第40話
第四十話:私の記憶 三十四
一クラスの人数が少ないからといって楽だとは限らない。二年次、三年次と苦労は絶えなかったのである。そんな苦労が絶えない毎日の最終日、つまり卒業式のことを書いてみようと思う。
朝は礼服を着て、白いネクタイをして早くに家を出た。朝のホームルームをしに教室へ行くと、一人だけ来ていなかった。早々にホームルームを終えて職員室へ戻り、来ていなかった生徒に電話をかけた。電話に出た生徒は、「今向かってます。」と言った。心配事は彼の髪の毛の色であった。式が始まる十分前に到着したが、案の定アンポンタンな彼は髪を染め直してこなかったのである。このままでは式に出してもらえない。玄関で彼を捕まえた私は、近くにある職員トイレに彼を引っ張り込んで、髪の毛に黒いスプレーを吹き付けたのである。完璧である。式の始まる二分前、マジで恋する五秒前、既に整列させていた所に彼をねじ込み、私は先頭に立ったのである。思い出してもハラハラする出来事であった。青息吐息とはこんな状況をいうのであろう。
卒業式で泣かされるとは思わなかった。また会おうなって感じで愉快に終わるとばかり思っていた。生徒代表の鷹木健介が壇上で読み上げた文章が胸に刺さった。事前にどんな文章かはチェック済みだったのにも関わらず、健介の生の声で聞かされるとグッとくるものがあった。後半、健介は泣きながら文章を読み始め、読み上げて泣き崩れたのである。その文章の中には私の名前とお礼の言葉が書かれていたのである。普段はおちゃらけている生徒会長というイメージだったのに、最後の最後に泣き崩れてしまうのにはびっくりさせられた。
その後、式は滞りなく進み、校歌を歌って、卒業生退場となったのだが、私も生徒も泣き止まなかった。私は泣きながら生徒の前に立ち、起立させて体育館を後にした。教室に戻った私には、最後のメッセージを生徒たちに伝える時間が与えられていた。しかし、泣かされてしまったので、すっかり何を話すのか忘れてしまったのである。それでも一つだけ伝えたのは以下のとおりである。「この三年間はめちゃくちゃ大変だったけど、めちゃくちゃ楽しい三年間だったよ、ありがとう。死ぬまでに一つ小説を書くからさ、書籍化されたら読んでよ。」




