表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

変態が教師になってどうすんの!?

作者: 大盛り

ここは都内の某高校。

放課後の漫画研究同好会の部室である。

教師の変田態造は机に突っ伏してぐっすりと眠っていた。

そこに漫画研究同好会の部員、芽賀寧助が入ってくる。



変田:ぐー……ぐー……。


芽賀:まぁた寝てるよ……。部室を休憩室か何かと勘違いしてるんだよな……。


変田:ぐー……ぐー……。


芽賀:ちょっと変田先生!起きてください!


変田:うーん……むにゃむにゃ……。


芽賀:おーい!起きてくださいって!



芽賀は変田を起こそうと身体をゆすった。



芽賀:変田先生!!!


変田:むにゃむにゃ……どうだ……これが本当の……快楽だ……むにゃむにゃ……。


芽賀:はぁ……面倒臭いけど……この起こし方するしかないのか……。起きてください!変態先生!



『変態先生』という言葉を聞き、変田は飛び起きた。



変田:うおぉい!!!俺をその名前で呼ぶなぁああ!!!


芽賀:おはようございます、変田先生。


変田:おい、芽賀!今、お前は俺のことを変態と呼んだな!?


芽賀:変田態造。略したら変態になるじゃないですか。


変田:だからってそう呼んでいい理由にはなるか!?あぁ!?


芽賀:いや……それは違いますけど……。


変田:二度と俺のことを変態と呼ぶな!


芽賀:別にいいじゃないですか……。


変田:ダメだ!万が一俺が本当に変態だということがバレたらどうする!?


芽賀:変態って呼ばれてるから「この人変態なのかな?」とはならないでしょ!


変田:火のない所に煙は立たないからな……。少しでも可能性は潰しておきたい……。


芽賀:はぁ……そんなもんなんですかねぇ……。


変田:俺、変田態造には夢がある!


芽賀:またその話ですか……。


変田:その夢とは!生徒に「わいせつな行為」をすることだぁ!


芽賀:……。相変わらず無茶苦茶な夢だ……。そもそも夢と言っていいのか……。


変田:この夢の為に、来る日も来る日も!寝る間を惜しんで!苦い汁をすすって!苦手な勉強に打ち込み、教員免許を取得した!生徒にわいせつな行為をするまでは、このことは隠さなければならない!


芽賀:こんな人が教師やってるんだから世の中終わってるよな……。何でまだ教師続けられてるんだよ……。


変田:それはバレていないからだ。どんな場面でも平常心でいられるように訓練し、一生懸命好感度を上げ、いい兄貴分的なキャラであり続けた!


芽賀:そうなんだよなぁ……。だからこんな人だとは思わなかったです……。


変田:思われてちゃ困るんだよ。誰にもバレないように努力してるんだから。


芽賀:そんなこと言いながら、僕にはバレましたけどね。


変田:ああ、でもお前にバレてるのは問題ない。何故ならお前のこと、俺はよぉくわかっているもんな?


芽賀:そ、それはぁ……。


変田:ここ漫画研究同好会、通称漫研は幽霊部員だらけで、活動しているのは実質芽賀だけだ。


芽賀:そ、そうですねぇ……。


変田:実質一人の同好会なのに部活動費はしっかり分配されてるんだよなぁ……。


芽賀:そ、そうですねぇ……。


変田:その部活動費ってどうなってるのかなぁって気になるよねぇ……。


芽賀:ど、どうなってるんですかねぇ……。


変田:まぁこれはあり得ない話だとは思うんだけど、誰かが一人で使い込んでたら……これっていいことかなぁ?芽賀くぅん?


芽賀:わ、悪いこと……ですよねぇ……。


変田:先生次第なんだよなぁ。芽賀くんが今後どうなるか。


芽賀:せ、先生ぇ……。


変田:高校二年生でぇ。進路希望の時期でぇ。未来が決まると言っても過言ではないこの時期にぃ。悪いことする生徒なんていないよねぇ?


芽賀:うぅ……。


変田:芽賀、お前には夢があるだろ?


芽賀:はい……!僕の夢は漫画家になって大ヒット漫画を描くことです……!


変田:そうだよなぁ?その為に沢山沢山努力してきたんだよなぁ?


芽賀:そりゃあもう……!青春を投げ打ってひたすら漫画を描き続けてきました……!


変田:その努力も、夢も、こんなところで終わりにさせたくないよなぁ?


芽賀:終わらせられないです……!なので先生……僕を……僕を……!


変田:安心しろ、芽賀。俺はお前を守ってやる。


芽賀:先生……!


変田:その代わり!お前は俺の夢に協力しろ!


芽賀:も、もちろんです、先生!先生がしっかりと、濃厚に、夢のようなわいせつな行為ができるように僕はサポートします!


変田:よく言った!ありがとう芽賀!よろしく頼む!


芽賀:はい!頑張りましょう!先生!


変田:よぉし!絶対するぞ!わいせつな行為!


芽賀:おー!



その時、部室の扉が開き、真戸杏奈が顔を覗かせた。



真戸:変田せんせー、眼鏡くん、やほー。


変田・芽賀:うわああああああ!


変田:何だ!真戸!部室に入ってくるときはちゃんとノックしろ!


真戸:しないよ。職員室じゃないんだし。


変田:あ、そうか。しないよな。確かに。


真戸:今何の話してたの?わいせつ?みたいに?聞こえたけど。


変田:言ってない言ってない!なぁ!?芽賀!?


芽賀:そ、そう!あのー「大切」って言ってたかも!先生に漫画を描く上で大切なことを教えてたんだ!


真戸:あー、そうなんだ。


変田:そうそう!奥深いぞー、漫画は!


