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回り廻る迷宮潜り  作者: どうしようもないと言ったらどうなるのか
Act.2『学都騒乱』
26/33

確かな一歩

 

『性格が悪すぎるだろ…!』


 爆炎により抉れた腹にポーションを掛ける。

 気休め程度しか回復はしないものの、随分マシになった。


 ずきずきと痛み、身体を伝う血が妙に温かく感じる。

 しかし、それが命の源と言うならばあまり時間を掛けている場合ではないとドブ鼠の自分ですら理解できる。


 ()()の奥深く、灰を被った様な髪の少年はその時初めて、魔法を使う魔物と相対した――。


 ◇◆◇


 ―――毒じゃ、ねぇ。


 ベッドの上で目を覚まし、そう呟いた。

 腹を摩り、爆発により抉れた場所が確かに元に戻っている事に安堵する。

 前回のループで、毒は来なかった。そして、代わりに来たのは腹を抉り取る爆発とフュリンを取り囲む影たち。


 …最早、これは毒なんて言うちゃちなものじゃねぇ。

 間違いようもなく魔法的行使…、もしくは遺物の使用による何かだ。そうでなければ説明がつかない。

 だが、あそこまでの自由自在な魔法があるだろうか。毒、爆発、黒い影、それら全てが同じものとは到底思えない。



 ―――だが、この現象の原因が遺物ならば話は別だ。

 複雑な発動条件や、何らかの負荷点(デメリット)を己に課せば遺物はそれに答える。――…まるで、俺が死を許されないのと同じように。


 だが、万に一つ魔法にしろ遺物にしろそれを特定できなければ対処は不可能だ。

 死が訪れるおおよその時間は分かった。しかし、分からない事はまだ幾つかある。


 ――それが、発動対象と発動効果だ。

 今のところあの現象に見舞われているのを確認したのは二人、俺とフュリンだ。教師寮は分からない。教師寮の中で死んでしまった時は毒に侵されていたせいか耳が使い物になっていなかった。教師も対象の可能性は十分にある。


 そして、発動効果。

 俺は毒、爆発、フュリンは喋る人の影に襲われた。

 しかし、俺が物理的に損傷(ダメージ)を受けているにも拘らず、フュリンは物理的ではなく精神的な何かを喰らっていた。

 耳を塞ぎ、目を瞑る、現実逃避をする子供そのままだ。


 違いはなんだ。

 分からない。分からないが、やるべきことは幾つか出来た。

 幾度目か、代り映えのしない朝食を口に運び、教師寮を出た。





 夜、寮に集まった教師達がざわざわと会話をする。


「明日自習で良いからと言っても、これは横暴と言わざるを得ないよなぁ」

「そうですね」

「ここでなら寝てもいいんですかね?」

「どうだろう」


 ――簡単な話だ。

 魔法にしても、遺物にしても、これほど強力な現象を引き起こすのであれば、間違いなく一定の効果範囲、もしくは発動可能な範囲がある筈だ。刻印や魔法陣、発動への前段階の印が見つからないのならば猶更だ。


 それならば単純明快、可能性の高い人々を集めておけばいいのだ。

 それが教師――、魔法も遺物どちらも場合によっては発動可能な対象人物たちだ。

 幸い、こちらには学園内の上位権力を持つ生徒会長のフュリンがいる。多少無茶なお願いも通るからこそのこの作戦だ。


 更に言えば、発動対象の確認――これもまた、ここで済ませる。

 今この寮にいるのは、俺を含む教師全員と生徒会長のフュリンだ。副会長であるルイドも一緒に居て欲しいと願ったが、生徒寮の管理業務等がある為、参加はできないらしい。


 刻一刻と時間は過ぎ、夕食を食べ、各自ソファーに座りうとうとしたり、何人かで集まって授業進行度の擦り合わせやトランプなどの遊びをしていた。

 やはり教師という事もあり、人間が出来ているのか文句はありそうな顔はしても、従ってくれる。


 それだけで随分とマシなものだ。

 俺はフュリンと共に、迫りくるその瞬間を捉えようと部屋全体を視界に入れられる場所に陣取る。


「本当に来るのかのう。正直、疑い半分じゃぞ。これで何もなかった時には非難轟々じゃ」

「――来る、間違いなく」


 苦しさを、痛みを、この身体が覚えている。

 あれが幻だったなどと、誰が否定できるだろう。幾度と無く迷宮で感じ続けた様な幾つもの感覚が、今になって襲ってくる。それがいかに恐ろしいものか、今更痛感する。


 そう、毒も、爆裂も、どれ、も……



 ――そうだ、どれも経験したものと()()()()だ。



 何故、迷宮で感じた毒と全く同じ毒だった?

 何故、迷宮で喰らった魔法と全く同じ魔法で、全く同じ場所に喰らった?


