クラスで俺だけ恋人が居ないのが辛すぎる!
「はい達哉、あ~ん」
「うん、美味しい」
イチャイチャ。
「昨日のデート楽しかったよね~」
「最高だったよな。次どこ行こっか」
イチャイチャイチャイチャ。
「あん、もう、みんなが見てるってのに」
「違うよ。偶然触っちゃっただけだって」
イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ
「おおおおおおおおん! おおおおおおおおん!」
誰も彼もイチャイチャしやがって。
俺の身にもなってくれよ!
よりにもよって、何で俺以外のクラス全員が付き合ってるんだよ!
「よう、津島。今日も荒れてるな」
「嘆いてるねぇ」
バカップルの手島と徳井のコンビが来た。
こいつらは中学からの友人で、クラスがこんな有様になる前から付き合っていた。
というか、ぶっちゃけ俺が仲をとりもった。
「慰めに来てくれたのは分かる。分かるが今は一人にしてくれないか」
「おいおい、一人にしたら針の筵で辛いと思ったから来たんだぞ」
「そうよ、津島君が辛そうなの見てられないもん」
「だったら腕組んで見せつけて来るの止めてくれませんか!?」
「え?」
「え?」
はいはい、知ってましたよ。
慣れちゃっててイチャイチャしてる自覚が無いんですよね、チクショウ!
「はぁ……クラス変わりたい」
「そこは『彼女欲しい』じゃないのか?」
「自分から行動しなきゃ変わらないよって普通なら言うんだけど、津島君には言えないんだよね……」
「同情するなら機会くれ」
元々俺は『彼女が出来たら良いな』くらいの軽い気持ちで学生生活を過ごしていた。
でもある日を境にクラスで付き合い出す生徒が続出し、気付いたらフリーなのは俺一人になっていた。
毎日がピンク色のクラスにソロで紛れているなんてあまりにも辛すぎる。
だから俺は彼女が出来るように努力した。
様々な雑誌を調べてモテる男になるために清潔感を重視した身だしなみに気を付けた。
流行のものを取り入れて、色々な人に相談して年相応のファッションセンスを身に着けた。
クラスの女子からも及第点を頂いているから空回りはしていないはずだ。
そして女子との機会を得ようと努力もした。
部活の女子に声をかけて仲良くなろうとしたり、委員会で知り合った女子と交流を深めようとしたり、クラスメイト経由で合コンを企画してもらい参加したりと、積極的に行動した。
「その様子だと先週の合コンの結果はダメだったか」
「おおおおおおおおん!」
それなのに何故か彼女が出来る気配すら無い。
合コンに行っても感触は悪くないのに付き合うまでには至らない。
「やっほー、津島君聞いたよ。またダメだったんだってね」
「おおおおおおおおん!」
傷口に塩を塗りに来たのはクラスメイトの中川さん。
先日の合コンをセッティングしてくれた人だ。
「泣かない泣かない。また今度……って言いたいけどもうツテが無いんだよね」
「おおおおおおおおん!」
彼女はこれまで何度も女子を紹介してくれたり合コンとかをセッティングしてくれた女神だ。
その全てがダメだったわけですけどね、ハハハ。
「何が悪いんだろうね。津島君は気が利くし、しゃべりも楽しいし、合う女子なんて直ぐに見つかりそうなのに」
俺が聞きたいです、ハイ。
「おいおい、トモ。津島と付き合うなんて言わないでくれよ」
中川さんのことをトモと呼ぶこの男子は彼女の彼氏の丹生谷だ。
トイレにでも行ってたのか、彼女に遅れて俺の所にやってきた。
「おっと嫉妬ですかな」
「正直津島はレベル高いから乗り換えられるんじゃないかって不安だよ」
「かわいい。大丈夫、私はみっち~一筋だから」
「だから目の前でイチャイチャしないでええええ!」
ガチで号泣するけどいいの?
超面倒くさくなるよ?
