第8話
第八話:私の記憶 四
数日後、知らない番号から電話がかかってきた。電話の相手は絵河だった。声の印象は少し違っていたが、間違いなく絵河だった。約二十年ぶりの会話である。しかし、その月日は徐々に埋まっていった。私は小学生の頃、毎日のように絵河家を訪ねていた。○○をして遊んだよね、あれは楽しかったなと、思い出話は溢れに溢れかえった。気づけば四時間半も経過していた。絵河からの電話であった。すぐにLINE電話に切り替えれば良かったのだ。申し訳ないことをしたと反省している。請求額がとんでもないことになってしまうだろう。絵河との会話の中で何人もの共通の友達が出てきた。まずは、猿渡恵一。次に好川武。辰吉涼一。などなど、数え上げるとキリがない。サルは今東京で芸人のネタを書いたり、劇作家として活躍している。小学生の時の話であるが、私はサルと一緒にコントのようなことをやったことがある。コントのタイトルは電気風呂だったはずだ。クラスのみんながそれぞれグループを作り、何かを発表する会だったと記憶している。そのコントの真似事がウケた事、ウケた事。やはりその頃からサルは笑いのセンスが光っていたのだと実感する。
家にサルが来たことが何度かある。ハガキにネタを書くのである。少年ジャンピングの投稿欄に載るのが目標だった。私のペンネームは『モーリシャス五郎』。サルは『わっしょい次郎長』であった。わっしょい次郎長は何度か投稿欄に載ったが、モーリシャスは載ることはなかった。笑いのセンスはサルに到底敵わなかったと今振り返っても思う。
今はもうなくなってしまったが、ちょっと歩いたところに松田商店という小さなお店があった。そこに自動販売機が並んでいて、瓶のコーラを買うことが出来た。飲み終わると、その瓶は十円に変えてもらうことが可能だった。サルはよくコーラを一気飲みして、飛び跳ねていた。お腹でコーラがチャポチャポと音がして笑えるのである。これを真似してやってみたのだが私にはできない芸であった。サルの特殊な胃が可能とした技なのかもしれない。