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回り廻る迷宮潜り  作者: どうしようもないと言ったらどうなるのか
Act.2『学都騒乱』
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お誘い

 

「お腹すいた」


 うだうだとノノが俺の肩にしなだれかかる。

 そのくらい我慢しろ、と言いかけるが確かに今日はまだ碌に食べていないし、胃袋の許容領域(キャパ)が壊れているノノなら仕方がないと言えるのかもしれない。


 仕方ねぇ、と適当に安くて量の多そうな店を探す。

 そうでもしないとノノの食欲で金はいずれ底をついてしまう。少しでも節約、涙ぐましい努力が未来に繋がると信じるのだ。

 暫く腹が鳴り続けるノノに我慢を強いて、店を探す。すると、奈落都市にあった芽吹き亭と似た様な雰囲気を持った店を発見する。


 丁度いい、と俺とノノはそこに入り、適当な椅子に座る。

 ノノが大量に注文をした後で、俺は学都ルビラでのこれからについて簡単にノノに説明をする。


「いいか、ノノ。学都ルビラは金さえ払えば部外者でも様々な授業を受けられる」


 ルビラの学園は大きく分けて二つ、部外者が授業を受けられる棟と学園在校生が授業を受ける棟に別れている。

 部外者棟はその一つだけだが、在校生の棟は更にそこから幾つかの区分、学生棟に分けられる。

 ノノは俺の説明にうーん、と小首を傾げる。

 まぁ、最後に全部要約して説明してやる、と告げると安心した様に奴は頷いた。


「説明を続けると…」


 俺達は部外者だ。

 その為、金を払って授業を受ける場合は”部外者棟”での受講となる。

 今回、学都ルビラに来た最も大きな理由はその授業を受ける為だ。


「んでもってノノ、お前魔法系統の授業受けろ」


 俺は文字や簡単な学問こそ教えられど、魔法は使えない為、それらには精通していない。

 知識としては知っているものの、発動までの手助けはできないのだ。ノノには、ここで自分の治癒魔法についての自覚をしてもらいたい。


 学都ルビラの授業費用は高いが、幸いにもシルから貰った金を全部合わせればかなり長期的な授業を受けられる程度はある。


 ――ノノがいつまでも俺といるのは間違いだ。奴がそれを望んでも、俺はそれを望まない。さっさと独り立ちさせるべきだ。


「受けたくない」


 …まぁ、そう言うと分かっていた。

 だが、これは必須だ。お前が強くなるためには魔法の知識は必須だ。俺でも教えきれない部分を学都は提供してくれる。これはお前にとって必要不可欠な道筋だ。


「ぐぅ」


 ――ノノは我儘を言うが、物分かりが悪い訳ではない。

 理論立てて説明すれば、しっかりと理解してくれる。それだけでなんと有難い事だろう。前の世界の仲間は、基本的に頭の螺子が飛んだ馬鹿が多かった。


 テーブルに届き始めた料理に瞳を輝かせるノノを前に、俺はこほんと背筋を正し、


「いいか、ノノ。つまり、”お前は金を払って部外者棟で魔法授業を暫くの間受ける”。ただそれだけだ」


 要約するとなんと簡単な事か。

 文字などはどうにでもなるし、治癒の魔法さえ覚えれば俺はノノと離れても何の問題も無い。いつまでも小石(おれ)に躓いているノノじゃない。


 うんうん、と頷いていると、


「でも、ライ君はその間どうするの?」


 ノノは、口に詰め込んだ食べ物をごくりと喉に通してそう聞いた。

 確かに、と言えなくもない。俺も一緒に魔法の授業を受けてもいいが、そうすると流石に金回りがきつくなる。一番安泰なのは学都内の迷宮協会で適当な依頼を見つけて…――、



 頭を捻り、色々と思案していると突如数人の団体が店に入ってきて、俺達以外のテーブルの客に何かを握らせ、そのまま店の外に退出させていく。



 ――おいおい…こりゃどういう事だよ…!

 俺は直ぐにノノの手を引いて、その場から逃げ出そうとする。しかし、そうはさせまいと数人が俺とノノを囲む様に阻む。


「大丈夫です、危害は加えません。座って頂けますか」


 がらんと人っ子一人…店主の姿すら見えなくなったその場所で、一人の少年が俺とノノの前に出た。

 ノノはすとんと先まで座っていた椅子に腰を下ろし、再び料理を口に運び始める。俺は、溜息をついてナイフを腰から抜くと、それを右手に握り締めるのを見せつけながら座る。


「ご協力ありがとうございます」


 その少年…と言っても俺よりも五、六歳は年上そうな彼が、こちらに頭を下げる。

 協力と言っても、そっちが一方的に協力的にさせてんだろうが…。しかし、下手に喋って情報を得られるのも面倒臭い。ここは相手の動きを待ってからどうするかを考えるべきだ。


 ちらと周りを見ると俺達を囲んでいるのは、全員が俺達と近しい年齢かつ似通った()()のようなものを着ていた。そう、つまりこいつらは――、


「厚かましい事この上ないと承知していますが、




 ――お願いします!”奈落の英雄”――!我らを救って欲しいのです!」




 ルビラ学園の学生共……!


