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ひまわり畑でプロポーズを

作者: 更科 郡



 祖母は、言うなれば可哀そうな人だったと思う。


 人柱にされるほど強大な魔力持ちの祖父の幼馴染だった祖母は、隣国の裏切りによる襲撃に対応するため、その魔力をすべて差し出せと国から言われた祖父の最後の願いで急遽妻となった。一夜の花嫁となった祖母は、死に行く祖父にそれでも守護とを、自らの記憶を代償に祖母にできる極限の魔法を行使したという。そのため、祖母のそれまでの記憶はほぼ失われた。よほど大きな出来事でないと記憶に残っていないのだと。


 祖父の魔力のお陰で隣国を撃退し、有利に交渉を進めることができた国は、祖父に英雄の称号を与え、また祖母の生活も保障した。だが、祖母は一夜の契りで母を身ごもっていた。両家の親の手を借りて母を育てていたが、母は祖父によく似て膨大な魔力持ちで、幼い頃は祖父よりも魔力暴走がひどかったらしい。それを抑えるために、祖母は更に記憶を代償にして度々母を止める羽目になった。


 母がある程度大人になった頃には、祖母はほぼすべての記憶を無くしていた。生活するための最低限の記憶はあるものの、個人的な記憶はかなり断片的で、さらにぼろぼろになったのは記憶だけでなく、体と脳にも影響を与えたのか、母の暴走が収まっても忘却は止まらなかったらしい。


 そんな祖母が唯一覚えていたこと、それは祖父にひまわり畑の中でプロポーズしてもらいたかったということ。昔からの夢だったらしく、祖父もそれを知っており、そうするつもりだったこと。けれど結婚は唐突で、襲撃は冬の食料の乏しい時期であり、ひまわりなど咲き誇るはずもない頃であったと。


 祖母が残っている記憶なんてそれくらいじゃないかな、と母は言う。

 だからお願い、英雄と言われた祖父によく似たあなたに、ひまわり畑で祖母にプロポーズしてほしいのよ、と。


 祖母が騙されるかはわからない。けれど、既に体が弱り記憶のあやふやな祖母に、最後に幸せな記憶を与えてあげたいと望む母の気持ちはよくわかった。

 

 そっと祖母をひまわり畑へと誘う。そして、満開のひまわりの中で祖母に、祖父によく似ていると言われた表情でプロポーズをした。

 涙を拭う祖母。うれしいと繰り返すその表情は、あどけなく可憐だった。きっと祖父の前では、いつもこんな表情だったのかもしれない。


 ありがとう、〇〇さん。と祖父の名前を告げ、その後じっと僕の顔を覗き込んでから言った。


 ありがとう、△△。



 祖母が言った名前は確かに僕の名前だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 記憶をなくしても、家族を忘れないというのは素敵な事だと感じました。 [一言] 読ませて頂きありがとうございました
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