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回り廻る迷宮潜り  作者: どうしようもないと言ったらどうなるのか
Act.1『いつか何かになる者よ』
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運命を懸けた場所

 

「――おい、()()!起きろって!」


「ぁ、ぁあ…?」


 瞳に光が差し込む。

 突然耳に響いた誰かの幼い声と、背中に伝わる固い感触が少年の意識を覚醒に促した。


 右手で光を遮りながら、身体を起こす。あー、痛てて…なんだ?死に損なったか…?俺は確かに腹を綺麗に斬られて死んだと思ったが…。

 そう思い出しながら、しょぼしょぼと中々開かない目で自分の腹を見る。


「…傷がねぇ」


 と、言うよりも…


「なんか縮んでねぇか…?」


「何言ってんだよ、気でも狂っちゃったのか!?」


 あぁそう言えば、と目が覚めた瞬間から耳元でうるさい声が聞こえていたなと俺はその声の主の方へと首を向けた。そこには、真っ赤な髪をした小さな少年が俺を不満げに見つめていた。


「…ガガール…?」


「…?おう、なんだよ、変な顔しやがって」


 ―――それは、そのどこにいても目立つであろう赤い髪を携えた少年を、俺は知っていた。


 ガガール。

 その立ち振る舞いには自信と勇気が溢れていて、声が大きくて、誰よりも武器の扱いが上手くて、大人もこいつにだけは下手な手出しはしなかった。

 そんな、そんな…遥か過去に死んだ、一人の少年――。


「お、お前…なんで生きて…?いや、こりゃ俺の走馬灯か?」


「ライ!まじで壊れちゃったのか!?今日は鍛冶屋のおっちゃんがいらねぇナイフとか分けてくれるって話だろ?」


「あ、あぁ。そう、だったな」


「さっさと行こう!他のスラムの子供たちにも分けるって言ってた!大人にぶんどられたら溜まったものじゃない」


 ガガールが、俺の腕を取り無理矢理に立たせる。

 そして、裏路地をするすると走り抜け、こちらに向かって手招きをした。俺は、それに従う様にガガールの後を追った。


 ……これは、本当に走馬灯か?

 俺は、心の中でそう呟いた。余りにもリアルすぎる。手も、足も、声も、全てが幼い。八、九歳くらいだ。意識の混濁も見られない。俺の名前は確かに”ライ”だし、小さい頃はスラム街でガガールや他の奴らと一緒に生きていた。走馬灯はよく分からねぇが、夢にしては色々とはっきりしすぎている。


「そういえば、あの時何か聞こえたな…」


 血がどぼどぼと腹から零れ、「死んだ」と確信した時、せめて最後くらいと偶然見つけた天秤の形をした遺物に触れた。その時、確かに聞こえたのだ。



『――お前は、何を懸け、何を望む?』と。



 なんて答えたかは覚えていない。

 しかし、この現状はあまりにも、非現実染みていて…。そう、まるで時が戻った様な。もう一度、”ライ”としての人生を歩ませてくれるような…。


「おーい!遅いぞ!ライ!」


 少し遠くで、真っ赤な髪を揺らしながら手を振っているガガールを視界に入れながら、俺はそう考えていた。


 ◇◆◇


「おう、ガキ共。お前らの目当てはそこの木箱の中だ。錆びてるし、刃毀れもあるが一応は使える。儂に感謝して持ってきな」


 小さな背丈に、剛毛な髭。

 種族的なそれでいえば、”ドワーフ”だ。気質的なものでもあるのかドワーフは基本的に良い奴が多く、その逆にエルフは森に引きこもりがちなせいで世間を知らず、高慢な奴が大半だ。


「ありがとう!おっちゃん!」


「まぁ、ガキ共も自衛手段くらい持ってねぇと搾取されるだけだろうからな。街の連中には言うなよ。他の奴にも言っとけ」


「分かってるよ!」


「…おい、ライ。てめぇ元気がねぇな?いつもの減らず口はどうした?」


「…ぁ、あぁ。ちょっとな。ありがとうよ、おっちゃん」


「ふん!」


 鍛冶師のおっちゃんが鼻息を立てる。

 …ずっと昔の記憶のままだ。俺は、本当に過去に戻ってきたのかもしれない。もう一度、生きられるのかもしれない。


 これが、死ぬ直前に見ている泡沫の夢の可能性は捨てきれない。

 だが、最早そんな事を考えても仕方がない。それこそ、俺がどうしようもできないことだ。それならば、やり直してやる。


 クソみたいだった人生を、もう少しマシなものへと変えてやるさ。それが、今俺がやるべきことだ。


 木箱から刃毀れしたナイフを取り、それを服の中に隠す。

 ガガールも、俺の横で同じようにズボンの中に武器を入れた。大人に見つかって取られちゃ溜まったものではない。


 今の俺は只のスラムによくいるガキだ。

 有用な遺物も、身体強化系の遺失烙印(スタンプ)もない。力も名声もない以上、こそこそとそれこそ鼠の様に生きていかなくてはならない。


「俺、他の奴らにも伝えてくるからさ」


 ガガールはそう言って、俺からそそくさと離れる様にいなくなった。

 しかし、俺はそれを気にしていられる程、周りが見えていなかった。今生を少しでも良くするためにやらなければならないことが多すぎるのだ。


 空を見上げると、巨大な塔が立っているのが見える。

 俺はそちらに向かって、早足で駆け始めた。俺が幼い頃過ごしたこの街は中心に塔型の迷宮が鎮座しており、それを攻略しようとする探索者共を相手に商売が成り立っていた。


 迷宮と言っても、ド田舎の小規模迷宮だから大した難易度じゃねぇ。

 だからこそ、昔の俺はこの迷宮に()()()()()()()()()。スラムのガキが、手っ取り早く人間らしい生活を送るには、迷宮に潜って戦果を挙げるか、遺物を手に入れる以外に道はない。


 ドン、と薄汚れた外套を羽織った誰かに当たる。俺は謝罪を述べながら、そのまま走り去る。今はそんな事を気にしていられる程、余裕がない。


 この世界は、どうしようもなく力と遺物で回っている。

 たかが刃毀れしたナイフ一本で奥へ進み続けられる程、迷宮は甘くない。だが、()()()()()()()()()()()話は別だ。


 街の連中の、嫌なものを見るような視線が俺の身体を突き刺す。

 スラムのガキがその身一つで迷宮の前に立っているのだ。そりゃそうなる。ここにいる誰もが俺を止めないし、寧ろさっさと行けと思っているだろう。貧しさを知らない連中は「街を汚すスラムのガキがこれで一人減る」、そんな考えをするもんだ。


 俺はそれに従ってやるように、ちらほら入っていく探索者を追い抜いて迷宮の入り口に飛び込んだ。

【Tips】遺物とは

迷宮の中で発見される、人の手によって造る事が叶わない人智を超えた物品の総称。

実際、それが何なのかは分かっていない。迷宮の意志によって生み出されたものなのか…遥か過去の消失技術によって生み出され、今に至るまで存在するのか…謎は深まるばかり。

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