第50話
第五十話:私の記憶 四十四
八月の第一土曜日、私は金田先生のもとを訪ねた。扉を開けた途端に、金田先生は私に「輝いてるね。」と言った。自分でも自覚していたのだが、やっと長いトンネルから抜け出すことが出来ていたのである。先生は私に、「長かったね。でも、うつから抜け出すことが出来て本当に良かったね。おめでとう。」と言ってくれた。薬は出しておくけど飲まなくて大丈夫と言われた。私は診察室を出て、会計待ちの時に嬉しくて泣いた。
キキとララ。私が復活の呪文ザオリクを唱えられたのにはこのキャラクターの力があったからこそだと思う。『お宝探し』でゲットしたスマホの後ろに付けるスマホリング。それがキキとララであった。私はリサイクルショップやリユースショップでお宝を見つけるのが好きだった。お店の中からお買い得なモノを見つけると買ったし、値段に見合わないと思ったら買うのを控えた。自然と家族の中にお宝探しという言葉が生まれた。
私の大好きなバンドであるゴーイングアンダーグラウンドの曲で、『ハッピーバースデイ。僕たちは何度でも生まれ変われる。』というフレーズがある。全くその通りであると思う。生まれて死ぬまでに何度でも生まれ変われるとしたら、幸せではないか。
私はキキとララが自分の息子と娘のように見えると思ったのである。ここに大切なカギが隠されていたのではないだろうか。簡単な言葉にすれば「気付き」である。そう、私は気づくようになっていたのである。正しく言えば気づくことを取り戻したと言った方が良いかも知れない。ボーッと生きていたら気づかずに通り過ぎてしまうことは沢山あるのだ。約八年間忘れていた感覚を取り戻すキッカケがキキとララなのだ。その後私は味覚と嗅覚も取り戻すことに成功した。食べる物がこんなに美味しいなんて、忘れていた感覚だった。
そして、振り返ると私の甦りは七月後半であろうと思われる。娘のダンス教室最終日。私は踊る娘の姿を追いかけていたら、涙で前が見えなくなってしまったのだ。こんな体験は久しぶりだ。そう思ったのである。