真戸:えー私も漫画描いてみよっかな。絵描くの好きだし。


変田:お!真戸、漫研入るか!?


真戸:もし入りたいって言ったら?


変田:そりゃもう大歓迎だよ!俺のわいせ……俺の目標のな……そういう……うん……!


真戸:目標?先生の目標って何なの?


変田:それは生徒にわいせ……せ、生徒の皆と仲良くなること……かな……。


真戸:それ漫研じゃなくてもできるじゃん。


変田:より深く仲良くなりたいんだよ!部活で一緒に青春すれば仲良くなれるだろ!


真戸:そっかー。変田せんせーは私と部活やって仲良くなりたいんだ。


変田:当たり前だ!俺は女子生徒とわいせ……いや、生徒全員と仲良くなりたいと思ってるからな。


芽賀:先生!さっきから一人で何やってるんですか!?


真戸:そっかそっか。ま、入部に関しては受験勉強もあるし、一旦保留にしといて。


変田:わかった。気が向いたら入ってくれよな。


芽賀:僕も真戸さんが漫研に入ってくれたら超嬉しいよ!


真戸:ありがと、眼鏡くん。


変田:あ、それで俺に何か用か?


真戸:あ、そうだった!進路希望の紙持ってきたよ。


変田:ああ、そういや何人か提出してない奴がいたな。


真戸:提出遅れちゃってごめんね。第一志望と、第二志望決めかねちゃって。はい。



真戸は書き上げた進路希望調査票を変田に手渡した。



変田:ああ、サンキューな。真戸は……私立のW大学か国立のI大学かで迷ったんだな。


真戸:そうなの。私立は両親に負担掛けるし……でも興味がある事はW大学でしかできなくて……。


変田:そうか。それで考えた結果、第一志望はI大学にしたのか?


真戸:そう。一応、これでお願いします。


変田:わかった。まぁまだ進路の変更はできるから、ギリギリまで悩んだらいい。親御さんともちゃんと話してな。


真戸:うん。ありがとう。じゃあ帰るね!


変田:おう。気を付けて帰れよ。


真戸:はーい。


芽賀:真戸さん、お疲れ様!


真戸:うん。またね、眼鏡くん。



そう言って真戸は部室を後にした。



芽賀:「またね、眼鏡くん」だって……!可愛いなぁ、真戸さんは……!


変田:……してぇ……。


芽賀:ん?何ですか?先生?


変田:してぇーーー。真戸にわいせつな行為してぇーーー。


芽賀:あぁ、そうだ!最低だった!この人、最低の教師だった!


変田:容姿端麗!成績優秀!両親のことを思いやれる性格の良さ!まさにこの高校のヒロイン!そんな真戸に……同人誌みたいなことをしたい……!あぁ、神様。そんな俺を許してください!


芽賀:許すわけないでしょ。神様舐めない方がいいですよ。


変田:あーーー今一番!わいせつしてぇーーー!


芽賀:ん?ちょっと待って?今一番?生徒なら誰でもいいんじゃないんですか?


変田:お前、普通に考えて誰でもよくはないだろ。


芽賀:いや、もう先生には普通が通用しないですから。


変田:可愛ければ可愛いほどいいに決まってる!真戸は学校一の美少女!わいせつな行為を行うにはうってつけなんだ!


芽賀:それって可愛ければ誰でもいいってことじゃないんですか!?


変田:いや、誰でもよくはない!


芽賀:はぁ……可愛い以外に他に何か条件があるんですか?


変田:両想い……。


芽賀:は?


変田:俺はな……両想いになってからわいせつな行為がしたい!だから俺と両想いになれる女子生徒がいい!


芽賀:うわー!気持ち悪いし、めんどくせぇー!


変田:両想いにならずにわいせつな行為をする方法はいくらでもある。でも両想いの生徒に!したいから教師になったんだ!


芽賀:最低の志望動機だな。


変田:いいか?俺は捕まるのは怖くない。わかるか?


芽賀:わかりませんよ。その捕まるのが怖くないって、無敵の人過ぎて怖いんだよな……。


変田:可愛い女子生徒と両想いになりたい!だから学校一可愛い真戸に漫研に入ってほしい……。真戸と両想いになりたい……!


芽賀:キショい発言!それは難しいと思いますけどねぇ……。


変田:芽賀くんは部活動費をちゃーんと使える人だから、きっと俺に協力してくれるよねぇ?


芽賀:も、もちろんです、先生!


変田:よーし、そうと決まれば真戸と両想いになってわいせつな行為だ!


芽賀:おー!



その時、またも部室の扉が開き、野村球児が入ってきた。



野村:変田先生、いるー?


変田・芽賀:うわああああああ!


変田:何だ!野村!部室に入ってくる時はちゃんとノックしろ!


野村:いや、しないよ。職員室かよ。


変田:あ、そうか。しないよな。確かに。


野村:ていうか、今何か言ってなかった?わいせつ?みたいな?


変田:言ってない言ってない!なぁ!?芽賀!?


芽賀:そ、そう!あのー「解説」って言ってたかも!先生に今描いてる漫画のシーンを解説してたんだ!


野村:あー、そうなんだ。


変田:そうそう!面白いぞー芽賀の漫画!


野村:へー。また今度その漫画読ませてよ。


芽賀:か、描き上がったらね……。


変田:そ、それで俺に何か用か?


野村:ああ、進路希望の紙持ってきた。提出今日までだっただろ?


変田:あー!はいはい、受け取るわ。


野村:はい。



野村は進路希望調査票を変田に手渡した。



変田:サンキューな。……ん?……野村、お前野球はもうやらないのか?


野村:あー……それね……。


芽賀:え!?野球やらないの!?野村くん、プロのスカウトが見に来るくらい上手いのに!?


