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第7話 食事の時間です(前編)

 博美とマユが召喚された場所は、地下にあるらしく、部屋の外に出ると、ひんやりとした長い廊下が続いていた。王子と宰相、そしてマユとつづき、最後に博美が長い廊下を歩く。


 あれ? 魔獣って人は?


 後ろが気になり、振り向くと、部屋で机に向かって何やら魔獣が書き物をしているのが見えた。


 ふーん、あそこが魔獣って人の部屋ね。


 そうして前を向き、長い廊下を歩き続けると、上から光が差し込む階段まで来た。


 らせん状のコンクリートの階段をのぼり、上に着くと立派なフロアに出た。シャンデリアで煌々と明るく、赤い絨毯が敷き詰められた場所で、宰相が博美を待っていた。


 窓の外は暗く、すでに王子とマユの姿はない。花瓶を拭いている青い服のメイドに、宰相が声をかけた。


「こちらのお客様をお部屋へご案内するように。お着替えが終わったら、食事の間にお通しするように」


「かしこまりました」


 そうして博美は、メイドに続いて一階の客間らしい部屋へ通された。


 白を基調とした高級ホテルのような部屋だ。


「こちらがお客様のお部屋でございます」


「ありがとう。ああ、つかれた」


 カバンを机の上に置くと、博美は早速ベッドに倒れこむ。


「ほんと、いろんなことが起こりすぎて、夢みたい……」


 オデコに手を当て、うつらうつらしているところに、声を掛けられた。


「あの……、お客様。お召替(めしか)えが終わられましたら、食事の間へご案内いたしますが」


 あ、そうだった。

 ここはホテルじゃない。


 これから、あの王子たちと夕飯だ。


「でも、お召替えって?」


 博美の言葉に、青い服のメイドがクローゼットを開ける。


 何着もの豪華なドレスが並んでいた。


「お好きなドレスを選ばれましたら、お着替えの手伝いをさせていただきます」


 なるほど……。このビジネススーツから食事にふさわしい服装に着替えろと言う意味ね。


「この格好でいいです」


 一瞬、驚いたような表情をしたメイドの世話係だったが、すぐに頭を下げた。


「かしこまりました。それでは食事の部屋までご案内します」


 メイドの案内を受け、長い廊下を何度も曲がり、大きな扉の前へ案内された。


 両側に立つ、黒服の男性たちによって、両開きの立派な扉が開けられた。


「お客様のご到着です」


 中に入ると、広々とした部屋にいくつものシャンデリアが煌めく、豪華な部屋だった。壁際には絵画や黄金の壺、銀食器などがド派手に飾られ、部屋の中心にはドンッと長いテーブルが中心に置かれている。

 真っ白なテーブルクロスに花が飾られ、それぞれの席には、お皿やグラス、ナプキンがすでにセッティングされていた。


 入り口近くの壁際には、ずらりと給仕の人たちが並び、銀製のワゴンも並んでいる。


 王子や宰相、マユの姿はなく、まだ来ていないらしい。


 博美は入り口近くの席へ座り、案内してくれた世話の係の女性に声をかけた。


「料理、出してもらえます?」


 声を掛けられたメイドやその場にいる皆がぽかんとした表情になった。


「お腹減っているから」


 続けて言う博美の言葉に、メイドが慌てて応える。


「恐れ入りますが、皆様がお揃いになられましたら、料理をお出しいたしますので少々お待ちください」


「皆様って……、あと、どれぐらい待てばいいのかしら?」


 博美は言いながら、トントントンッとテーブルを苛立ったように指で叩く。


「もう少々……」


「あ、そう。それなら今から迎えに行くわ。どこかしら、王子の部屋って? わたしがいた部屋より上の階でしょ」


 博美が立ち上がると、執事の格好をした男性が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「一般のお客様は、三階の立ち入りはご遠慮願います」


「ふーん、一般のお客様ね……。もう一人の彼女もわたしと同じ一階なのでしょう?」


「いいえ。聖女のマユ様は、ハロルド王子の婚約者でございますので、三階のお部屋をご用意させていただいております」


「聖女のマユ様ね……」


 博美は言いながら、心の中で笑みを浮かべる。


 確認できた。


 マユが聖女で王子の婚約者だということが、使用人たちにも通達されているようだ。


 ならば、これでもう彼女が聖女で決まりということ。


 やったあ! と万歳したいところだが、開いた扉から、こちらへ向かってくる宰相が見えた。


 博美は、宰相へ手を上げると、

「宰相さん、ちょうどいいところへ来た! お腹が減ったから今すぐ食べたいんだけど」


「ハロルド王子とマユ様がいらっしゃいましたら、すぐに料理をお出し致しますので」


「でも待ってられないから言っているんだけど、ああ、お腹空いた」


 博美はお腹に手を置いて立ち上がると、給仕係が並ぶ壁際のワゴンの近くまで移動した。そしてワゴンにあるバスケットの上に掛かっていた白い布を引っ剥がした。


「お、お客様……」


 周りにいる使用人たちは、突然の博美の行動に目を丸くする。


「思った通り、パンで正解!」


 そう言いながら、博美はカゴからパンを二つ三つ取ると、歩きながらパンをかじって席に戻る。


 皆が唖然としていた。


「うぐ……」

 と喉を詰まらせる。


 何事かと不穏な空気が流れるなか、博美はドンドンと胸を叩きながら、ワゴンの上にある水差しから直接、ごくごくと水を飲む。


「ぷはあ――! 喉が詰まって死ぬかと思った」


 そこに王子とマユがやってきた。ちらりと博美の様子に視線をむけた王子が不快そうな顔になると、隣のマユがつぶやいた。


「信じられない……、勝手に食べている」


 王子とマユがやって来たことを確認した博美は、大きな声で給仕係に言った。


「王子様も来たから、もういいでしょ。料理、持って来て! はやく、はやく! お腹空いた!」


 博美はフォークとスプーンを両手に持って、テーブルをたたく。


 席へ向かって歩いている王子が使用人に向かって言う。


「おい、はやく出してやれ、うるさくてかなわん!」


 王子が苛立った様子で言うと、慌てた様子で給仕の者たちが急いで博美の目に料理を出し始めた。


 ハロルド王子は、マユをエスコートして席に座らせる。


 マユは、真っ白なドレス姿を広げるように席へ付いた。


 博美はパンをかじりながら、王子の隣に座っているマユに視線を向ける。


「さきほどのナース姿も素敵でしたが、そちらのドレスもお似合いですね」


「どうも、ありがとうございます。あら、あなた様は、お着替えはされなくて? そのスーツがよほど気にいってらっしゃるようですのね」


「ええ。でも、ヒールで足が疲れちゃった」


 言いながら博美は、隣の空いている椅子の上に、ドンッと足を置いた。


 そして椅子の上で足をぶらぶらさせて、ポトン、ポトンと一足ずつヒールを床に落とした。


「食事の席で、靴を脱ぐなんて……」


 マユの言葉を聞いて、王子も頷きながら顔をしかめる。


 だが博美は、お構いなしに、椅子の上で胡坐をかいて、ヒールを脱いだ足を揉み始めたのだった。


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