「でもみっち~って、嫉妬する割には津島君に近づかないで~とかって言わないよね」
「そりゃあだってクラスメイトが凹んでたら助けてやりたいって思うだろ」
「そういうところ、ホント好き、マジ好き」
「お、おい。今はヤバいって」
「おおおおおおおおん!おおおおおおおおん!」
その心遣いに心底感謝するけれど今は泣かせて!
「あ~あ、ガチで泣いちゃった」
「誰か津島に女子紹介できる人居ない?」
「もう全員紹介しちゃったよ」
「俺も~」
「あたしも~」
クラスメイト達が寄って来たけれど、伏せて泣くしかない。
俺のために女子を紹介してくれようとする気持ちはマジでありがたいよ。
一生感謝するレベルだよ。
でもさ、お前ら全員ナチュラルに体くっつけあってるから見れねーんだよ!
腰に手を回したり、お菓子食べさせ合ったり、恋人繋ぎしてたり、毎日毎日毎日毎日そんな姿ばかり見せられてもう限界なの!
「そういや縫里って妹が居なかったっけか」
何だって!?
「うお、起きた」
「紹介してください」
「ガチトーンだ」
どんな僅かなチャンスでも逃したくないんです。
察して!
「普通に嫌だけど」
「何でええええ!?」
縫里君、いつも親身になって協力してくれるじゃん!
「だって同級生に『お義兄さん』なんて言われたくないじゃん」
「わかる」
確かに俺だって微妙な気分になるな。
だが、それなら姉ならどうだ!
「確か根岸君ってお姉さんがいたよな。紹介してください!」
「普通に嫌だけど」
「何でええええ!?」
根岸君、いつも俺が振られる度に涙目になって共感してくれるじゃん!
「だって同級生が自分の『お義兄さん』になるって嫌じゃん」
「わかる」
確かに俺だって微妙な気分になるな。
でも、でも諦められねぇよお……
「半分冗談で、本当のところはあの愚妹は性格悪すぎて勧められないわ」
「こっちも同じだよ。あのクソ姉貴に津島君が蹂躙される未来しか見えないもん」
あ、地雷系でしたか。
ごめんなさい、諦めます。
「俺に……希望は無いのか……」
クラスメイトの家族にすらみっともなく縋りつこうとしたのに、それでもダメだなんて。
絶の望だ。
目から光が失われているのが自分でも分かった。
「おおーい、津島君。大丈夫?」
俺の様子を心配して手を振ってくれているのは能方君だ。
少し背が低めで童顔で、彼女の膝の上に乗って愛でられているのを良く見かける。
ギリィ!
羨ましすぎる。
でも能方君は俺とは違う可愛い系タイプだから恋愛の参考にはならないな。
改めて見ると男の俺から見ても可愛いな……
「…………もう…………男でも…………いいかな」
「ひいっ!」
あ、お尻を手で抑えて逃げちゃった。
「津島、その道は人生ヘルモードだぞ!」
「そうだよ、諦めちゃダメ!」
「能方を見てそう思うのは分からなくは無いが、お前はまだ引き返せる。止めるんだ!」
「そう思わないで!分からないで!」
悲鳴をあげる能方君も可愛いなぁ。
「津島君、戻って来て!」
「そうだ、同世代じゃなくて年上の女性とかどうかな」
「それなら紹介できる人いるかも」
年上かぁ。
大学生のお姉さんと合コンしたことあるけれど、全員彼氏持ちで揶揄いに来ただけだったんだよなぁ。
あの時は紹介してくれたクラスメイトの花咲さんに本気で謝られたっけ……
大学生以上だと犯罪になりそうだし……それならそれでいっそのこと……
「…………最近…………比留間先生 (四十八歳)が…………俺を見る目が…………優しいんだよなぁ」
「違あああああああう! アレはそういう意味じゃない!」
「学生恋愛が嫌いのウザい生徒指導だからあたし達のことが嫌いなだけ」
「付き合ってない津島が相対的に良い生徒に見えてるだけだって!」
良い生徒に見えるならワンちゃんありじゃね?