野村:プロのスカウトは色んなとこに見に行ってんの!その中で俺が選ばれることは、ないない!


変田:プロじゃないにしたって、大学でも野球はできるだろ。


野村:いやー……何ていうか……野球は高校まででいいかなーって……。


変田:何でだ?


野村:え……何でって……!それは……。あのさ……実は……!あ、いや……。野球ってさ、しんどいだけだしさ!大学入ったら軽音とかやろうかなって!俺音楽好きだし!


芽賀:そうなんだ……。でも意外だなぁ……。野村くんは何よりも野球が好きなんだと思ってた……。


変田:そうだよな。野村は野球が上手いだけじゃなくて、好きだから意外だったんだよ。この進路希望。


野村:はは……俺も色々あるんだよ……。



野村が乾いた笑いを返したと同時に部室の扉が開き、間根路綾子が入ってきた。



間根路:失礼します。


変田:え!?礼儀正しい!


芽賀:あ、間根路さん。


間根路:ここにいたんだ……。


野村:間根路……。


間根路:野村くん、何で練習来ないの?


変田:え?


野村:いやー……何かお腹痛くてさー……。


間根路:2週間ずっとお腹痛いの?


野村:……色々立て込んでんの、俺も……。


間根路:野球から逃げてるのって、立て込んでるとも言えるんだ。


野村:あのな……。


変田:おい、どうした?何の話だ?


芽賀:先生、ここは黙って聞いた方が……。


変田:あ、ああ……。


間根路:今の野村くん野球から逃げてるだけじゃん。この間、試合で打ち込まれたのがそんなにショックだった?


野村:そうだなー……俺ピッチャー向いてないのかもなー……。


間根路:そんなことくらいで練習来なくなるんだ?


野村:そんなことって……。


間根路:野村くんのこと期待している人いっぱいいるよ!


野村:……。


間根路:野村くんの為に動いてる人だっていっぱいいる!


野村:……。


間根路:わかってるの!?


野村:……。わかってるよ……。


間根路:じゃあ練習来てよ!今からでもいいから!一緒に行こう!?



間根路は野村の右腕をやや強めに掴んだ。



野村:痛っ!やめろよ!腕掴むな!


間根路:私忘れてないよ!野球部を甲子園に連れて行ってくれるって言ったの、嘘だったの!?


野村:やめろよ……!


間根路:本気にしてたの私だけだったの!?


野村:だからやめろって……!


間根路:嘘だったら最初から期待なんてさせないでよ!


野村:やめろって!!!俺のこと何も知らないくせに!!!



そう怒鳴って野村は間根路の腕を乱暴に振り払った。



間根路:あ……。


変田:……。


芽賀:……。


野村:期待されてるのだって知ってるし、甲子園連れて行くって言ったのも覚えてるよ……。


変田:野村……何があった……?よければ俺に話して……


野村:そういうのやめてくんないかな。うぜぇし。


変田:……。


野村:……ごめん。俺、帰るわ……。ごめん……。



そうぼそっと呟き野村は部室を後にした。



変田:……。


芽賀:……。


間根路:……。


変田:いや……まぁ、野村もな、色々あるだろうし……。


芽賀:そ、そうですよね……!


変田:こうなったのにも何か理由がな……。


芽賀:そうそう、理由があるでしょうしね……。


間根路:うっ……うわぁぁぁぁん!!!


変田:お、おい、間根路、大丈夫か!?


芽賀:あわわわわ……!


間根路:私……野村くんに嫌われちゃったのかなぁ……!!!だとしたら……私……うわぁぁぁぁん!!!


変田:大丈夫だって!な?いや、大丈夫かどうかはわからないけど!


芽賀:そうだよ!話せばきっとわかるよ!きっと多分おそらく!


変田:まずは何があったか俺に話してみろ?


間根路:ありがとうございます……。


変田:ああ……。


間根路:2週間前に他校との練習試合があったんです。その時に野村くん滅多打ちにされて、それから練習に来なくなっちゃったんです。


変田:あの野村でもそんなことがあるんだな……。


間根路:このままじゃダメだなって思って、勇気を出して連れ戻しに来たんです……。そしたら感情的になって、こんなことになっちゃって……!うぇぇええん!


変田:ああっ!大丈夫!大丈夫だから!野村にだって何か理由があるんだよ!


芽賀:そうだよ!もしそうなら話し合いの余地があるよ!


間根路:……。もし理由がありそうなら……先生聞き出してもらえませんか……?


変田:え……?あー……わ、わかった……。じゃあ次野村と話す時にそれとなーく聞いておくから……。


間根路:私、チームの皆で甲子園に行きたいんです。


変田:お、おう……。


間根路:野村くん、チームを甲子園に連れて行くって言ってくれたんです。それから野村くん、二年生なのに誰よりも早くグランドに来て、誰よりも遅く帰って。授業中はつまらなそうな顔してるんですけど、ボール投げる時はいつも真剣な顔なんです。その顔見てたら私どんなことも頑張れて、ハードなマネージャー業務も野村くんのお弁当作るのだって……。


芽賀:食事の管理まで……すごい……!


間根路:野村くんと甲子園に行くの、私の夢なんです。


変田:……。そうか。わかった。野村の話は俺が聞いとく。


芽賀:僕もサポートします!


間根路:ありがとうございます。じゃあ指切りしてください。


変田:へ?何で?


