おばあさんからの贈り物
昨日の晩ご飯のおでんの残り汁。
練り物や昆布、ちくわぶが煮詰まって、灰色のアクが浮いてて、濁った茶色してる。
「こんなの使うの?」
「これがいいのよ、、」
お昼にお好み焼きを作ることになった日。
まだ小さいぽんちゃんは、おばあさんと台所にいました。
「ダシなら、おいしいカツオブシの素があるよ。わざわざ、こんなの使わなくてもいいのに、、、」
「、、、」
ボールに、小麦粉と卵と、その濁ったおでんの残り汁を入れて、よく混ぜます。
うう、きたない、、
キャベツの細切り、ピーマンの細切り、豚肉の細切り、ネギの細切り、紅ショウガたっぷりを加え、菜箸でよく混ぜます。赤い紅ショウガの汁と合わさって、なんかすごい色になってきた。
「ちょっと、つなぎが少ないかな。」
小麦粉を追加でふりかけて、水を少し加えて、ぐずぐず混ぜます。豚肉の細切りがねっとり、なんかぐちゃぐちゃしてる。
「こんなんでいいの、、、?」
おばあさんは黙ってうなずきます。
大きめのフライパンを火にかけて温めます。サラダ油を入れて、まんべんなく回したら、お好み焼きの具をジュワーっと入れて平らにならします。
フタはしません。
片面が程よく焼けたら、フライ返しをフライパンに差し入れて、こびりいた所を無くしたら、えいやっとひっくり返します。
しぱっ!
!!
少し失敗してずれた。
フライ返しでちょいちょいと直してもう片面を焼いていく。
「ここで押さえてはいけないよ。」
蒸し状態にして全体に火を通す。ここで押さえてしまうと隙間が無くなって蒸すことが出来ず、火が通りにくくなる、ということがこの時はまだわからない。
充分蒸された感じになったら、ジュッジュッと押さえていく。
もういいかな。大きなお皿に移して、ソースをまんべんなくかけて、カツオブシをまぶして、青のりをかける。
「さあ、ぽんちゃん食べよう」
「うん、、いただきます、、、」
箸で、ちょいちょいと小分けして、おそるおそる口に入れてみる。
「、、、あれ、おいしい!!」
おばあさんは黙々と食べています。
余計なことは何も言わない。
なんだろう、ふっくらした生地で肉や野菜の味以上に口の中が美味しさでいっぱい。おでんの汁をたっぷり吸い込んだ、ちくわぶのおいしさが合わさったような。
よくわからないうちにたらいあげてしまいました。
ものすごくおいしかったこと、その時の台所の雰囲気は、しっかり覚えてる。
「ぽんちゃん、このくらいでいい?」
ぽんちゃんは、ハッと顔をあげます。
今日はシマちゃんがお好み焼きにチャレンジしています。
「うん、、、そのくらいかな、、、」
と言葉少なげな、ぽんちゃん。
「もっと、しっかり教えてよー」
シマちゃんは不服そうにフライパンを動かしています。
「、、、」
なんだか言葉出てきません。シマちゃんに料理を教えて欲しいといわれて一緒に作っているのだけど。どう教えようか考えていたら、小さい頃の記憶がよみがえってきました。
おばあさんからは、ほとんど言葉で教えてもらったことはなかったと思う。おそるおそる料理するのを横で見て、うなずくだけだった。覚えているのは台所とおばあさんの雰囲気、料理の出来具合とおぼろげな味だけ。それなのに、こんなにも覚えているのはなぜだろう。細かな記憶は薄れてしまったのだけれども。
「さあ、出来たよ。みんな食べよう!」
とシマちゃん。
みんなが食卓に集まってきました。
「今日はシマちゃんの当番だね。いただきます!!」
「はむはむ、おいしい!」
「シマちゃん、やるね」
みんな夢中で食べています。
「ぽんちゃんの教え方がいいのかな?」
「ぽんちゃんったら、ほとんど教えてくれないんだよー」
とシマちゃんは、ふくれっつら。
「でもおいしいよ。シマちゃんの腕かな?」
「ふふー」
と得意気なシマちゃん。
みんながわいわい話している途中、ぽんちゃんは、何となく、あの時のおばあさんの気持ちと重なったような気がしていました。
どんなに細かなレシピがあっても、手順やノウハウなど多くの情報があったとしても、一番大事なことが伝わらないかもしれない。どうしたら本当に伝えたいことを伝えることが出来るんだろう。
大事なことだけ、言葉少なく伝えること。細かなことは自分でやって身につけてもらうこと。そうでなければ、仏様を作って魂入れずになってしまう。
その時の、おばあさんとの記憶は、ぽんちゃんにとって何よりの宝物になっている。あとは自分で身につけることが出来ている。
ぽんちゃんは、ふと涙が出てきました。
(もしかして、、そうだ、、、今日はおばあさんの命日だった、、、)
「ぽんちゃんごめん、いいすぎた。ごめんなさい。」
びっくりしたシマちゃんが慌ててあやまります。
「ううん、そうじゃないよ、そうじゃないよ」
ぽんちゃんは涙をポロポロ。おばあさん、ごめんなさい、ありがとう。
シマちゃんはオロオロ。
みんなも心配そう。
何も知らない小さい時のぽんちゃんは、おばあさんに不満をぶつけたことが何度かありました。でもおばあさんが怒ったことは一度もなく、それとなくたしなめるだけでした。
おばあさんの気持ちが何となくでも分かるようになるのは、もうずっと先の、今日のことです。
おしまい




