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小さな来訪者


 下からこっちをみてる子がいる。

 小学校1、2年生くらいの見慣れない男の子。


 ぽんちゃんはベランダで洗濯物の取り入れをしていました。



 「こんにちは。。どうしたの?」


 「、、、」


 少し泣きそうな顔してる。迷子かな。

 様子を聞きに下に降ります。



 「友達がこっちを抜ければ近道だって」


 「このへん入りくんでるから地図があっても難しいよ」

 いろいろ迷って歩き疲れているみたい。



 「どこに行きたいの?」


 「そろばんきょうしつ」


 「連絡先とかない?」


 小さなカバンを持ってて、中を探してる。

 教室のカードが出てきた。電話番号も書いてある。

 ここに電話してみよう。近くの公衆電話に連れて行きます。


 「もしもし、迷子の子がいるんですけど、そちらに行きたいみたいなんです」


 「あーーー、、、ちょっとその子に代わってもらえますかー」

 と、おじいさんぽい声。


 電話を代わるとしばらく何か話してる。声が小さくて聞こえない。


 「代わってって」


 「申し訳ないんだけど、駅まで連れてってあげてもらえますかー。そこからなら自分で自宅に帰れるみたいなのでー。」


 「はい、わかりましたー、失礼しまーす。」


 カチャンと電話を切ります。


 振り返ると、その子の顔がこわばってる。

 なんだか昔の自分のよう。その時は助けてくれた人がいた。今度は自分の番なのかな。


 「のどかわいたでしょ。一休みしてから、駅に行こう。」


 その子を家に連れて行きます。



 「あれ、その子どこの子?」


 「迷子みたい。一緒におやつ食べよう。予定通りピザをつくろう」


 「らじゃー」



 冷蔵庫の水をコップに入れて、その子に渡します。レモンの薄切りを入れた水道水。


 ぐびぐびぐびぐび


 一気に飲み干します。緊張もしてたし、のど乾いてたんだね。大変だったね。



 今日のおやつはシラスピザです。


 パン生地は1時間前にこねて、部屋に放置してる。暑い日だから、ちょうど発酵していい感じ。


 これをのし棒で伸ばして、ケチャップを塗って、豆乳チーズをのせる。さらにシラスをたっぷり振りかけてトースターへ入れる。


 7,8分くらいかな。焼けたら、青のりをたっぷりかけてと。さあ、食べよう。


 「いただきまーす」


 「、、、、、」

 その子は手をつけず、じっとしています。


 「、、ピザきらい?」


 「アレルギー、、チーズとか卵、、、」


 「そうなの、、、でもこれは大丈夫だよ。チーズと卵を使っていないピザだから。チーズに見えるのは豆乳だよ。卵はウズラで少しだし」


 以前、牛乳と卵を使わない洋菓子店をやった時、次はどうしようかと試作してたもの。ちょうどよかった。


 おそるおそるひとくち。

 「、、、、、、」


 はぐはぐはぐはぐ

 急に食べ出しました。パン生地だから食べ応えばっちり。


 「お腹空いてたんだねえ」

 まるちゃんがお水のおかわりを注いでくれます。



 そろそろ、駅へ送ろう。みな心配してるだろうから。気に入ったみたいなので、余った豆乳チーズをカバンに入れてあげよう。



 ぽんちゃんはその子を連れて、駅に向かいます。

 「このへん、わかりにくいよねえ」

 旧道と新道が鋭角に交差してる場所がたくさんある。隣接して並行する道もあったり。旧道は道祖神があったり神社の入り口があったり人のための道。新道は車のための道。


 てくてく

 てくてく


 公園を抜けて、森をくぐり、狭い路地を抜けて。ぽんちゃんの植物観察ルート。

 ちょっとしたアスレチックです。

 ふとその子を見ると、口元が笑ってる。


 ようやく駅が見えてきた。

 駅前の雑貨食料品のお店に入り飲み物を買います。なんとなく。


 「どれがいい?」


 その子は迷わず、桃味の清涼飲料水のペットボトルを手にとっています。じゃあ自分も。これ二つください。


 お店のおばさんが何か察したのか、奥から出てきました。


 「迷子だって」

 「大丈夫なの?」

 「ここからなら帰れるみたい」


 カウンターのおじさんと小声で会話してる。

なんかあったらこの店は頼りになりそう。子供たちを見守ってくれる地域のお店。

すっかり少なくなってしまった。

 


 ぐびぐび


 早速、フタを開けて黙々と飲んでいる。見た目より消耗してたみたい。


 「気をつけてね。さよなら。」


 お店の前で別れると、何も言わずうつむきかげんで、駅から出てきた人たちに混じって帰っていきます。自分も昔、助けてくれたお姉さんにお礼を言えなかったのを思い出してちくちくします。あの子もきっと、いつか誰かに。



 さて、自分も帰ろう。

 ぽんちゃんも近道の細い道にすっと消えます。

 後には何事もなかったかのように、道は人で掃かれていきます。



 その子が家につくと、お母さんが玄関で待っていました。


 お母さんは何があったのかたくさん尋ねます。安心したり怒ったり。お礼したくても、ぽんちゃんの連絡先はわからない。どこをどう通ったかもわかりそうにない。


 ようやく解放されると、その子は台所へ。食パンにケチャップを塗って、もらった豆乳チーズとシラスを乗せてトースターで焼きはじめます。ほどよく焼けたら青のりをたっぷりかけて。


 「あら!上手!いつ覚えたの?」


 「さっき、、、」


 お母さんも一口。

 「おいしい。こんなのできるんだ、、、」


 はぐはぐとかぶりついています。すっかり気にいったみたい。さっきの桃ジュースを飲みながら。

 そんな様子を、お母さんはあっけにとられてみています。なんだか急に成長したかのよう。


 「今まで、ピザとかグラタンとか無理だと思い込んでたけど、やりようがあるんだね、、」


 「グラタン!食べたい!」


 「わかった。今度つくろうね。」




 その頃、ぽんちゃんは布団でゴロリ。様々な何かが交差する不思議な一日でした。

 ぽんちゃんがその子からもらったもの。してあげられたこと。


 あの子とは、きっともう、ふたたび会うことはない。

 会えるのは思い出の中でだけ。少しさびしい。

 今日の出来事を反芻しながら軽い眠りにつきます。

 

  ふかふか。

  おやすみなさい。


*


 どんな人だったの?


 「たぬき、、、だったと思う、、」


 ??

 太ったお兄ちゃんだったのかな?


 「ふかふかだったけど、太ってはなかった」



 ?、、、????




おしまい

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