間根路:野球部の伝統なんです。約束する時は指切りするって。


変田:そうなんだ……。



間根路は変田の小指と自身の小指を結んだ。



間根路:うーそついたらはーり千本飲ーます、指切った。はい、これで約束しましたから。


変田:あ、あぁ……。


間根路:ちゃんと守ってくださいね、変田先生。


変田:わかった。じゃあとりあえず部活に戻りなさい。野村に話聞いておくから。


間根路:はい。よろしくお願いします。



間根路は深々と頭を下げて部室から出ていった。



芽賀:いやー……しかし困ったことになりましたね……。


変田:ああ、困ったことになったな。まさか間根路があんなに可愛いとはな……。


芽賀:んん!?何の話ですか!?


変田:指切りの破壊力エグかったな。正直、今まであまりマークしていなかったんだが、急にわいせつランキングの上位に食い込んできた。


芽賀:わいせつランキング!?何その最低のランキング!?


変田:困った。ダークホースってやつだ。


芽賀:ていうか、今の会話しながらそんなこと考えてたんですか!?最低!クズ!ゴミ虫野郎!


変田:何とでも言え。俺の最終目標は生徒とのわいせつな行為だ。


芽賀:適当に話しを流して!間根路さんが可哀想すぎる!


変田:いや、ちゃんと野村と話はするよ。


芽賀:あ、それはするんだ!よかった……。


変田:野村が野球再開したら俺のおかげだってことで、間根路の好感度アップに繋がるだろ!


芽賀:あぁ……この人はどこまでも最低だ……。って、真戸さん狙いじゃなかったんですか!?


変田:ギャルゲーも一気に数人のキャラを攻略するだろ……。


芽賀:ギャルゲー!?


変田:真戸を攻略しながら、間根路も攻略する!


芽賀:攻略って言わないでください!


変田:ってことで、野村追いかけてくるわ。


芽賀:あ、ちょっと!


変田:お前は漫画でも描いてゆっくり待ってろ。



そう言うと変田は駆け足で野村を追いかけた。



芽賀:行っちゃったよ……。はぁ……まぁいいか。読み切り漫画の続き描こう。



芽賀は途中まで描いていた漫画の読み切りの続きを描き始めた。



芽賀:……。お、これ、なかなかいい線が描けてるんじゃないかー?この調子この調子!



部室の扉が開き、真戸が顔を覗かせる。



真戸:眼鏡くーん。何してんのっ?


芽賀:あれ!?ま、真戸さん!?帰ったんじゃなかったの?


真戸:忘れ物しちゃって帰って来たの。


芽賀:あ、あぁ……そうなんだ……。


真戸:何してるの?漫画?


芽賀:あ、ああ。出版社に送る用の読み切り描いてるんだ。


真戸:えーすごい!ちょっと見せてほしいなー。


芽賀:うん、いいよ……。


真戸:どれどれー?



真戸は芽賀との距離を縮めた。

その距離は顔と顔が触れ合う直前の距離だ。



真戸:わぁ……。すごーい。めちゃくちゃ絵上手だねー。


芽賀:ありがとう……。


真戸:やっぱり将来の夢は漫画家さん?


芽賀:うん……漫画家になっ大ヒット漫画を描くのが夢なんだ……。


真戸:……。いい夢だね……。


芽賀:ありがとう……ていうか、真戸さん……。


真戸:んー?


芽賀:あの……ちょっと距離が近すぎるのかなー……なーんて……。


真戸:そっか……。


芽賀:う、うん……。


真戸:嫌……?


芽賀:嫌ではないというか……。


真戸:眼鏡くんは私ともっと近づきたい?


芽賀:え!?あの……それはどういう……!?



真戸は狼狽える芽賀の右手の上に自身の右手を重ねる。



芽賀:ひぁっ!?


真戸:わぁ、眼鏡くんの手、冷たーい。


芽賀:あわわわわ!!!


真戸:ん?これはマメ?


芽賀:あ、ああ!!!ペンだこね!!!ず、ずっとペン握ってるからできちゃうんだ!!!


真戸:そうなんだ。それだけ眼鏡くん頑張ってるんだね。


芽賀:ま、まぁね!!!


真戸:ねぇ、眼鏡くん。


芽賀:な、なに!?


真戸:私の手も、触ってみる?


芽賀:がっ……!!!はわっ……!!!あの!!!ちょ、ちょっと、と、トイレ行ってくるね!!!


真戸:あっ、眼鏡くん!



頭のネジが吹っ飛んだ芽賀は部室からダッシュで出ていった。



真戸:ふぅ……。……ふふふ……アーッハッハッハ!私、真戸安奈には夢がある!それは日本中で誰もが知る大女優になること!その為にいい大学に入って、名誉あるミスコンで優勝して、事務所にスカウトされて、華々しいデビューを飾る!だから私はこの高校では伝説のヒロインになる必要がある!現在、学校内には私のファンクラブがあり、多数の会員がいるけどそれじゃ足りない!伝説になるにはもっとファンが必要なの!だから男子生徒はオトして、オトして、オトし尽くす!この地道な作業が未来の私の礎となる!ふぅ……眼鏡くんは完全にオチたわね……。相変わらず私の演技力には惚れ惚れするわ……。



部室の扉が開き、真戸の背筋がヒヤリとしたと同時に間根路が入ってくる。



間根路:真戸さん……?


真戸:え!?間根路ちゃん!?


間根路:私、ちょっと変田先生に用事があって……。


真戸:そうなんだねー……!い、いつからいたの……?


間根路:今来たばっかりだけど……。


真戸:そ、そっかぁー!よかったー!


間根路:よかった?何で?


真戸:いや、全然!こっちの話だから!


間根路:そっか……。でも意外だな。真戸さん、女優になりたいんだ。


真戸:あぁえ!?全部聞いてるじゃん!?


間根路:いや、だってすごい大きな声で独白してたから……。


真戸:そうよね!?私が悪いわよね!?でもつい独白しちゃうのー!キャパの広い劇場を想定してしまうのー!


間根路:そ、そうなんだ……。


真戸:……幻滅した?


