第29話
第二十九話:私の自慢の生徒 一
坂下悠太は私にとって、忘れられない盆地高校時代の初の卒業生である。坂下はクラスの委員長だった。三年間ずっと立候補してくれたのである。今でも慕ってくれている。今でもメッセージをくれる。私にとって貴重な存在である。彼は農家の手伝いをしていて、両親が引退したら、農家は他の農家と統合される見込みらしい。
現在、彼は絶賛婚活中。相手は女子高出身であるそうだ。婚活アプリで知り合ったと聞く。とても落ち着くらしい。
彼はクラスの愛されキャラだった。突然、同じクラスの幸ちゃんに、B'zのCDとネックレスを送って、撃沈した。高そうなネックレスは何処で買って来たのだろうか。その後、彼は同じクラスの美奈子のことを好きになった。告白はしなかった。しかし、みんなが知っていた。なぜなら、ネックレスを送っていたからである。
彼は毎朝、クラスにパンパンに膨れたリュックサックを背負って登場した。他のみんながやっている机に勉強道具を置いておく行為、いわゆる「置き勉」をしたことがないのである。はみ出た行為はしないのが彼の流儀である。立派である。
彼は歌が好きだった。しかし、下手だった。学校祭でクラスから一人カラオケに出なくてはならなかった。みんな嫌がっていたが、悠太は立候補した。歌が好きだったからである。聞かされる身にもなって欲しかったが、そこは流しておこう。
悠太は職員室に入る時、大きな声で「失礼します!」、出る時には『失礼しました!」と言っていた。とても大きな声で、職員室のみんなが振り向いたものだ。
今考えると、とても大切なことを彼は当たり前にして、行動していたのだ。入る時の挨拶と出る時の挨拶を大きな声でしていただけなのだ。
今年の夏、メークインを送ってくれた。ありがたくて泣いた。メークインはめちゃくちゃ美味かった。悠太が一所懸命に段ボールにじゃがいもを詰めているのを想像するだけで泣けた。届いてから、すぐに私が調理した。今まで料理をしようなんて思いもしなかった私が『動いた』のである。味付けはマキシマムに決まりだ。マキシマムとは調味料のことである。ニンニク、塩胡椒、なんらかのスパイスが絶妙に混ぜてある万能な調味料なのである。
ジャガイモは美味さ抜群だった。誰かにお裾分けしたい気持ちが生まれた。私はその気持ちをそのまま行動に移してみた。満先生にLINEをした。家に来てくれるらしい。会うのが楽しみだ。満先生は私と同じ歳の先生だ。生徒に慕われる「港町」高校の中で私が認める先生の一人だ。いつも私のことを支えてくれた学年主任である。私のクラスに不登校になってしまった生徒がいた。満先生は必ず私と一緒に対応しようとしてくれた。人に寄り添える人なのだ。感謝しかない。ありがとう。じゃがいもは、ほんの一握りのお返しだ。倍返しとはいかないれども。
カボチャが第二弾として届いた。段ボールの下にはじゃがいもも入っていた。半端ない量だ。実家に持って行こう。第三弾はお米、第四弾はサツマイモらしい。楽しみで仕方ない。ありがとう、悠太。




