7、20190412
日の沈んだ直後の、葬儀場の駐車場に停まった母の白い車。
自分は葬式には行けず、お通夜にだけ両親について行くことになった。これより何年か前にほとんど会ったことのない叔父のお通夜にも同じように参列したことがあったが、なにぶん面識がないものだから悲しみのひとつも湧き起こらず、行きと帰りの車の中でもゲームにふけっていたほどである。しかしその時とは違い、この通夜で別れを惜しむのは紛れもない祖母である。ほんの数ヶ月前まで、学校から帰ってきた自分にくだものを剥いてくれ、宿題の音読をすれば大げさに褒めてくれた祖母である。
車を出て建物へ歩いていき、葬儀場の入口前にある「故 大島芳恵」と書かれた白い立板を見た途端、それまで家族の口からしか聞いてこなかった祖母の死が突如として目の前に拒みようのない真実として立ち現れて、自分の頭から心までを突き抜けてしまった。「おばあちゃんは死んだんだ」と、その時ようやく一次情報として理解した。
帰りの車に乗って、エンジンがかかったと思ったら、それまで不思議と乾いていた目から涙があふれてきた。僕は後部座席にいる父の腕の中で泣きじゃくって、帰ったあとも泣きじゃくりながら、風呂にも行かず着替えもせず、布団の上にできた涙の水たまりの中へ深く沈むように眠りに落ちた。当然それから数カ月の間は、僕の心には深い影が落とされていた。カメラもこれを機に手放したのだった。