間根路:えっ……?


真戸:私が可愛いキャラ作ってて、女優目指してて、その為に男オトしまくってるって聞いて、幻滅した?


間根路:幻滅っていうか……まぁこんな人だったんだって驚きはしたけど……。


真戸:そうだよね……。今まで私、可愛いキャラをキープし続けてたんだもん……。


間根路:何かごめんね……。


真戸:終わった……。全部終わった……。このことが知れ渡ったら私はもう……。


間根路:そ、そんな落ち込まないで……!


真戸:落ち込むよ……。大声で独白してた私を殴りたい……。もう終わりだ……。


間根路:終わらないって……!私、誰にも言わないから……!


真戸:……。え!?それマジ!?


間根路:ま、マジマジ。


真戸:でもめちゃくちゃ衝撃でしょ!?学校のマドンナが猫被ってて男オトしまくってるの!


間根路:そりゃあもう……。


真戸:そんな大ゴシップ言いたくてたまらないでしょ!?


間根路:いや……。


真戸:一生墓まで持っていけないでしょ!?


間根路:あー……うーん……。


真戸:ほら!無理っぽい!このこと言いふらして笑い者にしようと思ってるでしょ!?


間根路:いや……それは思ってない!そんなことは思ってないよ!


真戸:な、何でぇ!?私なら言いふらしちゃうよ!?


間根路:そんなことしない!だって夢って、笑っちゃいけないって思うから……。


真戸:え……。


間根路:私は将来の夢とかないからさ、余計に夢がある人尊敬するんだ。真戸さんは夢があって、それに向けて行動してるから、笑い者にしようだなんて思わないよ。


真戸:そっ……か……。


間根路:やり方はどうなのかなって思って、正直ちょっと引いたけど……。


真戸:あ、それは思ったんだ。


間根路:うん、それは思った。


真戸:ああ……そっか……。


間根路:でも、女優になるって夢は絶対笑わないから。


真戸:ありがとう……。


間根路:真戸さんはいつから女優になりたかったの?


真戸:あー……私は物心ついたときからずっと。テレビっ子だったしね。


間根路:そっかー、物心ついたときから夢が……。それってどんな気持ちなんだろう。夢があるとなんか充実してそう。


真戸:いいことばっかりじゃないよ。努力しなきゃっていうのがずーっと付きまとうし、ちゃんと実現できるかなって不安になるし。


間根路:……。それも含めて羨ましいかも。


真戸:そんなもんなのかなー。


間根路:うん。……あ!私、夢あった!あー……夢って言っていいのかわからないけど……。


真戸:え!?なになに!?教えてよ!


間根路:それは、野球部の皆で甲子園に行くこと。


真戸:……。


間根路:あー……やっぱ何か違った?


真戸:いいじゃん。超いい夢じゃん!


間根路:いや、でも将来の夢って感じじゃないし……。


真戸:ううん!それは立派な夢だよ!応援する!


間根路:あ、ありがとう……。でもね……。


真戸:どうしたの?


間根路:うちの野球部が甲子園に行くには、エースの野村くんの力が必要なんだよね。


真戸:確かにそれはそうだ。野村くん凄いもんね。


間根路:うん、そう。


真戸:その野村くんがどうかした?


間根路:野球やってくれないんだ……。何か理由があるとは思うけど……。


真戸:あの野球の為に生まれたみたいな人が?


間根路:そう……。だから変田先生に理由探ってみてってお願いしてて……。


真戸:そうだったんだ……。


間根路:うん……。ていうか……今野村くんと喧嘩みたいになっちゃてるんだよね……。


真戸:え!?何で!?


間根路:私が野球部に戻ってきてもらいたくてキツいこと言っちゃって……。私も野村くんと甲子園行きたいって本気で思ってるから、つい……。


真戸:本気になればなるほど、そういう軋轢あつれきも生まれちゃう……か。


間根路:私、今野村くんに会ったら絶対感情的になっちゃうよ……。


真戸:野村くんもう帰ったっぽいから今日は会わないだろうし!明日になったらちょっと冷静になれるって!


間根路:うん……。


真戸:大丈夫だって!元気出して!


間根路:ありがとう……。



そこに野村を追いかけに行った変田が帰ってきた。



変田:お、間根路!ちょうどいい所に!って何でいるんだ?


間根路:あ、変田先生!進路希望の紙出し忘れてたの思い出して……。


変田:ああ、お前も出してなかったのか。


間根路:はい、遅くなってすみません。お願いします。



間根路は進路希望調査票を変田に手渡した。



変田:はい、確かに受け取りましたっと。で、真戸……も帰ったんじゃなかったのか……?


真戸:いや、ちょっと忘れ物しちゃって……。はは……。


変田:そうか。まぁいいや。おい、入って来いよ。


野村:うっす……。



申し訳なさそうに野村が部室に入ってきた。



間根路:野村くん!?


真戸:えー!?マジか!?今!?


野村:おう……。


変田:じっくり話聞こうと思って連れて帰ってきた。ちょうど間根路いてよかったじゃん。ほら、野村謝っとけ。


野村:……。


変田:おい野村ー。意固地になるなって……。


真戸:せ、先生!今はちょっとタイミングが悪いかなーって……!


変田:え?どういうことだ?


野村:なぁ……間根路……。


間根路:何?


野村:あの……ごめんな……。


真戸:あぁ……!


間根路:……。野村くん何のこと謝ってる?


野村:え……?何のことって……さっき感情的になっちゃったこととか……。


間根路:そのことなら私怒ってないよ。


野村:え……?


間根路:もっと謝ってほしいことがあるんだけど。


野村:……それって……?