 まさか―――。


 点と点が線で繋がる。

 想像もしたくない予想が、次々と繋がり、その可能性を示唆する。その瞬間――、



「が、ァッ!?う、腕っ!おれの、うでがッ!!?」

「な、なんで皆がここに…っ、ち、ちがう…あ、あれは仕方がなかったから…!」

「…ぁ、ぐ、だ、…だれ、か…食べ物…、みず…」

「あ、あ、ぁぁああぁぁぁぁ!!!つぶ、潰れる潰れる潰れるるるる」

「い、いや…わ、私は皆に頑張ってほしくて…だから…」


 黒い影が、腕が引き裂かれた者が、飢餓に苦しむ者が、見えない何かに押し潰されそうになる者が。そして――、


『死ねっ!死ねっ!!しねぇッ!!!死に絶えてしまえ!』

『救えぬ星の子よ。いつかの未来、怪物と渡り合う子よ。どうか善き死を』

『なぜこんな子に、これほどの才があるのだ…忌み子め…』

『災禍を運ぶ赤子、か』


 隣で苦しむ、小さな赤子が。

 平等に、教師の全員が何かに苦しむ。誰一人として例外は無く、そこに不公平も不平等も何一つ無かった。そしてまた、



「が、ぶ、ぁッ」


 身体中が、突如として切り刻まれる。

 顔が、目が、腕が、腹が、足が、正常に動いていた何もかもがずたずたに切り刻まれ、俺は床に伏す。


 じくじくと身体が痛む。

 どくどくと血が床に広がる。

 傷だらけの誰かの足が倒れ込んだ視界に映る。――それは、見慣れた足輪をつけていた。あぁ、そうか、俺の足かよこれ。


 まだだ、まだ、何かが出来る筈だ。

 何も諦めちゃいない。ずり、ずりと床を這う。そして、フュリンに触れようと、そうして――。



 ――五度目の一日が、終わりを告げた。


 ◇◆◇


「…ッ!…は、…ほぼ即死とか、笑えねぇ」


 目を瞑り、頭を抱える。

 一度二度目は恐らくだが即死的な何かが睡眠中に襲った。三度目は毒、四度目は爆発による欠損、そして五度目は無数に切り刻まれて、失血死を待たずに死んだ。


 右足を見る。

 ある、確かにある。感覚もあるし、足輪…〈風切りの足輪(ウィンドステップ)〉もしっかりついている。大丈夫、大丈夫だ。だから…、


「頼むから、止まってくれ…」


 震える足に拳を落とし、静かにそう呟いた――。




 先のループで分かった事は多い。

 まず、教師の中にあの現象の対象になっていない者はいなかった。つまり、犯人は教師ではない。


 次に、現象について。

 俺は死ぬ度に、発生する現象が変わっている。

 一度目二度目は分からないが、三度目からは順に毒→爆発→斬撃だ。だが、フュリンは違う。変わらず影がフュリンに言葉を吐いていた。


 そして三つ目、この現象は恐らく―――()()()()()を元に発生している。

 迷宮内の毒と全く同じ苦しみの毒、昔喰らった魔法と全く同じ魔法に同じ被弾場所、そして斬撃…あれは、俺が前の世界で死んだ要因の罠と酷似していた。



 己の記憶、それもトラウマ染みた記憶を物理的に再現する遺物――。


 それが、このループの原因だ。

 これほど複雑な魔法はあり得ない。だが、遺物ならば条件や負荷点(デメリット)の事を考えれば可能だ。

 二つ目の俺だけ現象が変わっている問題だが、これは恐らく遺物による現象の記憶が残っている為、毎回変わっているのだろう。現に、フュリンは記憶がない為、変わっていなかった。

 とするならば、残る問題は――。


「犯人の特定――」


 それさえ出来れば状況は一変する。

 しかし、同様に問題はまだある。それが、その現象が起こる対象だ。先程のループでは俺含めた教師全員、そしてフュリンにもやはり現象は起きた。


 間違いなく遺物である以上、遠方からこれを発生させることは不可能だ。

 つまり、最低でも学園内、この中にその遺物を使った()()がいる。教師じゃないかつ、発生するのが真夜中という以上、選択肢はおのずと絞られる。浮かび上がるそれらは、


「――生徒…」


 学園には警備や防衛魔法陣が設置してある為、夜間に部外者が入ることはできない。それこそ、上層部ですら不可能だとフュリンからは聞いている。

 範囲内にいるだけで発動する遺物と言うのは、あの性能ではあり得ない。そんな簡単な遺物一つで、ああも易々と多くの人を狂わせてしまえていい訳がねぇ。


 つまり、何らかの準備段階がある筈だ。ならば話は早い。

 不可解な動き、いつもと違う行動、直近の言動―――洗い出せるものは幾つもある。


「――人狼探しだ」



 さぁ、一歩ずつ、真相に近づいていこう――。

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