで、もう二人にはちょっかいかけないように再教育しておくから」


 全身を拘束されたうえでベッドに縛り付けられているカッター女の写真だった。


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