間根路:まずは理由教えてよ。野球やらなくなった理由。


野村:それは……いや、ごめん……。


間根路:理由も言わずに適当に謝らないでよ。


野村:……。


間根路:理由教えてよ。教えられないなら……もう私に話しかけないで。


真戸:間根路ちゃん、そんなに言わなくても……。


間根路:さっき真戸さんには話したじゃん。これはとっても大切なことなの。


真戸:それは……!そっか……そうだね……。


野村:……。


間根路:……。



長い沈黙。



変田:あの……俺……こんなつもりじゃなかったんだけど……。


野村:……。


間根路:……。



長い沈黙。



真戸:わ、私が邪魔してるみたいだったら帰ろうかー……?


野村:……。


間根路:……。



長い沈黙。



変田:あのー……な……えーっと……二人共な……。



部室の気まずい雰囲気などお構いなしに芽賀がすごい勢いで帰ってきた。



芽賀:真戸さぁん!ただいまー!指紋なくなるくらい手洗ってきた!さぁさっきの続きを……!って、何で皆いるんだよぉぉお!!!


真戸:あ……眼鏡くん……。今ちょっとそれどころじゃないっていうか……。


芽賀:どういうこと!?どうしてくれるんですか!?僕と真戸さんのめくるめくラブロマンスを!


野村:……。


間根路:……。



長い沈黙。



芽賀:……えー……?今これどういう時間……?


変田:芽賀。


芽賀:はい……。


変田:察せ。


芽賀:あっ……はい……。えー……?すみませんでした……。真戸さん、また後でね……!


真戸:あ、あははー……。


芽賀:それで……何の話ししてたんですか……?結構ガチな感じですよね……?


間根路:ねぇ……!野村くん!何で野球やらない理由教えてくれないの!?


芽賀:あっあっ!


野村:……。


間根路:そんなに私達のこと信用できない!?


野村:そういう訳じゃないんだよ……。


間根路:皆で甲子園行こうって約束のこともそうだけど……!何で一回失敗したくらいで大好きな野球諦めるの!?それが悲しいよ、私!


野村:……。



野村の目からぽつりぽつりと涙が流れる。



野村:うっ……うぅ……。


変田:野村……?


野村:失敗したからじゃないんだよ……。


間根路:……。


野村:投げられないんだよ……もう……。


間根路:え?


野村:俺ずっと肘痛くてさ……練習試合の時もすげぇ痛くて、ちゃんと投げられなくて……。その後、病院行ったらめちゃくちゃ悪いらしくて、手術しても元通り投げられないだろうって……。


間根路:そんな……。


野村:俺わかってるよ……。皆が俺の将来期待してくれてるのも、間根路が俺の野球してるとこ好きなのも……。それに答えなきゃって思って頑張ってきた……。でも今は頑張らなきゃって思えば思うほど苦しいんだよ……!だって俺もう……頑張ることもできないから……!


変田・芽賀・真戸:……。


間根路:そう……だったんだ……。


野村:だからもう俺に構うのやめてくんないかなー……。野球できない俺なんて価値ないし……。


芽賀:価値がないなんて、そんなことないよ……!


真戸:そうだよ!野球だけが野村くんの全てじゃないでしょ!?


野村:全てだよ。野球は俺の全てなんだよ。


全員:……。


野村:誰にも言ってなかったけどさ、俺本気でプロで活躍したかった……。本気で……本気で……。


間根路:あの……私は……野村くんが野球してるだけで……


野村:うるせぇよ!!!それができないっつってんだろ!!!


芽賀:あの、野村くん、ちょっと落ち着いて……!


野村:うるせぇよ!!!本気で夢持ったことない奴らにわかるかよ!!!この気持ちが!!!


間根路:野村……くん……。


真戸:は……?今めっちゃイラっとしたんだけど……。アンタ自分が不幸だったら何言ってもいいと思ってる?


芽賀:え?真戸さん?え?アンタ!?


真戸:自分だけが必死で頑張ってると思ってる?人に夢がない?本気で頑張ってない?アンタ自分のことばっかりで周りが何も見えてないよ!?


芽賀:真戸さん、気持ちはわかるけど落ち着いて!あと、キャラ違くない!?


真戸:間根路ちゃんだって本気で甲子園行きたいと思ってたんだよ!?だからアンタをずっと一生懸命サポートして、アンタが練習来なかった時に本気で怒ったんじゃん!何でわかんない!?


野村:……。


真戸:あと、本気で夢持ったことない奴らって言ったけど、眼鏡くんだって夢あるよ!?


芽賀:え!?僕!?


真戸:眼鏡くんの手触ったことある?めっちゃ大きなペンだこできてんの!ペンだこなんて本気で絵描いてないとできないよ!?眼鏡くんの漫画見たことある?超絵上手いよ!?努力してないと描けないよ、あんな絵!アンタが知らないだけだよ!?


芽賀:真戸さん……。


真戸:あとさ、私、将来日本中の誰もが知ってる大女優になるの!その為に毎日毎日完璧人間演じて、めっちゃスキンケアして、めっちゃ発声して、めっちゃ走って!それでも夢叶うかわからなくて、不安になって泣いちゃう日があって!アンタが知らないだけでしょ!?


野村:……。


真戸:馬鹿にすんなよ……!


野村:……。


変田:ちょっと言い過ぎちまったな、野村。


野村:先生……。


変田:俺にも夢があってな。その為に教師になった。


野村:そう……なんだ……。


変田:夢があったから色んな努力ができた。本当に叶えたかった大切なものだ。


野村:うん……。


変田:お前は自分の夢が叶えられなくなった。そう思ってるか?


野村:あぁ……だってもう野球できなくなったから……。


変田:そうだな。野球できなくなったらプロに行く夢も叶わんよな。


野村:そうだよ……!もう努力すらさせてもらえないんだよ……!完全に終わったんだよ!俺の全てが!


