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回り廻る迷宮潜り  作者: どうしようもないと言ったらどうなるのか
Act.2『学都騒乱』
23/33

教師ライ

 

 視線が痛い。

 教壇に立つ俺へ、何重もの視線が集中する。


 まぁ、そりゃそうだ。

 なにせ、俺と同い年、もしくは俺よりも歳が上の奴しかいねぇ。おかしいって思うだろうし、直ぐには納得できないだろう。


「…それでは、”遺物”の授業を始めます。今日は”遺物はどこから来たのか”で…」

「――あの、ライ先生」


「…はい、どうしましたか」


 生徒の一人が声と共に手を上げる。

 あぁ、文句か?文句だろ?俺も申し訳ねぇって思ってるよ。でもその分しっかり授業するから許してくれねぇか?

 ぶつぶつとそんな事を心の中で呟きながら俺は黒板ではなく、生徒の方を向く。


「”遺物はどこから来たのか”は、前回やりました」

「…あぁ、なるほど。じゃあ”遺物の例”ですね。有難うございます」


 あぶねぇ…文句じゃなかった…!

 範囲の指摘をされ、フュリンに色々と準備をされて渡された遺物分野の指導書を見る。なるほど、迷宮産の遺物を見せたりして授業進めればいい訳ね。


「文字の読み書きの履修進行度に合わせて、全員が読める文字しか黒板には書きませんので、少し見辛かったら申し訳ありません」


 こつこつ、と黒板に白い棒(チョーク)で題を書いていく。

 前の世界で授業受けた時も思ったが、この黒板とチョークと言う代物、どうやって出来てんだろう…、こういうの勉強する分野あったらよかったのに…。そんな事を思いながら、後頭部に集まる視線を感じながら、授業を進めた。




「今回、授業で見せる用の遺物を持ってきていないので、先生個人の遺物を見せようと思います」


 腰から〈幾刃(いくじん)(かばん)〉と、足から〈風切りの足輪(ウィンドステップ)〉を取り、それを皆に見せる。


「皆さん、遺物を見た事は?」


 生徒全員が首を横に振る。

 まぁ、そうだろう。どうやら学都ルビラは、前の世界で見た人工遺物作成も行っていないようだし、学都内で生活をするのなら見掛ける機会は非常に少ないと言わざるを得ない。


 と言うよりも、生徒があまりにも従順すぎて怖い。なんでぽっとでの俺がこんなにしっかり授業出来てんの?


「では、この二つを簡単に説明して回したいと思います。どちらも危険はないので大丈夫です」


 ざわざわとざわつく生徒を静まらせて、俺は〈幾刃(いくじん)(かばん)〉の方から説明を始めるのだった――。






「先生、”実技”の授業担当なら、気を付けてくださいね」

「…”実技”?」


 授業が終わり、遺物や教材を片付けていると、生徒数人が不安そうな面持ちで俺に話しかけてくる。


「生徒会長が推薦した人だから僕たちは貴方の指導に疑問を持ちませんでした。ですが、実技の連中の中には少々血の気が多い生徒がいるので…」


 もしかしなくても、フュリンって凄い奴か。

 生徒会長になって学都に反旗を翻そうとしている時点で凄い凄いとは思っちゃいたが、生徒からも支持を得ているとなると本物だ。


 しかも、まだ覚醒前のエルフ。

 伸び代しかなくて寧ろ恐ろしさまで感じる。


「先生、ただでさえ小さいんですから…」

「聞き捨てならねぇ」


 スラムに住んでいた頃があるせいで俺は恐らく同年代の連中よりも成長が少し遅い。しかし、最近はどんどんと伸びている自覚もあるし、これからだ。今だけで俺を語らないで貰おう。


 次の授業確認をし、俺は早速溜息をつく。



 ――”実技”。

 早速不安の種がお出ましと言うやつだ。





「何の冗談?」


 生徒の一人が、青空の下で俺に向かってそう言った。

 先程まで”遺物”の授業を受けていた生徒も半数近い人数が参加していて、不安そうな面持ちでこちらを見ていた。


「ラグ先生どうしたんすか?」

「前任のラグ先生は中級学年の指導に移りました。低級学年の実技等の指導は俺ともう一方が担当します」


 カンペを作っておいてよかった。

 ラグ先生とやらは引継ぎの際にフュリンと共に少し話したが、筋骨隆々の良い人だった。あの人に教えて貰っていたのなら、引き続きあの人に教えて欲しいと思うのも無理はない。


