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老人と孫娘 ~歩き続ける人生~  作者: にわとりぶらま
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第05話 運命の出会い

 空しかろうが、寂しかろうが、腹は減るし、受けた仕事はせにゃならん。


 わしはカナビスとアスラーが抜けた後を、新人を雇って仕事を続けようとする。だが、カナビスとアスラーの代わりにはそう簡単にはならない。二人なら阿吽の呼吸で出来たことを一々指示しなくてはならない。その度にカナビスだったらアスラーだったらと考えてしまうが、口には出さずにぐっと我慢する。


 二人の代わりなど一日二日で出来るようなものではない。何年も共に昼夜を過ごしてきたから出来る事なのだ。だがもう二人はいない、これからこの新人たちをカナビスとアスラーの代わりに育てて行かなければならないのだ。わしは根気よく新人たちに指示を出して出発の準備を始める。


 そんなわしらの商隊に頭からフードを被ったあからさまに怪しい人物が声を掛けてくる。


「あの…もし、そこの御方…」


 顔が隠れるほどフードを降ろしていたので分からなかったが、声からすると若い女性のようだ。


「なんだい? お嬢さん」


 本当にお嬢さんの年齢かどうかは分からないが、商売上、女性にはそうした言葉の掛け方をしている。


「この馬車はどちらに行くのでしょうか? アドリーには行きますか?」


「アドリー? あのガイラウル地方のアドリーかい? そんな遠くには行かないな」


「では、近くの転移魔法陣のあるところには行きますか?」


「転移魔法陣のある所となると、領地首都になるな…ベルクードのベルナスなら最後になるが寄るな。だが、アドリー直通の転移魔法陣はないから、一度、帝都経由になるな」


 わしの返事にその女性は少し考え込んでから答える。


「それでいいです、私を乗せてもらえませんか?」


 わしはじっとその女性を頭のてっぺんから足のつま先まで見て、そして尋ねる。


「金はあるのかい?」


 フードで身体を覆っているが、話し方や履いている靴から、金持ちか貴族の御令嬢の様に思われた。アスラーみたいな事もあるので、何故、御令嬢がこんなところで一人でいるのかなど詮索はしなかった。


 しかし、わしの言葉にその御令嬢は思い詰めた素振りをしてから、首からペンダントを外してわしに手渡す。


「これでお金の代わりになりませんか?」


 たまにこのような客がいるのでわしは少しは目利きが出来る様になっていたが、手渡されたペンダントは凝った装飾の金で出来た物でサファイアの埋め込まれたものであり、相当な値段がつくであろう代物であった。しかし、かなり年季が入っているというか使い込まれていた節がある。


 わしはチラリと御令嬢の顔を覗き見る。彼女は非常に物悲しそうな顔をしている。恐らくこれは、形見の品か家宝の品なのであろう。


「分かった。これで十分だが、これは預かる事にしよう。目的地に着くなり、後で取り戻したくなったら、正規の金額を払ってくれ。それでいいか?」


「ありがとうございます!! 目的地についたら必ずやお金を支払います!!」


 御令嬢は弾んだ声で答えた。


「では、お嬢さんの名は? 俺はカイだ」


「カイさんですか、私はテレジアです。よろしくおねがいします!!」


 こうして商隊の乗客としてこの御令嬢が乗る事となった。そして、わしらの商隊はベルクードの南の街のオスロープからベルナスに向けて出発した。最初の一日目は何事もなく過ぎていったが、問題は二日目に起きた。


「カイさーん!」


 後ろの馬車の新人が呼びかけてくる。


「どうした!?」


「後ろから、衛兵が騎馬で追ってきます!!」


「衛兵が?」


 こんな感じでたまに衛兵が追いかけてくることがある。大体その場合は、犯罪者が逃亡した時に多い。わしはちらりとテレジアを見る。すると彼女はガタガタを肩を震わせている。