変田:野球以外にやりたいことはないか?


野村:ねぇよ!俺には野球しかねぇよ!


変田:それならまだできることあるだろ?


野村:できること!?右ひじ故障した俺に何ができるんだよ!?


変田:現実から目を背けるな。


野村:うっ……。


変田:な?できることはまだあるだろ?


野村:だからねぇんだって……。何でそんな俺を苦しめるようなこと言うんだよ……。


変田:野村、夢って時に苦しいもんだろ。その苦しい時こそ、逆境に負けないように努力するんだ。


野村:だから俺に今、何を努力しろって言うんだよ!


変田:お前、それ本気で言ってるか?


野村:本気だよ!逆に俺に何て言わせたいんだよ!?


変田:そうか……そこまで腐っちまってるんだな……。まぁ無理もないか……。自分の全てだった物が、なくなったって思ってるんだもんな……。


野村:そうだよ……。


変田:……。さっき俺にも夢があるって言ったよな。


野村:ああ……。


変田:何が何でも叶えたかった。それがあったから来る日も来る日も、寝る間を惜しんで、苦い汁をすすって頑張って来れた。


野村:ああ……。


変田:でもその夢は諦めようと思う。


野村:は……?


変田:今からこれをやったら、俺は教師じゃいられなくなるかもしれないからな。


野村:何言ってんだよ、先生?


変田:もしかしたら俺は本物の教師になりたかったのかもしれないな。生徒の間違いを正して、生徒を導ける教師に!じゃないとこの気持ちに説明がつかない!


野村:先生さっきから意味わかんねぇよ!


変田:お前に教えてやるよ!俺の全てをかけて!!!



変田は勢いよく野村の胸ぐらを掴んで拳を握った。



野村:ぐえっ……!


間根路:野村くん!


真戸:ちょっと!?何するつもり!?


芽賀:先生!ダメです!


変田:俺の夢を背負って!お前の夢を叶えろ野村ぁああ!!!オラッ!!!



変田は力いっぱい野村の頬を殴り、野村はその衝撃で倒れ込んだ。



野村:ぐあぁっ!!!


芽賀:先生!?何で!?


野村:痛ぇ……。


変田:野村!!!俺の人生をかけたアドバイスだ!!!


野村:……。


変田:右で投げられないなら左で投げろ!!!


全員:……。


芽賀・野村・真戸・間根路:はぁ!?


芽賀:ちょ……先生ぇ!!!そんなに簡単なもんじゃないんですよ!!!


変田:何でだよ!!!『メジャーリーガー』の主人公は右投げから左投げに変えただろ!!!


間根路:漫画と一緒にしないでください!!!


野村:あんたそんな無茶苦茶なこと言う為に……自分の夢諦めたのかよ……!!!


変田:え!?そんな難しいの!?違う手で投げるだけだろ!?


真戸:それがめちゃくちゃ難しいのよ!!!


変田:……。あー!!!最悪だ!!!棒に振った!!!人生棒に振った!!!


芽賀:何か話が噛み合ってないなって思ってたんですよ!


間根路:先生!何で野村くん殴ったんですか!?


変田:何でって……野村に野球やってほしかったからだよ!


間根路:あ……。


変田:俺、お前らの夢の話聞いて、皆真剣に向き合ってるの知って、俺の夢は、お前らみたいに、真剣に叶えたいことなのか考えてみた。


間根路:先生、何が何でも叶えたくて努力したって言ってたじゃないですか!


変田:ああ、努力はしてきた。でもな、考えたら後ろめたさがあった。


間根路:後ろめたさ?


芽賀:まぁあるだろうな……。


変田:俺の夢はお前らみたいに純粋な夢じゃなかったんだ。


間根路:それは……どういうことですか?


変田:お前らの夢を聞いて俺の心が動くのがわかった。応援したいって思った。俺もこんな気持ちになるのは初めてだった。それはきっと純粋な気持ちから生まれる夢だからだ。


芽賀:確かに……先生の夢は純粋ではないよな……。むしろ不純極まりないというか……。


真戸:眼鏡くん!先生本気で話してるんだから茶化さないで!


芽賀:えー……あの……ごめん……!


変田:その結果、野村の夢を応援することが、俺の今すべきことなんだなって思ったんだ……!


間根路:それにしたって殴る必要は……。


変田:半端な気持ちじゃ野村の苦しみに向き合えないと思った!


野村:あぁ……。


変田:俺のクソみたいな夢より、野村を導く方が大事だと思った!


野村:……。


変田:俺は後悔してない!むしろちゃんと気付かせてもらえて感謝してるくらいだ!殴ってごめんな。



そう言うと変田は野村に頭を下げた。



野村:……。いいよ……。


間根路:野村くん!?


野村:無茶苦茶だけど、俺のこと思って殴ってくれたのは伝わったよ。


変田:野村……。


野村:……先生、これ貸しな。……俺、今殴られてない。


変田:は?


野村:今日、この部室では何もなかった。


変田:何言ってるんだよ……。


野村:な?そうだよな皆?


間根路:……野村くんが……そういうなら……!


芽賀:僕、何も見てない!


真戸:私も見てない!聞かれても顔色一つ変えないわよ!演技力高いから!


変田:お前ら……!


野村:簡単には夢忘れられないけど、しばらく辛いっていうか……これからずっと辛いかもしれないけど……。なんか先生に勇気もらったわ。


変田:ああ……。


野村:俺、ちょっとだけ野球続けてみようかなって思った。


間根路:え!?もう一度野球やってくれるの!?