「ガキのあんたに従う意味なんてないだろ」


 取り敢えず簡単な運動の後に各自使う武器を取って、と指示をするも五、六名の生徒はそれに従おうとしなかった。

 それはそれで仕方がない。しかし、フュリンに強制的とはいえ、教師に仕立て上げられた以上どうにかして参加してもらいたいところだ。


「では、各自戦闘演習を始めてください。色々な武器種の人とやりましょう」


 こちらの指示に従ってくれる生徒たちは、それに返事をし、各々が武器を手に対人戦を始めた。そして、俺は仕方がないとばかりに指示に従わない生徒の元へ行き、




「――俺に負けたら授業を受けるというのはどうですか?」


「……あ?」

「ですから、貴方達より年下の俺に負けたら、素直に授業受けませんか?」

「…本気で言ってんのか?ガキ」

「見たところ二、三歳しか変わらないでしょう」


 ルビラ学園の全貌を俺は全くと言っていいほど知らない。

 ただ、低級・中級・上級と学年が三つに分かれており、それぞれで数年学びを得て、卒業していくのが通例と聞いている。

 ならば、低級…目の前にいる彼らは今、基礎を学ぶ段階にいる筈だ。基礎が出来ていなければ応用は勿論、この先苦労し続ける。

 彼らがどれほどの強さかは分からないが、戦闘に置いて最も重要な基礎を学ばせる為にも、彼らにはしっかりと授業を受けて貰おう必要がある。


 後悔してからでは遅いのだ。


「…いいぜ、生徒会長に推薦されたのだってどうせコネだろ」


 …その通り過ぎて何も言えねぇ。

 それぞれ武器を手に戻ってくる彼らを前に、俺も木で出来た短剣を手に取った。


「――どうぞ」


 教師と認定されてから渡された外套(コート)のような長い裾のそれを脱ぎ去り、いちゃもんをつけられては堪らないと、遺物も外す。そして、木造短剣を握り込み、姿勢を低く構える。


「泣いても知らねぇ」


 剣を取った生徒の一人が、こちらに向かって走ってくる。

 彼は両手で大きく剣を振りかぶり、そのままこちらの肩付近を狙っており――、


「遅い、狙いがバレバレ、大振り過ぎる」


 短剣でその剣を流し、剣の先がガツンと地面にぶち当たる。

 生徒が「ぐっ」と小さく唸り、地面に着いた剣先をそのまま振り回す。これが大剣で、かつしっかりと敵を見ての動きだったならば、恐ろしいだろう。


 圧倒的質量の暴力と言うのはそれだけで強力な武器となる。

 しかし、相手の動きも見ずにただがむしゃらに剣を振るうだけでは、単なるヤケクソにしかならない。


「基礎がなっていない」

「く…、そがぁッ!」


 怒り任せに振るわれるその剣は、最早速度が落ち始めていた。

 子供の故の早期的な体力の限界だ。恐らく、剣を握るのも限界だろう。あそこまで大振りを繰り返せばすぐに限界が来る。しかも、その一回一回全てが全力…、力の抜き所ってやつを理解していない。


「もういいでしょう、…今日は休みなさい。次回から参加すればいい」


 肩で息をする生徒の一人が再び剣を握り締めようとするが、近付いてナイフの柄でそれを取り落とさせる。武器も碌に握れない消耗具合じゃもう授業に参加できないと判断し、そう告げる。彼は、ぎゅうと拳を握り込んで、少し離れた場所に座り込んで、俯いた。


 ――逃げない!