「津島君、戻って来て!」
「お前良い奴だからちゃんとした人を見つけて幸せになって欲しいんだ」
「人生諦めるのはまだ早いよ!」
その人はどうやったら見つかりますか。
なんて最大限協力してくれる彼らに言えるわけがない。
彼らに言える文句は少しは慎めということくらいだ。
「はぁ……」
「津島君大丈夫? 保健室行く?」
確かにもう疲れた。
保健室で休ませてもらうのもありかもしれない。
「あれ、でも保健室ってさっき藤崎君達が……」
「保健室は止めた方が良いよ!」
「おおおおおおおおん!おおおおおおおおん!」
チクショウ!
あいつら保健室でイチャついてるんだ!
そんなところに入って行けるか!
もう嫌!
無理いいいいいいいい!
「学校……辞めよっかなぁ……」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
そろそろ脳が破壊されそうな気がする。
寝取られているわけでも無いのにどうしてっ!
「早まらないで! 絶対にまた女の子を紹介してあげるから」
「俺ももっと協力するからさ。大丈夫だって、津島もすぐに俺達と同じになるよ」
「誰か他の学校に知り合いいない?」
「いるけどもう紹介した~」
「仕方ない、姉貴に相談するか」
「大丈夫か? 変なやつ連れて来られても困るぞ」
「お前、従姉妹いたよな」
「いるけど小五だぜ」
「流石に犯罪か……」
ハハ、皆サンキュな。
でも割とガチでそろそろ放っておいて欲しいんだ。
ありがたいんだけど、大量の腕組みバカップル達に囲まれてるのはマジで脳があ゛あ゛あ゛あ゛!
翌日、ガチで一日休んだら心配したクラスメイト達から鬼電が来て家まで大挙して押しかけて来た。
良い奴らすぎんだろ!
でもせめて一人くらいフリーの女の子がいても良いじゃんかよ!
「ただいま~、あれ、人が沢山いる!?」
押しかけてきたクラスメイトを宥めていたら羽澄が帰って来た。
「お、おい津島。このめっちゃ可愛い子誰だよ!」
「え、妹だけど」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
あれ、妹のこと言ってなかったっけか。
「最近父さんが再婚したんだけど、新しい母さんには連れ子がいてさ」
中学生の妹が出来るなんて突然言われてびっくりしたっけ。
「「「「「「「「義妹!?」」」」」」」」
義妹だから何だって言うんだ。
まさか皆、俺と羽澄の仲を疑ってるのか?
あのなぁ、義妹だからって普通の妹と同じだよ。
縫里君と同じで仲なんて良くないって。
「お前ら妙なこと考えるなって。そもそも羽澄は全然話しかけてくれないし態度きついし、嫌われてるんだって」
「~~~~っ! おにいの馬鹿ああああああああ!」
「ほらな」
また罵倒されちゃったよ。
顔を真っ赤にして激怒するなんて、よっぽど俺のことが嫌いなんだろう。
「「「「「「「「……」」」」」」」」
はぁ、彼女欲しいなぁ。
「あ ほ ら し」
「はい、解散かいさ~ん」
「心配して損した」
「え?」
あ、あれ。
何で皆そんなに冷たいんだよ。
女の子紹介してくれるってあんなに真剣に考えてくれてたじゃないか。
「じゃあな、帰るわ」
「あっきれた」
「勝ち組じゃねーか」
「待って皆、何言ってるの!?」
やる気出してよ。
このまま帰っちゃうの?
女の子は?
女の子の紹介は?
ちょっとー!
最後のオチは後書きでIFストーリーとして書いて本編に入れないつもりだったのですが、あまりにも主人公が不憫に思えて入れてしまった結果『あ ほ ら し』になってしまいました。