 『この御令嬢は犯罪者だったのか?』 


 そんな思いが頭を過る。しかし、いくら御令嬢が怯えていても、彼女には気の毒であるが、このまま逃げる事は出来ない。そんな事をすればわしらまで犯罪者となってしまう。


「全車止まれ!! 取り調べを受けるぞ! 何も無ければすぐに解放される!」


 わしは後ろの馬車に指示を飛ばし、馬車を停止させる。その様子にテレジアは怯えた目をして私の外套を掴む。


「どうした? 衛兵が怖いのか?」


「い、いいえ…そう言う訳では…」


 彼女はそう言うが、目は泳いでいる。やはり、彼女が追われている様だ。


「すまないが、俺はまっとうな商売をする人間だ。衛兵が止まれというなら止まるし、犯罪者を引き渡せと言われたら引き渡さないといけない…」


 わしの言葉に彼女は唇を嚙みながら項垂れる。


「そこの商隊! その中に若い娘は乗っていないか!!」


 近づいてきた衛兵が声を上げる。


「はい! います! 若い身分の高そうな娘がいます!!」


 後ろの新人が大声を上げて答える。やはり新人だけあって自分自身がかわいいようだ。


「名前は何といっていた!?」


「確か、テ…テレなんとかだったと思います!」


 わしはそのやり取りを先頭の馬車から見ておった。気分の良い事では無いが、こんなこともある。そんなふうに考えていた。しかし、何か違和感の様なものも感じていた。


「そうか、そうか…この馬車に乗っておるのだな…」


 そう言って衛兵は一番後ろの馬車に近づく。


「あれ? あの衛兵、紋章つけてないぞ?」


 そう思った矢先、衛兵が一番後ろの馬車の新人の胸を剣で突き刺す。


「えっ?」


 刺された新人は、自分が何をされたのかも分からずそのまま絶命する。


「こいつら正規の衛兵じゃねぇ!! 逃げろ!!」


 わしはすぐさま手綱を打ち馬車を走らせる。しかし、発車に手間取った二台目の馬車は容易く偽衛兵に取り囲まれ、またしても新人が殺されてしまう。


「この馬車にはいないぞ!!!」


「こっちの馬車もだ!! くそっ! あの男が答えるからてっきり後ろの馬車にいるとおもったのに!!」


 偽衛兵たちは、二台の馬車の中にテレジアがいない事に気が付き、わしの馬車を追ってくる。


「だめだ! このままでは追いつかれる!!」


 二台の馬車の確認に手間取っていても、相手は騎兵、こちらは馬車だ。すぐに差が縮まってくる。


「テレジア! ちょっと手綱を代わってくれ!!」


「えっ!? 私、馬車なんて運転してことがないですよ!!」


「いいから! ちょっと、持ってろ!」


 わしはテレジアに無理矢理手綱を握らせて、馬車の荷台にうつる。そして、衛兵を目掛けて次々と荷物を投げていく。


「大事な荷物だが、命には代えられねぇ!! それに少しでも軽くしないと!!」


 手に掴めるものは投げて、掴めない物は足で蹴とばして落とす。偽衛兵たちに直撃はしないが、騎馬でそのままぶつかれば転倒してしまうので、偽衛兵たちは荷物を避けて速度を落とす。


「このままではマズいな…おっとこれは捨てられない…」


 最後に手に持っていたのは、わしが冒険を始めたころから使っている旅道具の入ったリュックであった。


「ねぇ!! カイさん!!」


「どうした!? テレジア!」


「ままままえに川があります!!!」


 その言葉に振り返ると確かに進行方向に川があった。


「マズイ!! 他に何かないか!?」


 わしは必死に逃げ道を探す為、目を皿のように見開く。


「カイさん!! あそこに橋があります!!」


 テレジアが指差す先を見てみると、この辺りの村人が使っている、人一人が漸く渡れる様なつり橋があった。


「仕方がねぇ!!」


 わしは覚悟を決めると、リュックを背負い、馬車の御者台に向かう。


「ど、どうするんですか!?」


「ちょっと、待てよ!」


 わしは御者台から馬の上に飛び乗る。


「ひぃっ!!!」


「よし!! なんとか飛び乗れた! 次はテレジアだ! 捕まえてやるから飛び乗ってこい!!」


「で、できませんよ!!! そんなの!!」


 テレジアは顔を青くして首を横に振る。


「殺されてもいいのか!?」


 この言葉でようやく彼女は覚悟を決める。


「ちゃんと捕まえてくださいね!!」


「あぁ!! もちろんだ!!」


 そういって、テレジアは飛び跳ねるが、勢いが足りずに馬の尻にぶつかりそうになる。


「くっそ!!!」


 わしは咄嗟に手を伸ばし、テレジアの手を掴み、一気に引き上げる。


「し、死ぬかと思いました…」


「まだ、安心はできねぇ!!!」


 わしはそう言うと、ナイフを抜き、馬車と馬とを固定する革帯を切り裂いていく。


「よし!! これでいいぞ!!」


 わしたちを乗せた馬はそのままつり橋を駆け抜けていき、馬車はその橋の入口を塞ぐようにぶつかる。


 こうして、わしらはなんとか難を逃れたのであった。



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