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1.恋というのはもっと穏やかなものだと思っていた。
恋というのはもっと穏やかなものだと思っていた。
だけどこれじゃあまるで爆発だ。
俺、根尾登の元へ遣わされた天使が持っていたのは、ハートの矢じりの弓矢などではなく、対戦車ロケット弾発射器だったのだろう。
「高嶺恋です。宜しくお願いします」
キラキラと音を立てて揺れる長い黒髪。抱きしめたら壊れてしまいそうな華奢な体。瞳は真冬の夜空みたいに澄んでいて、気を抜いたらそのまま吸い込まれてしまいそうだ。
担任の先生に連れられ教室に現れた彼女を見た瞬間、俺は爆発に吹き飛ばされた。
大きく仰け反った勢いでそのまま椅子ごとひっくり返る。
ガタンッと鳴った音に、クラス中の視線が俺へ集まる。
顔を真っ赤にして席を戻すと、あちらこちらで笑い声が上がった。
その時盗み見た彼女の笑顔に、俺は今後の人生の指針を決めた。