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第5話 ~佐藤マユside1~ キャバクラ

 佐藤マユは、キャバクラの控室でナース服に着替えていた。


 ちっ、まじ、めんどくせーな。

 なんで月一でコスプレなんてしないといけないんだよ。


「ねぇ、マユ、あの客はどうしたの?」


 化粧台の前で、真っ赤な口紅を塗りながらリアが聞いてくる。


「あの客って、どの客よ?」


「ほら、どっかの金持ちの息子」


「ああ、あのバカ息子ね。クビになったらしい。ほーんとバカ。俺には金の生る木があるから、マユちゃんの好きなものなんでも買ってあげるよ、なんて鼻の下伸ばしていたのに、会社で使い込みがバレたんだって」


「ふーん。じゃあ、マユは何も貰わなかったんだ?」


「そんなわけないじゃん、わたしだよ、マユだよ。とりあえず金になりそうなブランド物のバッグと、時計は先に買ってもらっていた」


「さすが、マユ」


「当たり前じゃん。でもさ、むかつくのが、あのバカ息子の使い込みを見つけたのは女のコンサルタントっていうから、マジむかつく」


「ははっは、わかるぅ。マユって仕事できる女が嫌いだもんね」


「目障りなんだよね。コーヒーを片手に、オフィス街をヒールでカツカツ歩いている女、いるじゃん。プライド高くって、仕事できますって感じが、マジ鼻に付く。あんな生き方するより、男にコビ売って楽に生きる方がいいじゃん」


「マジ、それ! 客からもらったプレゼントは売ればいいし」


「そうそう、世の中はさ、賢く生きないと」


 そうしてマユはコスプレのナース服に着替えて、「いらっしゃいませ~」と一斉に並び、開店のお客様を出迎える。


 常連客の男、鈴木が来た。


「マユちゃーん、そのコスプレ似合う」


「ありがとう、スズキちゃーん」


 来店した鈴木に、マユはぶんぶん両手を動かす。


 指名された席に着くと、鈴木が言う。


「まゆちゃん、フルーツ好きでしょ。頼んでいいよ、ドリンクも」


「ありがとう、ハート」

 席に着くとマユは、

「ええっと、フルーツ盛り合わせとシャンパンお願いしまーす」と勝手にボーイに注文する。


「まゆちゃん、そのシャンパンって……」


「いいじゃん、いいじゃん。だって、今日は月に一度のコスプレ日だよ! マユの看護師姿だよ、貴重でしょ。いつものドレスよりいいでしょ。ほらほら、すずきちゃんの心にハート」


 手でハートマークをつくって、客の胸に触れる。


「あ……、うん、そうだね。マユちゃんのそんな恰好、めったに見られないもの。うん、シャンパン入れちゃおう」


「だーいすき、すずきちゃん」

 と言いながら、心の中で舌を出す。


 マジ、男ってバカだな。

 あーあ、こんなチマチマした客じゃなくて、太い客いねーかな。

 乾杯の後、新人のヘルプが付いて、落ち着いたころマユは席を立つ。


「ちょっと化粧直し行ってくる」


「ええ~、マユちゅぁん」


「鈴木ちゃんには綺麗な、わ・た・しを見て欲しいから、ちょっと待ってて」


「うん、待ってる。マユちぅぁん、早く帰ってきてね」


「待っててね、すずきちゅうあん、帰ってきたらハートの注射うって、あ・げ・る」


 マユはちゅうっと、投げキッスをすると、背を向けた。


 化粧室に入ったマユは洗面台に手を置いた。


「おぇええええ、なにがマユちゅうんだよ、マジきっしょ、あのおやじ」


 そして鏡に映る自分のナース姿を見て、舌打ちをした。


「ちっ、マジ、なんで月に一回のコスプレだよ、ここはコスプレキャバ店かっつうの。マジだる。バカ店長め、センスねーんだよ。ああ、タバコすいてぇ」


 そのときだ、化粧室が白く光る。


「は? なに、火事?」


 そして気が付けばマユは薄暗い地下室のような部屋にいた。


 マユの隣には、ビジネススーツを着た日本人らしき女性が立っていて、若い金髪の男と揉めているようだった。


 男は日本語話しているけど……、うわぁ、なにこの女、偉そう……。


 バカ息子と言った、言わないで、揉めているみたいだけど、こんなときは謝っていりゃいいんだよ。所詮、男なんてバカなんだから。


 こういう女は、それがわかってない。ツンと澄ました顔に、高学歴を鼻にかけて、男と張り合うのを生きがいにしているんだよなぁ。


 マユは、さっと視線を周りに動かす。


 で、ここどこよ? 

 さっきまで店に居たのにおかしいな……。

 拉致? 監禁? 


 やべぇじゃん――。


 とりあえず、目の前にいる女性に頼ってみることにした。


「助けてください、お願いします」


 マユは、ビジネススーツを着た女性の足元にすがりついた。


「あ、いえ……。あの、わたしもよく状況がわからなくて、大丈夫?」


 女がマユの背中に手を置いてきた。


 マジうざ。

 そんなことより、どうにかしろよ、ったく役に立たねえ女だな。


 バリキャリとか言う、バリバリ働くキャリアウーマンだろ。

 見た目だけのハッタリかよ。


「聖女様が……、二人、召喚されただと?」


 頭上で男の声がした。


 はあ? どういうこと?


 顔を上げると眼鏡をかけた男性の方が言ったようだ。


 聖女? 召喚? 


 こいつら……、やべー奴らじゃね?


「これはいったいどういうことですか、魔獣」


 メガネの男が言った。


 魔獣? なんだそれ? 


 壁際に立つローブ姿の人間が、頭のフードを外した。


 うわ、人間じゃない――。


「ひぃ」


 まるで化け物だ。この世のものとは思えないほど気持ちが悪かった。うぇ……。


「ば、化け物……」


 なんだよ、コレ。


 人体実験でもしているのかよ。


 わたしもあんな見た目になるのか?


 そんなの嫌だ。

 絶対嫌だ。マジむり。あんな姿、死んでも嫌だ。


 女がわたしの背中をまださすっている。


 うざいんだよ、どうにかしろよ、この状況を。


 お前が、先に実験台になれよ。

 ちっ。


 考えろ、考えろ。


 ここから逃げる方法を――。


「この女を外に放り出せ!」


 若い男が言った。


 どういうことだ? 逃げてもいいのか?


「お待ちください、ハロルド王子。どちらかが聖女様でございますよ」


「こんな女が聖女であるはずがない。この女は俺をバカ息子と言った女だぞ!」


 このギャーギャーうるさい男が……、王子?


 そしてどちらかが聖女……って。


 私? いや、それとも、隣の女か?


 それなら、どちらかを選ぶってことだな。


 よし――! 賭けに出てみるか。


 マユは博美の手からするりと逃げて、王子の前で土下座した。


「ハロルド王子、ご無礼をお許しください」


 聖女だか、なんだか知らないけど、選ばれるってことは、勝つことだ。


 こんなバリキャリ女に絶対負けない。


 女の武器は見た目と愛嬌。


 王子だか、なんだか知らないけど、こんな男、すぐに私の魅力で落としてやる。


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