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第39話 聖獣ロルフです

 話を聞いた博美も、エミリーが不思議に思っていることを理解できた。


 ドワーフ族には武具を作る技術があるのに、なぜガンディの村では鞄を作っているのか。それに武具を売る方が儲けも大きいはずだ。


 すると、

「実は、理由がございましての」

 ガンディは、長いあごひげを触りながら、話し出した。


「数日前、黒岩山の一部が大雨で崩れ落ちましての。村の者たちは皆、避難していたので助かったのですが、鍛冶をするための炉や工房が土砂で流され、今は村の男たちが総出で修理にあたっておるんですわ」


「それは大変でしたね」


 博美の言葉に、ガンディが頷く。


「そうなんですじゃ、あんな急激な大雨は滅多にないことですから、皆、驚いておりました。ですから黒岩山にある工房が元に戻るまで手の空いた者や子供たちも手伝い、鞄を作ってなんとか村の収入源を確保することになりましての」


「ガンディさんの村は、はるか東にある、グルリ国の黒岩山なんですね」


 驚いたようなガンディの表情をみたエミリーが先回りして言う。


「地図には詳しい方なので。しかし、随分遠くまで、鞄を売りに来られたのですね」


「ええ。最初は、いつも武器を卸している武器屋の店主に鞄の買い取りをお願いしたのですが、鞄は引き取ることはできないと断られましての。グルリ国内でも、いくつか街や村を周って、鞄を買ってもらおうとしたんですが、ドワーフということで話すら聞いてもらえず、まったく相手にされませんでしたわ」


 肩を落とすガンディの隣に居るロルフも悲し気に鳴いていた。


「ワン……」


 ガンディがロルフの頭を撫でながら、話をつづけた。


「村の皆が待っておりますからの。なんとか鞄を買ってくれる人がいないかと、ロルフの背に乗っていくつも山を越え、国や村を回り、遠く離れた見知らぬ土地まで来ることになった次第ですわ。そうして隣の国で街道を歩いている商人に鞄を買ってもらえないかと話を持ち掛けたところ、聞けば、ハロルド王子が新しく領主になったここならば多少の融通が利くだろうと教えてもらいましての。そういうわけで、ハロルド王子の屋敷の門まで行ったところ、あのようなことになり」


 シュンとした耳で、ロルフが謝るように鳴いた。


「くぅん……」

「いや、いいんだ、ロルフ。お前は、大事な鞄が入った袋を取り返そうとやってくれただけじゃ。だが、これでわかりました。どこへ行っても無駄ですじゃ。こんなドワーフが作った鞄を誰も買ってくれませんからの。もうわしらは、ドワーフの村に帰ります」


「ちょっとまってください、ガンディさん。エミリー、預けていたお金を」


「かしこまりました」


 博美はお菓子を買った残りの布袋をガンディの前に差し出した。


「あまり入っていませんが、どうぞ受け取ってください」


 博美の言葉に、ガンディが手を振る。


「いやいや……、お金などいただけません。そちらの鞄は博美さんにお礼として……」


「このような素晴らしいバックにはぜんぜん足りない金額です。それに、これだけしか持っていませんので逆に申し訳ないのですが、少しですが村のために使っていただければ」


 博美はガンディの手に、布袋を渡すと、

「そうですか……、ありがとうございます。本当に助かりますの。ですが、もうわしらは鞄を売りまわるのはやめときます。村の稼ぎがない今、この鞄だけが頼りでしたが、人間と関わることでロルフがまたあのような姿になれば、今度こそ……」


 もしロルフがまた大きな獣の姿になってしまったら、次こそ、どのような被害が出るかわからない。そして、また誰かが呪われでもしたら……。


 ガンディの気持ちが痛いほど博美にも分かった。


「そうなんですね……」


 言いながら、博美は不甲斐ない気持ちでいっぱいだった。


 ガンディさんや村のために、わたしにも出来ることがあればいいのに……。


 そんなとき、エミリーが、

「博美さんやガンディさんが心配するようなことは、もうないと思いますよ」


「え?」


 博美とガンディは顔を見合わせていた。


「皆さん、ロルフの姿をよく見ていてくださいね」


 言いながらエミリーがロルフの前に立つと、ロルフが後ずさりした。


 だが、正面に立ったエミリーに降参するようにロルフは、尻尾を丸めて頭を下げる。そのロルフに向かって、エミリーが手のひらを向ける。


 すると、ロルフの身体からキラキラと黄金の光が輝いた。


「この光は、なんですじゃ?」


「わふぅ?」


 ロルフも首をかしげる。


「聖なる光です。ロルフには、聖なる加護が付いていますから、もうあのような魔物になることはありません。誰かに呪いをかけることもないでしょう。これも博美様のお力ですよ」


「なんと!? お嬢さんがロルフを聖獣にしてくださったのですかの!?」


「え? わたし?」


 博美は驚いて、自分自身に指を向けながら、エミルマイトに言われた言葉を思い出していた。


 そういえば……、エミルマイトさんも聖獣とか、そのようなことを言っていたような……。


「嬉しい事ですじゃ。これでまた、鞄を売りに行けます。博美さんには、なんと感謝すれば」


 頭を深々と下げるガンディに、博美は戸惑いながらも、

「いえ、どうぞ、頭をお上げください。ロルフがもうあの姿にならないならよかったです。ね、ロルフ!」


「ワフゥーン」


 ロルフはお座りして、尻尾を振りながら、胸を張っている。


「聖獣ロルフだね」


 博美が言うとエミリーが笑う。


「ふふふ、ほんとですね」


 それが、どこか誇らしげに胸をはっているような姿に見えたからだ。


「よかったの、ロルフ」


 ガンディも笑顔になっていた。


 

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