 子供なのになんて精神力(メンタル)!少なくとも前の世界の俺なら絶対逃げ出している。


「さて、残りの君達も数で押してきてもいいですよ」

「ルビラの生徒として、そこまで落ちぶれちゃいないすよ」


 先程戦った生徒を心の中で褒めながら、残る反抗的な生徒に戦闘を促す。

 ルビラ学園の生徒は、随分と人間として出来ているようで、仲間が一人やられたからと言って数人掛かりでこちらを潰そうとはしないようだ。


 こういう精神性を俺を含めた探索者たちは持って欲しいものだ。

 基本的に性格の悪い探索者は、その根底に”勝てばいい”と言う何でもありな精神論を持っていることが多い。

 なにせ、迷宮の罠はそう言う意識をこちらに植え付けてくるくらいには悪辣なものが多い。自然とそういう精神に辿り着いてしまう。


 だからこそ、ルビラ学園の生徒としての誇りを持っている彼らは、俺達迷宮潜りと比べたら非常にマシな連中と言える。


 残りの生徒もどうにかあしらって、木造短剣をしまう。


「授業参加は次回からでいいです。学園の生徒として、出来れば次回はしっかりと参加してくれると嬉しいです」


 多くの子供の中で先生として参加している手前、間違った事は出来ない。

 出来る限り、酷い言葉をぶつけない様に気を付けながら、肩で息をして倒れ込む生徒たちに俺はそう告げた。


 ノノに教えるのがいかに楽かを思い知らされる。

 というよりも、雑な言葉で教えるのが精神的にも余程楽だと気付いた。


「せ、先生、お強いですね…!」

「一応実技も任されている手前ですからね」


 これで負けてしまっては教師としての面目が丸潰れどころか、俺を推薦したフュリンに迷惑を掛ける事になる。まだ暫くは動けないと言っていた為、俺もこの教師仕事に慣れる必要がある。


 わいわい、と盛り上がる生徒達に囲まれ、わちゃわちゃと揉みくちゃにされながら、俺は空を見上げて、小さく溜息をつくのだった。


 ◇◆◇


 次の日の実技の授業、俺がお灸を据えたと言えなくもない数名の生徒は、無事授業に参加してくれた。もしかしたら更に反抗的になるかもしれないと踏んでいたが、”学園の誇り”があるらしく、しっかりと参加し、教えを乞うてくれた。


 実技、遺物の授業共に良好で、受け持った授業の中では寧ろ一番得意だと思っていた迷宮分野が苦戦しているくらいだ。

 実際の迷宮内部の話をしたらうけるだろうと、経験を交えて話をしたら、気分が悪くなって退出してしまう生徒が続出し、正直困っている。どこが悪かったのだろうか。


「なんでか分かる?」

「まぁ、普通に『他の探索者から聞いた話』とか言って話し出した内容が色々悍ましいのが多すぎる気がしますね」

「先生、見た目私らより小さいのにそんなこと言うからなんか混乱するんですよ」

「当たり前のように話さないで欲しい」


 最後まで残ってくれた生徒たちに聞くと、そんな意見が出た。

 しかし、折角迷宮に潜った経験があるのだから、少しでも迷宮の中について知ってもらいたい。少しでも知っていれば生存率が高まる迷宮は幾つもあるし、知っていて損はない筈だ。


 ノノにもこういう話をしたことはあるが、奴はキラキラと目を輝かせてくれていた。


「多分、その子がおかしいんですよ」

「ライ先の口から衝撃的(グロテスク)な事聞きたくないわ」

「俺は好きした」


 俺の担当する授業全てに出席するようになった、実技の授業でコテンパンにした生徒は俺の授業形態を肯定する。

 難しい、均衡(バランス)が難しい…。生徒の気分が悪くならない範囲の迷宮話ってどこまでなんだ…?


 うーむ、と唸り、ふと魔法棟のノノの事を考える。

 きっと、あいつも俺と同じくらい苦労しているのだろう。桃色の髪をした無表情人間の姿を思い浮かべ、俺は窓の外に見える魔法棟を見た。

【Tips】ルビラ学園

又の名を学園ルビラ。

低級・中級・上級学年に別れており、一定の数授業に出席し、優秀な成績を収めると階級が上がる。

平均して、

低級 1~2年

中級 1~3年

上級 2~3年程掛かる。成長速度や成績によってまちまち。

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