 面倒臭い事になる予感がプンプンする…!

 ”救って欲しい”?”奈落の英雄”?どういう話が巡ってそういう事になるんだ。話しの要領をうまく得れない。


「…まずはせめて名乗ってくれねぇか?」


 ルビラ学園の学生である事には間違いない。

 だが、それでも情報の確認の為に擦り合わせからだ。視界の端で未だに料理を口に運び続けているノノを横目にそう言うと、少年は焦った様に頭を下げた。


「…!申し訳ない。僕はルイド、ルビラ学園上級学年で副会長を務めています」

「そうか、ルイドさん。――それで俺達に何の用か、もう一度言ってみて欲しい」


「…”奈落の英雄”であらせられる貴方達に手を貸して欲しいのです…!」

「…その、ならく?の英雄って奴は人違いなんじゃないのか」


 しらを切れるのが理想だ。

 こんなにもあからさまな厄介事、引き受ける方が厳しい。それに、こいつらが”英雄”と言う単語を知っているという事は、多少なり奈落都市から噂としてでも俺達の事が漏れ出ているという事だ。


「いえ…、学都ルビラに入国した際からずっと見張らせて頂きましたが、外見から喋り方、関係性までお二方はかの”奈落の英雄”の特徴と一致しています」


 ――厄介だ。

 想像以上に広まっている。しかもその足が速い。

 このままでは例え学都から離れたとしてもずっと顔を隠したりしていかなくてはならない。それは流石に消耗する。


「にしても我らを救うって…あんたたちは俺達に何をして欲しいんだよ」

「それを知って貰う為に一度お越し頂けませんか」


 ――あぁ、嫌な予感がする。

 聞き方を間違えた。そして、俺達はついて行くしかない。

 想像以上に広まった俺とノノの存在――。そして、それを知っている相手。下手に断ってそれらをそこら中に流布されては溜まったものではない。



「――我らが園、”ルビラ学園”へ!」


 あぁ、行くよ。行けばいいんだろ。

 どうせ、断ってもあの手この手で連れていかれるんなら、自分の足で歩くさ。

「ぷはっ」とスープを飲み干したノノを尻目に見て、俺はその能天気さを羨ましく感じるのだった。


 ◇◆◇


「貴方方には、我らが生徒会長に会って頂きたいのです」


「せいとかいちょう…?」

「学生の中で一番偉い奴的な感じだ」


 ルビラ学園に入ると、奇妙なものを見る視線がこちらに頻繁に送られてくる。

 しかし、そりゃそうだ。

 俺達は部外者にも拘らず部外者棟ではなく学生棟、しかも副会長含む数名と共に歩いているのだ。そりゃ注目の的にもなる。


「ルビラ学園は素晴らしい場所です。魔法を習え、学問を習え、身体の動かし方から武術まで、多くの事を学べます」


 前を歩くルイド副会長が説明する様にそう呟く。


「ですが、そこに多くの影が落としこまれているのもまた事実なのです」


 ぎゅうと彼の拳が強く握られる。

 話の要領を得ない。だが、どうやらこの学園は何らかの秘密があるらしい。


「我らは生徒会長に従うのみ。あとは貴方方の耳で、生徒会長からお話をお聞き頂きたい」


 学園内に入り、棟の階段を上った先にある両扉。

 副会長はその前で立ち止まり、俺とノノに順番に視線を移した。そして、ルイドが手の甲で扉を叩き、


「ルイドです。客人を連れて参りました」


 がちゃり、とルイドが扉を開き、俺とノノを中へと促す。

 俺が本当に入っていいものか、と思案しているとその横をするりと抜け、ノノが中へと入っていった。俺もそれについて行くように後を追う。


 両扉の奥は広い部屋だった。

 応接室も兼ねているのか豪華な家具などが並び、一番奥には書斎机があった。

 そして、その奥の椅子付近に―――、



「よく来てくれたの、”奈落の英雄”。とりあえずゆっくりしていくのじゃ」


 ふわふわと宙に浮いた、()()()()赤ん坊が俺達に向かってそう言った――。

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