野村:まぁ、今まで通りには投げられなくても、手術すればキャッチボールくらいやれるだろ。


間根路:嬉しい!そっか、また野村くんが野球するとこ見られるんだ!


野村:そんなに?


間根路:うん!そんなに!私、野村くんに言ってなかったけど、野球部の皆で甲子園行くのが夢だったんだ。


野村:そっか……それはごめんな……。


間根路:あ、いや、野村くんを責めてるんじゃないよ!今日気付けたの。甲子園行くのが夢だったけど、それは甲子園で野球をする野村くんが見たかったんだって。


野村:間根路……。


間根路:ていうか、野村くんが野球するとこ見てたかったんだ。野村くんが野球するとこ好きだから!


野村:そっか……目指すものなぁんもなくなったけど、野球は続けてみようかな……。


間根路:無理してやらなくてもいいよ!野球してなくても、野村くんのこと好きだから。


野村:ああ……ありがと……な!?え!?は!?


変田:何ぃ!?


真戸:え!?なになに!?


芽賀:それって!?


間根路:あ!え!?流れで言っちゃった!え!?どうしよう!


真戸:間根路ちゃん!いけいけ!続き言っちゃえ!


野村:え!?あの……!


変田:おい、やめ……


芽賀:(遮って)先生は黙っててください!


間根路:野村くん、私と付き合ってください……!


野村:……えー!?マジ!?


間根路:う、うん。マジ。


野村:俺、間根路がずっと支えてくれたから頑張れてたとこあるし……。弁当もいつも美味くて……。授業中目が合った時、同じ空間に居るんだなって、何か幸せな気持ちになれてたっていうか……。


真戸:てことは……!?


野村:よろしくお願いします……!


間根路:え……野村くんー!ありがとうー!


真戸:いやーん!末永くお幸せにー!


芽賀:何この急展開!?


変田:いいなぁ、両想い!!!野村マジで羨ましい!!!


芽賀:あっ……そうだったこの人……!


真戸:先生、彼女いないから羨ましがってんの?


変田:いや、そういうことじゃない!


真戸:嘘つかないの!ふふふ!


芽賀:いやー……本当にそういうことじゃないんだよなぁ……。


野村:何か彼女できちゃったよ……。挫折して、殴られて、彼女できて……何なんだ、今日は……。


変田:まぁそういう日もあるな。人生長いから。夢がなくなる日も、夢ができる日もある。


野村:おかしなもんなんだな、人生って。


変田:ま、そんなもんだ。だからきっと、また新しい夢もできる。


野村:……。ああ、ありがとう。


間根路:野村くんがまた夢持てるように、応援するね。


野村:間根路……ありがとう……。


変田:いやー、しかし真戸の名演説、心に響いたなー!あれがなかったら野村を導こう、なんて思わなかったかもしれない。


真戸:あ、あー……頭に血がのぼっちゃって!つい!


変田:真戸の本性むき出しって感じでよかった!


真戸:あー!最悪だ―!忘れて!明日からまたいつもの私のキャラでいかせて!


芽賀:僕は今の真戸さんも素敵だと思うな!


間根路:そうそう!そうやって感情出した方が魅力的だよ!


真戸:えー……。


芽賀:それにさっき真戸さんが怒ってくれた時、僕の夢が応援されてるような気持になれた!


真戸:いや、応援だなんて……。


芽賀:何かいい漫画描けるような気がする!ありがとう!


真戸:うん……。


芽賀:まずは新人漫画大賞受賞だー!


真戸:……うん!頑張ってね……!


芽賀:真戸さんも、女優になる夢、頑張ってね!


真戸:ありがと!


野村:ていうか、先生もなかなかいいこと言ってたけどな。


間根路:そうそう!


変田:そうか!?思ってること言っただけだからなー……教師としては良くなかったかも……。


野村:いや、今まで出会った教師の中で一番教師だったよ!


変田:野村ぁ……!


真戸:あ、でも私一つ気になったとこあった。


間根路:気になったとこ?


真戸:野村くんの為とはいえ自分の夢をクソみたいって言ってたから。


変田:あ、ああ……。


芽賀:いやまぁ……実際というか……。


真戸:クソみたいな夢なんてないよ!私は先生の夢、応援したいな!


野村:俺も応援したい!


間根路:私も!その……先生の夢って何なんですか?


芽賀:あぁ……それは……。


真戸:夢の為に教師になったって言ってたよね。


変田:いや……まぁ……いいじゃないか……!


野村:よくねぇよ!俺殴っといて!先生、俺に貸しがあるんだからな?


変田:あー……うん……そうだなー……。


芽賀:いやー……皆あんまり聞かない方がいいようなー……。


野村:何でだよ!


真戸:そうだよ!教えてよー!


間根路:教えてください!変田先生!


変田:……。わかった。他の生徒には絶対言うなよ!


野村:言わない言わない!


芽賀:先生!本当に言っちゃうんですか!?


変田:俺の夢はな……


真戸:なになに!?


変田:生徒にわいせつな行為をすることだ……。


野村・真戸・間根路:は?


変田:あの……その為に教師になった……。


芽賀:あーあー!馬鹿正直に!


野村・真戸・間根路:……。


間根路:え?冗談ですよね?


真戸:面白くないよ!先生!


野村:ゆ、ユーモアのセンスどうなってんだよ!


変田:いや、マジマジ。真戸にも間根路にもわいせつな行為したいと思ってた。


野村・真戸・間根路:……。


芽賀:先生、何でマジで言っちゃうんですか!嘘つけばいいのに!


変田:あ、そうか!!!確かに!!!


野村・真戸・間根路:いや、クソみたいな夢だな!!!


変田:あー!!!人生棒に振ったー!!!


芽賀:あーもう……。でもこの展開も、何か変態先生っぽいな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