お留守番
リザは、私にたくさんの質問をしてきた。
「好きな食べ物はなぁに?」
この問いに対して答えを用意することはできない。私はまだ食事という行為を行っていない、そのため食べ物の種類も味も、何も知らない。故に答えられない
「どこから来たの?」
そういえば、私は自分が生まれた場所の情報を持っていない。現在の情報のみで答えを用意すると「フェルグスの家」という私にしか分からない答えになってしまう。故に答えられない。
「……今何歳なの?」
「時間にして、二時間前に覚醒しました」
リザは凄く難しい顔をしていた。先程までの笑顔が、ほんの数秒の質疑応答でこんなことになってしまうとは。
「……あなたって、あなたの事何も知らないのね。体が大人みたいに大きいくせに、子供みたい」
リザは私を見た後にため息をつき、地面に足を付けて立ち上がった。
「……これじゃあ私の方が大人みたいじゃない」
やけに声のトーンが低かった。
「実際に生体活動を行っている年数から考えれば、貴方の方が大人と考えるのが妥当なのでは?」
「そう言う事を私は言ってるわけじゃないの! 私の体は小さいけど、お人形さんの体は大きいでしょ? そんなに大きな体で子供のままだと、恥ずかしくて顔が真っ赤になっちゃう」
理解に苦しむ判断だった。人間の尺度で考えれば自分は生まれたての赤子のはずだ、言葉を喋り二足歩行を行えるという観点では、「天才」と呼ばれても良いはずだ。
……と、少し熱くなってしまった。たかが人間、それぐらいの判断が行えるだけでも評価するべきなのだろう。「感情」を疑似的にしか搭載していない私に、「感情」に「生きる」人間の判断は分からない。
(……「生きる」というのは効率だけではないのかもしれませんね。フェルグスは人間、つまりは人間の「生きる」を遂行しなければならない)
命令遂行の必要事項に「感情の理解」を追加した。次々に増えていく追加命令……一日が終わる頃にはとんでもない量になっているかもしれない。
……「生きる」の達成難易度を「C」から「B」に変更。まだ難易度が上昇する恐れあり。
「まぁ大変! もうこんな時間!」
リザの甲高い声。聴覚を司る機関が一瞬おかしくなる。
「お人形さんごめんなさい! 私これからお仕事があるの……後でお礼はするわ、お留守番お願いっ!」
バケツに入った水で自分の膝の血を洗い流し、リザは私の返答を聞かないまま外に飛び出していった。
「……」
ガチャン。閉鎖された部屋の中で、私は「お留守番」の命令を遂行するかしないか……悩んだ末に、遂行することにした。別におかしなところはない、ロボット三原則に従ったまでだ。




